太陽光発電のリスク
この記事は、太陽光発電に関することを学び、新しいビジネスをスタートする、または、その点検を仕事にしてみたい、というイメージをお持ちの方のために、当時の目線を交えながら、再生可能エネルギーの全量買い取り制度が始まったころの動きと、その後現実化した多くの問題を振り返り、今後について考える材料にしようとするものです。技術関係者でなく、事業主の方にも振り返りもかねてお読みいただければと存じます。
1.FIT制度のスタート
再生可能エネルギーの全量買い取り制度は平成24年7月1日にスタートしました。
平成23年3月11日の、震災・津波と福島原子力発電所の事故を受けて、原子力発電所に反対する世論が強まり、再生可能エネルギーへの転換を図るべきだとする声も、この制度スタートを後押ししたように感じます。
大型のメガソーラー建設計画が、大企業を中心に全国で次々とスタートする一方で、個人としても従来の自宅屋根に設置するのではなく、さらに大きな規模のものを設置する人も増え、また、市民活動としても共同して設置しようとする動きもありました。
この記事では、太陽光発電や電気に詳しくない個人、経営者の方および金融機関でそうした方への融資をご担当される方のために、一般にあまり注目されることのないリスクについてまとめています。
電気の基礎知識
(1) 一般論
①直流と交流
直流・・電気の大きさや流れる向きが一定(電池)
交流・・電流や電圧の大きさ向きが周期的に変化する(家庭用電気)
電圧を変圧器を使って変化させることが出来ます。
高い電圧で送電することで送電時の損失を減らせます。
交流は発電しやすく、扱いやすいのですが直流に比べ損失が大き
く、電波障害等の問題があります。
②東日本と西日本でなぜ周波数が違うのはなぜ?
明治時代に、東日本はドイツ製の50Hzの発電機を、西日本はアメリカ製の60Hzの発電機を輸入しそれぞれそれにあった製品を作ったため2種類が現在も残っています。境目では3箇所に周波数変換所が設置されているおり、この周波数変換所建設は原子力発電所程度の費用がかかります。かつては東西に引っ越しするとき製品を買い
換えたり、部品交換が必要でしたが今は、ほとんどの製品が両地域で使用できるようにされています。
③ 基本的な単位と公式
A(アンペア) 電流を表す。 V(ボルト) 電圧を表す。
W(ワット) 電力を表す Ω(オーム) 抵抗を表す。
K(キロ) 1000倍 M(メガ) 1000k
kWh(キロワットアワー)電力量:電力使用量
VA(ブイエー)(ボルトアンペア)電気機器の電気的大きさを表す。
オームの法則 電圧(V)=電流(A)×抵抗(オーム)
関係式 電力(W)=電圧(V)×電流(A)=電流の二乗×抵抗
固定価格買い取り制度
(1)固定価格買い取り制度の基本的な仕組み
再生可能エネルギー全量買い取り制度は、自然エネルギーの新たな普及制度として平成24年7月から行われたもので、自然エネルギーにより発電された電力を電力会社等に全量買い取るよう義務づける制度(特定契約)です。電力会社はこれを、一般の電力料金に上乗せさせて徴収(賦課金(サーチャージ)制度)します。
電気事業者に対し、再生可能エネルギー発電事業者から、政府が定めた調達価格・調達期間による電の供給契約(特定契約)申込みに、応ずるよう義務づける一方、政府による買取価格・期間の決定方法、買取義務の対象となる設備の認定、買取費用に関する賦課金の徴収・調整、電気事業者による契約・接続拒否事由などを、併せて規定しました。
(関係法令)
電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法(以下「法又は再エネ法」という。)
および同法にもとづく経済産業大臣告示および関連する政省令
*電気事業者とは、一般電気事業者、特定規模電気事業者をいう。(法第2条1項)
(2)固定価格買い取り制度の対象
国による設備認定を受けた設備で、以下に該当するもの (法
