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寓話体質

私は下戸である。コップ一杯の酒でひっくり返る身体の仕組みを持っている。しかし私は酒が無類に好きなのだ。正確に述べるなら酒の席が好きなのだろうけれども、その好きな酒の席で烏龍茶を未練たらしくグビる気はさらさらない。まずはビール。こいつは効く。すぐに顔が茹蛸のように真っ赤になって誰にでも分かりやすく下戸であることの肉体の主張が始まる。もちろんこの時点で尻込みして烏龍茶に逃げることもできるが、私はビール党に所属しているのでもう一杯は必ず飲む。一杯目は居酒屋の神に捧げて、二杯目は、二杯目はビールジョッキのガラス生産者にでも捧げよう。難なく乾杯。既に目が据わる。私は基本的に世直しからみ酒といって、気に食わない奴を肴にして呑むものだから、気に食わない奴と呑まないとストレスが嵩む。わりい子はいねが。ナマハゲのように据わる目でサーチする。いねえ。わりい子いねえ。しくしく泣けてくる。ナマハゲはもしかすると私と同じ下戸のからみ酒系の人間なのかもしれない。顔を真っ赤にさせて暴論が言いたいという病気をもった。こうなってくると戦況は悪化の一途を辿る。酒で開かれた狂気を酒で閉じる作業に移行する。生マッコリ。ウイスキーのソーダ割。火酒。珍しい焼酎。幻の日本酒。何杯でもいける。脳は溶けかかり、舌はもつれる。冷却水の枯れたエンジンが焼き切れそうだ。頭の中のヒットラー総統が大演説を始める。ジークジオン。万雷の拍手。ここで酒の席、魅惑の忘年会のお開きだ。命拾いしたぞ。私はお手本のような千鳥足で歩き、あらゆる善意の手からするりと逃げ出す。考えてみれば。男ばかりの職場を選んで正解だった。私はチャーミング過ぎて女性の母性本能をくすぐってしまうというもう一つの天与呪縛を持っているので、前の会社に在籍していた時は会社のマドンナから付き纏わられて難儀したものだ。酒は魔物じゃない。魔物が酒を飲んで本性が炙り出されるだけだ。ヒットラー総統は主張する。魔物が何かをしてくれるのではありません。我々が魔物に何で報いることかが重要なのではないでしょうか。テレフォーンなる器械は魔物に仕える眷族の中で最も悪い闇の戦士である。私は電話をする。相手は誰か。それは誰でもいい。霊媒師だろうと占い師だろうと、私の魔物を鎮めることはできない。電話のお相手のリカちゃん人形は言う。今から来ますか?私はついに見つける。肴としての虚無。寓話としての下戸体質。こいつがブラックホールの正体だ。ちびた善意も正義の演説も全ては藪の中に飲み込まれる。月がふやけて滲みながら空に張り付いている。震える手でチャイムを押す。少し厄介そうなフリをする相手の唇に吸い付いてみる。ひどい匂いですよ。女の知性。女の胸。女の尻。女の足首。細長く柔らかな指。銀河は生まれやがては消滅してブラックホールになる。何ほどのこともない。だから私の下戸は永遠に詐病なのだ。

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