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太陽光パネルはどれほど高温になる?

太陽光発電(Photovoltaics、PV)とは、光起電力効果を利用して、光エネルギーを電気エネルギーに変換する太陽電池(半導体素子)を用いて、太陽光を直接電気に変換する発電方法です。ほんの10年前まで、珍しかった太陽光発電設備は、全国の各地に大小さまざまな設備が多数増え、住宅の屋根や店舗等の屋上にも設置されるなど、一般的なものになりました。

FIT制度(固定価格買い取り制度)が始まった当時は、太陽光発電設備は無点検無保守でよい、などと言う営業も行われていましたが、他の発電方法に比較すれば簡易ではあるものの、何もしなくてもよいとか、危険は全くないとかいう認識は明らかに誤りです。

設置者(事業者)が注目されるのは、発電量に大きな影響を及ぼす現象、電気設備の故障のほか、太陽光パネルの割れ、破損、ストリングの断線により、その部分の発電量がゼロになるトラブルでしょう。

これに対し、ここでは、経営者・担当者ともに、なかなか次の動きが取りにくい太陽光パネルの過熱(ホットスポット)について、赤外線カメラでパネル裏面を撮影した実際の写真を掲載し、温度上昇の程度やパネル裏面の状況を見ていただき、災害防止・再発防止・円滑な設備改修を実施する材料にして頂こうとするものです。太陽光発電設備をお持ちの皆様の参考になれば幸いです。



1.太陽光発電設備の特徴


 発電方法としての太陽光発電を他の発電方法と比較して、そのメリット、デメリットを整理します。

<メリット>
・発電時に騒音や温室効果ガスを出さないため、需要地に近い場所に設置可能であり、送電コストや電力損失を小さくできる。
・電力系統への接続に制限がある場合のほか、設置する場所に制限が少なく、どこにでも設置できる。
・屋根や壁面にも設置できるため土地が無くても設置できる。
・規模にかかわらず、発電効率が一定なため、利用できる土地の広さや出資額により都合の良い大きさの設備設置が可能となる。
・電源構成の乏しい山間部・島しょ部の電源としても利用できる。また、非常用の電源として利用することも出来る。

<デメリット>
・出力調整が困難で、天候や季節での変化が大きい。このため、単独設備や短期間での出力の予想が難しい。
・変換効率が高くないため大きな事業用設備では広い面積が必要。このため、広範囲での土地造成工事に伴い、周辺住民とのトラブルも発生している。
・壁面取付けや取付け方向や取付け角度により発電量が大きく異なる。
・夜間には発電できない。


2.太陽光発電設備の構造


メガソーラーとは、大規模な(設備容量が1メガワットを超える)発電所規模の設備のことを言います。
太陽電池は、セルと呼ばれる一枚のパネルに複数設置された薄い半導体が最小単位で、太陽電池セルを複数個組み合わせ、パネル状に加工したものがモジュールです。複数のモジュールを直列接続したものがストリングであり、ストリングを並列接続したものをアレイと呼びます。

モジュールはセルだけでなく、封止材、バックシート、ジャンクションボックス、ガラス、フレームから構成されており、軽さと強さ、過熱が発生した際の燃えにくさなどが考慮されています。


3.太陽光パネルの過熱


太陽光パネルが、”局所的に発熱して高温になる不具合”、またはその”発熱した部分”を「ホットスポット」と呼びます。ホットスポットは、何らかの理由で電気抵抗が大きくなり、電流が流れにくくなった場所に発生します。

太陽光パネルの動作温度は、一般的に、-40℃〜85℃などとなっています。正常な状態でのパネル温度は、約50℃〜70℃程度であり、真夏で気温が30℃を超えるようなときでは70℃〜80℃にも達すると言われています。
これに対し、「ホットスポット」の温度は100℃以上にもなります。(詳しくは実例の写真をご確認ください。)これは、上記の、メーカーの定める動作温度から大きく外れており、以下のような問題を引き起こします。

(1)発電量の低下
ホットスポットとなっている部分つまり高温になっている部分は、何らかの原因で電流のロスが発生しそれが熱に変わったことを意味しています。そのため、その熱エネルギーとして失われた分、正常な状態よりも発電量が低下します。これは、パネル1枚だけの問題ではなく、ホットスポットが発生したパネルのある回路ごとの発電低下になっているのです。

(2)火災の原因
太陽光パネルは、燃えにくい難燃素材を使用したり、構造上の工夫がされていたりしているため、難燃性材料で製造されているバックシート等、パネルの一部が焦げたとしてもパネル全体に燃え広がらないよう対策されています。
しかし、災害発生時に見られたように、太陽光発電設備が設置されている周囲環境によっては、発電設備自体が燃焼してしまうこともあります。また、パネル周辺に集まった落ち葉や溜まったゴミ、伸びた枯れ草などの燃えやすいものが火災の原因となります。

