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鉄塔敷地の倉庫

電力の技術系・事務系の現場経験などから学んだ『現場力』に関係する記事を掲載します。「現場力」が無いことで、事故を未然に防ぐことができず、対応にも失敗します。
よく知らないという、自分の内部にある恐怖心が対応時の冷静な判断を狂わせることにもなるのです。


電柱敷地とパトロール

送電部門に在籍していた時、新入社員が現場に配属されてきたので、一緒に車で行う巡視(パトロール)に行きました。その新入社員のリーダー(年齢の近い指導役の先輩)も一緒です。

巡視では、電力設備や敷地などに異常を発見したら、「異常票」というものを記録して、上司に報告します。

新入社員にとっては初めてのパトロールですので、なんとか異常票を書くような状況を見つけたいですが、毎週誰かが必ず行っている巡視のコースですから、そんなに異常の状況が、そうあるわけはありません。

土地が陥没しているとか、近くで家を建て始めているとか言うようなことならあるかもしれませんが、通常、市街地ではめったに陥没は生じません。住宅建築の着工ならあるかもしれません。

そう思いながら、鉄塔を見ていると、鉄塔の塔脚に接近した形で、倉庫のようなものがあります。

ちょうどその頃、私は別の仕事として、主任から「鉄塔本体から一定の距離のところまでが、会社の土地(鉄塔敷地)だ」という指導を受けながら、データを図面化していました。その話から考えると、今見えているのは良くない状況だと言えます。

しかし、その倉庫は最近建ったものではありませんでしたし、先輩方も毎週巡視しているのだから、別に問題はないのかもしれないとも思いました。

それでも、異常票を書く練習になりますから、新入社員に書かせて、別に問題がないものであれば、それはそれで勉強になると思いました。
会社に帰り、新入社員と一緒に異常票を書いて、上司に報告しました。

「毎週誰かが巡視しているのに、今まで誰も気づかなかったのか」
課長はすぐに課の全員を集めて注意を促しました。
明らかに、あってはならない建物だったのです。

「誰かが気づいているはず。」そんな思い込みが、今まで多くの先輩の目をふさがせていたのかもしれません。

目に入っていても、見ようとしなければ見えないことは、よくありますね。

 

現場力を身につけるには

事故事例など、過去に生じた事例を学ぶことは大切だと思います。しかし、短時間で多くを読んだり、一言の教訓にしたものばかりを見ても、本当の意味での現場力は身につきにくいと思います。

事例の背景や、その頃の他の出来事、周囲の状況などが組み合わさって、例えば事故対応時に誤った判断をしてしまうことがあるからです。
”清書”された事故事例集の完成文は、どこか現場の印象と距離が生じ、コメンテーターの発言のようになってしまうので、評論は出来るようになっても、新たな問題を感じ・見つけ・対応する現場力は身につきにくいと思います。

このnoteでご紹介するのは、重大な事例ばかりではありませんが、そうした現場の肌間隔もお伝えできればと思います。
重大なことにならずに済んだ事例は、他の人には印象に残らず、見落とされがちですが、実務では、問題が発生してから大慌てで対策するより、未然に防止した事例にこそ、最も重要な内容を含んでいるのかもしれません。

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