第2条4項)
・太陽光発電(大規模な発電事業用を含む)
・風力発電(小型・洋上風力も含む)
・中小水力発電(出力3万kW未満)
・地熱発電
・バイオマス発電
(3)買い取りの範囲
住宅等における小規模な太陽光発電(10kW未満)は「余剰電
力」の買取りとなる。太陽光発電(10kW以上)の場合は、「全量買取」または「余剰分の買取」のいずれかが選択できる。
*設備の大きさは、契約する発電設備の太陽電池の出力値またはパワーコンディショナーの出力値のうちいずれか小さい方の値とする。
*制度がスタートした時のルールです。
(4)買取価格の算定方法(以下を基礎とする)
①効率的に事業が実施された場合に通常要する費用
②1キロワット時当たりの単価を算定するために必要な、一設備当たりの平均的な発電電力量の見込み(「当該供給に係る再生可能エネルギー電気の見込量」)
③再生可能エネルギー導入の供給の量の現状
④適正な利潤
⑤これまでの事例における費用
この算定プロセスにおいては、以下2点へ配慮する。
・施行後3年間は利潤に特に配慮する
・賦課金の負担が電気の使用者に対して過重なものとならないこと (※) 法律上、再生可能エネルギーの導入目標や導入見込量に基づいて買取価格を定めることとはされていない。
(5)買取価格等の適用時期
接続契約の申込みの書面を電気事業者が受領した時、国の設備認定時のいずれか遅い時点を基準時として当該年度の調達価格・調達期間を適用する。 (調達期間の起算時期は、電気の供給を開始した時点から)。
(6)工事費の負担
認定を受けた太陽光発電等の設備が以下のいずれにも該当する場合(詳細省略)、当該設備(パワーコンディショナー等)について同一敷地内(需要場所)の他の設備とは別に、電気の契約を締結する。(特別措置の適用)
なお、特例扱いに伴って電力会社が引込線等の供給設備を施設することにより生じる工事費の全額の負担が必要になる。
事業用太陽光発電設備の構成
2.リスク
現在の太陽光発電事業の多くは、再生可能エネルギーの全量買取制度(FIT)により全国で盛んに行われているものです。この事業の特性について、誤った思い込みをしている人も少なくないため、本稿では、お客さまを支援する金融機関として理解しておくべき点、特に気づきにくいリスクを整理しています。
(1).太陽光発電事業の一般的理解(業者がPRしていたこと)
20年間売電収入を得ることが出来る
メンテナンスフリーだから面倒がない
年利回りは10%以上だ
メーカー保証があるし、
保険に入れば心配がない
(2)太陽光発電事業のメリット
① 売電収入(売上)を合理的に見込むことが出来る。
② 売れ残りも在庫もない
③ 長期間安定的に収入(売上)を発生させると考えられる。
④ 戦後の米相場とこのFIT制度ほど確実に儲かるモノはなく100年に一度のチャンス
⑤ メンテナンスフリーだから維持費用はほとんどかからない
⑥ 年利回りは10%以上だ(イニシャルコストをいかに抑えるかがカギ)
⑦ メーカー保証があるし、保険に入れば心配がない
3. 事業に影響を与える要因
太陽光等発電事業で売電売上低下の要因になる、あらゆることがらを想定して、その対策を行うものであるとします。以下に発生の可能性があるものをまとめて記載します。
(1) 事業がはじまらない
・土地の買収、契約不調
・電力系統の容量不足
・電力会社の負担金請求が過大
(2) 事業が進まない
・物の納品が遅い、止まった
・事業者が逃げた、倒産した
・発電施設は出来たが、電力系統につなぎ込めない
・設置ミスによる手戻り
・金利負担が上昇
(3) 設備の損傷
・自然現象
・電気事故
・機器の故障
・第三者の加害
・設備による第三者の被害
(4) 資金の流れ
・売電収入による資金の流れに問題が生じた
(5) 企業の倒産
・メーカー、事業社、共同事業体参加企業の倒産
(6) 土地・建物の売却、譲渡