火災が発生すると、近隣の建物や土地に延焼することで、後日、損害賠償請求される可能性があります。また、延焼を免れたとしても、発電設備で火災が発生すれば、周辺住民から対策を求める声は高まるでしょう。

4.ホットスポットが生じる原因

(1)ホットスポットが生じる過程
①パネルの汚れ、落ち葉、亀裂などの原因で、セルの電気抵抗が大きくなる
②そのセルに他のセルで発電された電流が流れようとする
③抵抗を受けた電気の一部が熱エネルギーに変わる

(2)電気抵抗が増える原因
・鳥のフンや落ち葉など
・日陰(建物、樹木等)
・パネル内部の損傷(パネル内のはんだ付け箇所の劣化、セルのひび割れ)
赤外線カメラで撮影した画像を多く見ていると、鳥のフンなどの汚れによるもの、樹木・草等の日陰によるもの、セルの故障によるものの違いが次第に分かるようになります。

5.太陽光パネルの過熱の実例

反射光等周囲の影響を受けないように、パネル裏面から赤外線カメラで撮影した画像と、それと同じ普通の画像を、パネルで発生したホットスポットの状況を季節順に並べています。

(1)鳥の糞による加熱(撮影:6月上旬)
異物による加熱では、このようになります。
写真では、右側の数値でこのパネルの温度状況をご確認ください。
温度の低いところは青黒く、温度の高いところはオレンジから白のようになります。

 

2.セルの異常による加熱。(撮影:6月上旬)
温度の高いセルに膨らみが見えます。

 
 

3.セルの異常による加熱。(撮影:6月下旬)
焦げて煙がでた跡があります。一つのセルに多数の過熱痕があります。

 
 

4.セルの異常による加熱。(撮影:6月下旬)
焦げて煙が出た大きな跡と多数の小さな焦げ跡があります。

 
 

5.セルの異常による加熱。(撮影:8月下旬)
焦げて煙が出た大きな跡が2つと多数の小さな焦げ跡があります。

 
 

6.セルの異常による加熱。(撮影:8月下旬)
焦げて煙が出た複数の大きな跡と多数の小さな焦げ跡があります。

 
 

7.セルの異常による加熱。(撮影:8月下旬)
温度は高いものの、セル下部に異常は見られません。要経過観察です。

 
 

8.セルの異常による加熱。(撮影:8月下旬)
多数の焦げがある状況でまだ大きな煙の跡は無いもののかなり高温です。

 
 

9.セルの異常による加熱。(撮影:8月下旬)
多数の焦げがある状況でまだ大きな煙の跡は無いもののかなり高温です。

 
 

10.セルの異常による加熱。(撮影:8月下旬)
セルの過熱痕跡は小さいのですが、かなりの高温です。

 
 

11.セルの異常による加熱。(撮影:8月下旬)

焦げて煙が出た大きな跡と多数の小さな焦げ跡があります。

 
 

12.セルの異常による加熱。(撮影:8月下旬)
焦げて煙が出た大きな跡と多数の小さな焦げ跡があります。

 
 

13.セルの異常による加熱。(撮影:8月下旬)
多数の焦げ跡があり大きな煙の跡は無いもののこの日の最高温度です。

 
 

14.セルの異常による加熱。(撮影:11月上旬)
周囲温度は大分低くなりましたが、加熱部では高温のものもあります。

まとめ

太陽光パネルの過熱は、発電量が低下する、火災になるかも知れないというようなことは、WEB上にも多く記載されていますが、実際の写真はそれほど多く公開されていないように思います。

赤外線カメラで見ると、表面は反射したり、周囲の景色により状況が違って見えたりします。本書に掲載したものは、裏面からの写真で、晴天にも関わらず、安定した画像となっています。しかし、広い範囲で見たり、周囲に高温の設備があったりすると、やはり影響を受けて異常が見つけにくくなります。

その一方で、多くの設備を見て経験を重ねると、肉眼で確認するよりも、はるかに早くパネルの異常個所に気が付くことが出来ます。

それでも、そこからどう具体的な行動を取るのかというところが難しいところです。パネル表面のガラスが割れたから過熱が生じたのか、過熱が生じたから表面のガラスが割れたのか分からないものもあり、過熱がかなり進んでいてもパネル表面には異状が見られないものもあります。

どのような状態になれば取替を決断できるでしょうか。パネル取替には費用が掛かりますので、取替作業の実施を決断するため、効率的な異常の発見と、違う方法による点検結果との組み合わせにより、取替の計画的な実施を決断することが必要だと言えます。

また、この一連の調査で、加熱に至る原因も、かなりわかってきました。

FIT後半戦の太陽光発電戦略: 10年間の具体的事例が導く成功の鍵


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