一週遅れの映画評:『オーバーエベレスト 陰謀の氷壁』雪山よりも怖いのは
なるべく毎週月曜日に映画を観て、一週間寝かしてツイキャスで喋る。
その内容をテキスト化する再利用式note、「一週遅れの映画評」。
今回は『オーバーエベレスト 陰謀の氷壁』です。
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映画、というのは多岐にわたる魅力を持ったメディアだ。ストーリー、演出、映像、テーマ……その中には当然「俳優」も含まれる。その全てを不足なく満たすのは――時としてそれを成し遂げた奇跡のような作品もあるが――不可能に近く、そこには取捨選択がどうしても起こる。
今回の『オーバーエベレスト 陰謀の氷壁』は、その俳優の魅力を余すところなく見せるために結果として「イメージの世界で、イメージの悪と、イメージの美男美女が争う」という、実にふわっとした質感で全てが進行していく。
ヒマラヤ一帯の平和を維持するため周辺諸国が重要な国際会議、それを数日後に控えた中で民間山岳救助隊「チーム・ウィングス」にインド政府高官からの依頼が舞い込む。ヒマラヤ山頂付近に墜落した飛行機を捜索し、そこに残された機密文章の回収をするというものだ。
本来は人命救助以外の依頼は断るチーム・ウィングスだが、平和会議を揺るがしかねない機密文章であることと多額の報酬が支払われることから依頼を受ける。新人女性隊員シャオタイズに加え、依頼者である二人のインド高官を引き連れたチーム・ウィングスは墜落地点と思われるエベレスト山頂付近、それもこれまで多くの登山者の命を奪った「デスゾーン」と呼ばれる危険領域を目指して出発する。
しかし!インド政府関係者と名乗る二人の正体は「武器商人」であり、機密文章を手に入れることで平和会議を破綻させ緊張状態を作ることで武器の需要を増やし大金を手にしようとしているのだった。その事実に気づいたシャオタイズらは危険なエベレストの「デスゾーン」で、彼ら武器商人と対峙することを選択する。
果たしてヒマラヤの平和は守られるのか、助けの期待できない極地で命を賭けた戦いを繰り広げるチーム・ウィングスやいかに!?
まず一番に衝撃を受けるのは、エベレスト登山へ普通についてくる武器商人たちの存在。エベレストですよ?世界最高峰ですよ?もちろんシェルパと呼ばれる現地人登山ガイドがいたりと、実際にサポートを雇ってエベレスト登頂を目指す方は大勢いらっしゃいますけど……その体力と気合と命のかけっぷりには驚きを隠せない。
そして平和会議をひっくり返して戦争を起こせるほどの「機密」について詳細は一切不明。「とにかくそれを手に入れれば戦争を起こせる」という確信のもとに書類奪取へ向かう武器商人たち。
これまで200人以上が死亡し、その遺体すら満足に回収することすらできない「デスゾーン」。山岳救助の経験をつんだチーム・ウィングスでも当然無事では済まない。最終的には登場人物のおよそ8割が死亡してしまう。
ただ死因が「銃で撃たれた上、ピッケルで頭を刺される」「背後から鈍器で殴られる」「ピッケルで腹部を刺される」「ピッケルで腹部を刺される(二人目)」「ピッケルで刺されて落下」「凍死」「ピストル自殺」と、完全に「エベレスト怖い」というよりも「ピッケルぱねぇ」といった印象をねじ込まれる。ピッケルは銃より強し。
私の中で「ピッケルで殺されたのはトロツキー」から、「エベレストではピッケルで死ぬ!」に認識が更新された日として記憶に残るでしょう。あと死んだうちの二人はエベレストに登ってすらいねぇし。
そのような危機的状況が繰り広げられているとは知る由もないチーム・ウィングスのヘリコプターパイロットのハン・ミンシャンは、のんびりとエベレストのベースキャンプにヘリを停め帰還の合図を待つ。待ってるだけなので上半身裸で日光浴をしながらバーベキューをしたりする!
登山前の地上では気温が低いためにもこもことした服を着込んでいるが、標高5000メートル付近のベースキャンプでは上半身裸でさんさんと日光を浴びるのだ。なぜなら中国のイケメン俳優である林柏宏のセクシーな肉体が拝めるからである。
突風吹きすさぶエベレスト山頂にて武器商人と対決する新人女性隊員シャオタイズ。寒すぎて武器商人の持ち込んだ銃は凍って使えず、当然のように互いのピッケルが火花を散らしてぶつかりあう!そうご存じのようにエベレスト最強兵器はピッケルなのだ!
必死の形相で戦うシャオタイズを演じているのは美人女優の張静初、細い首筋も大変に美しい。エベレスト山頂で突風が吹いてるということは気温がマイナス50度~70度ぐらいなのではないかと思われるが、もちろん素顔は剥き出しだ!「体を温めるには血管の太いところ、例えば首とかを温めます」と聞いたことがあるけど、白く細いキレイな首筋を見せるためなら防寒なんて考えたらダメよね!昔おすぎさんが言っていた「オシャレは我慢」って、オシャレのためならエベレストでだってセクシーが優先!たぶん死ぬけど我慢しろ!
あの、せめて額にあるゴーグルはどっかに捨ててくれませんかね?無いならしょうがないけど「あるのに使わない」のはちょっと事態を飲み込むのが難しくなってしまうので……。
全体としてエベレストという山が実在ではなくファンタジーな「エベレスト」であり、そこからイメージできる危険性、イメージされる武器商人の動機、イメージの平和と戦争と機密書類、美男美女の顔や体は演出上のイメージです。といった思い切りで駆け抜けて一本作品を作ってるのは「「「「剛腕ッッ!!」」」」としか表現できないでしょう。
正直めちゃくちゃ面白かったです。劇場で笑いを抑えるのに今年一番苦労したかもしれません。
あ、あと急に「ヨガ」と言い出すのは『カンフー・ヨガ』を思い出した。これらが同じ枠の作品であるのは間違いない。
……といったように基本的にはバカ映画枠ではあるのだけれども、ならばぜそんな「ファンタジーなエベレストを舞台にしなければならなかったのか?」という疑問が湧く。もっと簡単で面白い舞台設定があったはずだ。
そこを考えると中国と日本の共同制作ということで、政治的なものの姿が見えてくる。作中でヒマラヤ周辺の平和会議をご破算にしようとする勢力を撃退するのが「中国」の俳優である、ということだ。
それはこの地域の平和を維持しているのは「中国である」という意味であり、ヒマラヤ周辺諸国のひとつ「チベット」の問題を意識しないわけにはいかない。中国によるチベット支配について個人的には「非常に不当であり、いますぐ侵略と弾圧をやめるべきだ」と考えている。
だが本作では「チベットを含むこの地域の平和は中国によって為されている」という政治的プロパガンダを誘導するものとなっており、そういった印象操作の恐ろしさを隠し持っていることは間違いないだろう。
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