・地権者、建物の持ち主が譲渡、売却した(売買は賃貸借を破る)
ブローカーが複数人からんでいて多額の金銭を要求した
(7) 地主・持ち主の相続
・地主・建物の持ち主に相続が発生した。
(8) ランディング
・20年後の土地売却
・20年後の土地利用
・更地に戻す費用
・法律の改正
これらの事柄は、いずれも考えなくてよいものはありません。不確定要素が多く、また幅広いため、何をどう考えていくのかが分かりにくく、どのようにまとめるのかも容易ではありませんが、分かりにくいが故、あらかじめ考えておかなければならないと言えます。
4. 設備に影響を与える事象
本稿は太陽光発電事業に影響を与えるすべての事柄を対象していますが、対策や取り組みについての検討を行いやすくするため、この事業に伴うリスク分類し、静的なものと動的なものに分けてその対策を考えます。
ここで静的なものとは長期間に渡り徐々に劣化が進むもの、あるいは危険性が高まるものをいいます。これは、定期的に適切な管理を行うことで事業への影響を低減させることが可能なものではありますが、人体における慢性疾患のように悪化すると、大きな影響を与えるものです。これには、地盤沈下や雨水の抜け道がないことによる法面の崩落、あるいはパネル性能の低下などが考えられます。
次に、動的なものとは突発的に発生するものを言います。主に自然現象により発生するもので、これには、ある程度の事前予測が可能なものと予測が困難なものがあります。
ある程度の予測が可能なものとは、発生する事故・故障は突発的ではあってもそれを発生しないように準備し被害を抑えることが出来るものです。たとえば、樹木の接触により電気事故が発生する場合を考えると、巡視時に気がつけば事前に伐採を行うなどの対策がとれます。また、台風の襲来が予想される場合は、臨時巡視を実施し、飛来物対策や周囲の状況を確認し、必要な
対策を行うことで事故発生の可能性が低減できます。
他方、予測が困難なものとは、文字通り事象が起きてから対応を余儀なくされるもの、または、予測できてから事故が生じるまでの時間が短く対策が間に合わないものなどです。
(1)静的なもの(長期間で性能低下が発生する)
樹木の接触(強風が吹いたときを予想する)
つたの接触(電柱に巻きついているのを見逃した)
ヘビの接触(蛇が侵入しやすい環境を見逃した)
地盤沈下(小さな沈下を重視しなかった)
法面崩壊(雨水の流れ具合を注視していなかった)
架台のボルト・ナットのゆるみ(本来壊れなくても良い強さの風で破損する)
パネル・パワコン・ケーブル・端子の性能低下
(2)動的なもの(突発的なもの)
① ある程度予測可能なもの
大雨、台風、高潮、塩害、降雪、盗難、子供の侵入、中小動物の侵入、回路の過熱
② 予測が困難なもの
地震、雷、竜巻、爆発、噴火、類焼
(3) 長期的な管理運営
売電収入に影響を与えるすべての事象とは、私たちが設置し、運転管理する施設が太陽光発電施設であるとしても、その太陽光発電施設に発生する事象だけが「すべての事象」ではありません。
例えば構内に土砂崩れにより土砂が流入する場合や、法面崩壊による地盤沈下を思えばフェンスで囲われた内部が原因ではなく、そこに現れるのは結果であるからです。同様に、パネル、パワコン、キュービクルで発電された電力はそれだけでは売電できなません。接続された電力系統が健全であってはじめて売電が可能となります。
そうであるなら、関係する電力系統の設備や周囲の状況にも無関心ではいられません。つまり、電力会社と協力してこうした設備の健全性も保つ必要があるのです。具体的には、配電設備への樹木の接触、近隣での住宅建設等に注意を払うなどになります。
また、発電施設近隣の子供が、発電施設内に入り感電やケガをした場合に、安全管理の手落ちにより損害賠償を請求されるというケースを考えれば、単に柵を設けるだけでなく、その柵が子供の目で見ても容易に入れないようなものである必要があり、設備の設置や管理を適切に行うだけでなく、近隣の学校・幼稚園、町内会への周知等、地域と協力して災害を防ぐ手段をとる必要性があることが認識できます。
