知的資産経営に適した経営者
第2章知的資産経営の進め方
1.知的資産経営に適した経営者とは
知的資産経営の進め方に入る前に、まず経営者自身を考えてみたいと思います。
目に見えない知的資産を扱う、知的資産経営を進める原動力になるのは、どのような経営者なのでしょうか。今までに無い、新しい考え方を取り入れるのは、やはり若さが必要だとよく言われます。それならばやはり若い経営者ということになるでしょうか。
筆者は、若さは必要であると考えますが、それは単に暦上の年齢が若いことを示しているとは考えません。
第1部でご紹介した山田方谷は、改革に取り組んだ年齢が満45歳~50歳代前半でした。当時の平均寿命を考えると、年齢が若いとは、とても言えないと思いますが、誰も思いつかないような、過去の常識では測れない改革を成し遂げました。
現代の経営者においても、目に見えない経営要素を扱う知的資産経営に必要なのは、精神的、あるいは考え方の柔軟さという意味での若さでしょう。
もしその若さを持っていることができるのならば、経営者は人生のベテランほど、知的資産経営には望ましいと考えています。
なぜなら、ベテランであるほど人脈が豊かであったり、さまざまな分野を経験していたり、社会常識として、いろいろな経済社会動向を見てきたという歴史があるからです。こうした経験は、いくら有能であっても若い世代の方には、とうていまねすることができないものです。
もう一度、山田方谷について述べれば、彼の両親は、彼が15歳の時に亡くなっていますので、若くして家業を継ぎ商売を行いました。この時、彼は菜種油の値段の差や、米相場の変動を利用した投機を行っています。
この経験が、大阪蔵屋敷の廃止により取り戻した米で利益を生み出し、藩札刷新に役立ったと言えます。また、武士は、農民への課税を重くするということしか頭に無い中、彼は、学問を通して中国の財政政策を学んでいました。
つまり、こうした人生経験や学びが、大きな利益を生み出す力になったと言えるのです。
一方、逆に若い経営者であるならば、新しい科学・通信技術の動き、社会のニーズ、消費者の観点に敏感に反応できる世代だといえます。もしこの若い経営者が、社員の中にいる人生のベテランの経験や知識・知恵をうまく汲み取ることができれば、それは大きな力になるに違いありません。
知的資産経営とは、一言で言えば、目に見えない人と人(会社と会社)の絆や経験・知恵を経営に生かしていこうとするものですから、それをうまく汲み取る経営者としての器と、一見無関係にも感じられるさまざまな要素を結びつける、柔軟な発想ができる経営者こそ知的資産経営にふさわしい経営者であるといえるのです。
この記事は、「知的資産経営の実践」大学教育出版 2014年初版
から抜粋・追記して記載しています。データ等は当時のものです。
上記に記載の山田方谷については、後日掲載する予定です。