太陽光発電設備での管理運営の目的は、被害の発生頻度を小さくすること、被害の範囲を狭くすること、被害が継続する時間を短くすることになります。
このうち、被害の発生頻度を小さくするとは、一定の事象が発生しても、すぐには事故や故障につながらない設備を構築することになります。それは、場所選定とその場所の状況に合わせた適切な設計と確実な施工、早めのメンテナンスなどがその対策となります。
次に、被害の範囲を狭くするというのは、投資の世界で良く言われているように、「一つのカゴに卵を入れない」という考え方で、仮に事故や災害があってもその発生する範囲を限定的にしようとするもので、言い換えれば一定の考え方による分割ということになります。
最後に、被害の継続する時間を短くするとは、事象発生から現場到着、現場到着から発見、発見から復旧までの時間をそれぞれどのようにして短くするかを検討していく事を指します。
また、損害賠償を請求し、それを保険会社に認めてもらうには、具体的なエビデンス(証拠資料・証明資料)が必要になると思われます。従って、どのような事象が生じたのか、その原因は何であったのかが分かるような資料を用意するにはどうするのかという考え方が必要になります。
5. モニタリングについて
FIT制度が始まってすぐ、大手企業の関連会社の担当課長から、その会社の遠方監視システムの説明を受けました。その監視システムとは、発電量だけを把握し伝送するもので、24時間監視をしていて、もし異常があれば2~3営業日後(平日)に契約しているその地区の会社の担当者が現地を確認するという内容でした。
イニシャルコストはそれほど高くはありませんでしたが、月々の支払い料で継続的に儲けるビジネスのようです。この会社では、電気保安会社が漏電監視装置を付けていて故障があれば2時間以内に駆けつけるというルールをご存知ないようです。(漏電監視装置で監視できる範囲は概略図をご参照ください。)
太陽光発電設備には日曜日も正月もありません。1メガワットの発電設備が3日停止するとは、約30万円の電力の売上げがゼロになることを意味します。ですから、気が付いたら運転していなかったというのは許されないのです。
また、ほかの事業のように、「今月は実績が悪かったから、来月は残業でもして全員でがんばろう」などと、後で取り戻すことも不可能な事業ですから、適切なモニタリングを行い、不調を早めに把握し適切な対策を行うことが事業者にとっても金融機関にとっても必要不可欠なことであると言えるのです。
6. 正しい理解のために
最後にまとめとして、冒頭の一般的理解についてのコメントを記載しておきます。
・ 20年間売電収入を得ることが出来る
権利関係が不明確な場合は、継続できなくなる可能性もある。適切な法的対策や、倒産隔離スキームの利用を検討するとともに、事業者の本業の状況や経営者の考え方が重要になる。
・ メンテナンスフリーだから面倒がない
地熱発電、小水力発電、バイオマス発電等、他の再生可能エネルギーによる発電方法に比較すればメンテナンスは少ないが、事業の安定のためには適切なメンテナンスルは不可欠である。
・ 年利回りは10%以上だ
事業者にはイニシャルコストを低くし、見かけ上利回りを大きくしているケースが見受けられるが、発電設備の完成は終わりではなく事業の始まりであり、不完全な設計・施工であるなら、長期間にわたり負債を抱えることにもなる。
・ メーカー保証があるし、保険に入れば心配がない
パネルメーカー保証に取り替え費用は含まれない、保険であっても逸失利益が補填されるケースは少ないと考えられるため、いざとなると事業者の本業がものを言う。
FIT後半戦の太陽光発電戦略: 10年間の具体的事例が導く成功の鍵
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