夢の国へのゲート
「これは持ち込み出来ません。入国する際にはまた検査を受けてください。次の方どうぞ」
「待ってくれ!あっちのゲートでは僕と同じ物を持ってる人が通過できてたぞ!」
「申し訳ございません。規則ですので…」
ここは夢の国へのゲート。
有名なネズミのキャラクターが住んでるところじゃなく…
みんなが眠った後に見る夢の話。
君も、君の友達も、スーパーのレジでキャベツをわざわざ袋に入れてくれるあのおばちゃんも、夕方に子供たちの安全を守ってくれてる緑のおじちゃんも、今日一緒の車両に乗り合わせたサラリーマンのお兄さんも…とにかく世界中の人たちが1度は行ったことのある世界の話。
目を開けると、広い草原で、心地よい風が吹いていた。
ただただ広い草原に、自分は腕と足を思い切り広げて寝転んでいた。
友人だろうか。自分の他にも4人、同じようにして隣で寝転んでいる。顔は何故かよく見えない。寧ろ自分から見ようとしていないようにピンぼけしていた。
「みんなは大人になったら何するん?」
ふと思ったことが、自分の口から出てしまっていた。
「俺は親父の仕事を継ぐよ。もし家を建てるときは言ってくれよな」
「そっか、大工になるって昔から言ってたもんな」
「私はどうかな?…まぁ、幸せになれてたらいいや!」
どこかで聞いた言葉、どこかで聞いた夢だと思っていると、急に友人の顔がはっきりと見えるようになった。
地元の友達じゃないか。
最後に会ったのは10年程前か…。
それでも何故か久しぶりに会った感じがしない。
「それで?そう言う自分は何になりたいんや?」
「…まだ考え中。答えが出るんかもわからんくてさ」
西の空には夕日が綺麗に見えていた。
高校卒業式を終えた自分たちの、最後の青春の時間だ。
「久しぶりにみんなに会えて良かったよ」
ここで伝えるしかない。そう思うと自然と言葉が出ていた。
「久しぶり?俺たち昨日も学校で会ってたやろ」
「実はこの世界は俺が見てる夢でさ…俺はもうみんなより10こも年上になってる」
自分が無意識に口にした言葉でこの世界が夢だと気づいた。
「あ…そうなんだ」
「そうやったんか…」
やけに納得するのが早い友人達に対して、少し驚いてしまった。
「私たちは10年後どうしてる?みんな元気にしてる?」
「うーん…元気にはしてると思う。実はあまり連絡もしてないけど…。きっと元気にやってるさ!」
「そうか…連絡も取らんようになるんやな…」
「そう思うと、なんか寂しいね。今日で最後って感じで…」
みんなはあの瞬間、何を考えたのだろうか。
自分の将来、過ぎゆく時の儚さ、この時間が限りあるものであること。ほんの少しの間だったが、向き合うべきものに各々が向き合っている、貴重な時間だったような気がする。
「これが夢ならさ、私たちのこと忘れないように、最後の思い出作りしない?」
「思い出作りって?」
「ちょうどここに、今日の卒業式で先生に渡した色紙の余りがあるしこれに寄せ書きしてさ」
「おぉ!ええやん!俺のことも忘れんなよ!忘れられへんくらい感動するメッセージとサイン付きにしとくわな!」
みんなが自分のために寄せ書きを作ってくれている。
残りわずかの時間で高校生での時間を終えるのに、みんなと会うのはこれで最後であると分かりながらも、その時間を自分に使ってくれている。そう思うと、素敵な仲間たちに出会えてよかったと心から思った。
夕日が沈み始め、東の空は群青色になっていた。
「よーし!完成!!この短時間でこの完成度、思いついた私天才ちゃう?」
「いや、俺のメッセージも神ってる。感動しながら書いてたから、ちょっと角っこが涙で濡れちゃってる」
「みんな…ありがとう…ほんまに、ありがとうな」
色紙を受取り、みんなの顔を忘れないようにと、涙を拭って顔を上げた。
「そろそろ時間ちゃう?」
夕日が沈む直前だった。
感謝を伝えたかったが、そんな時間も無さそうだったので、笑顔で別れようと思った。
友人たちもみんな同じ気持ちだったようだ。
辺りが暗くなっていった。
「お客様、お目覚めの時間ですか?」
「そう。懐かしい友達にも会えたし、いい朝を迎えられそうな気がしてるよ」
「それは良かったですね。では、持ち物のチェックをさせていただきます。そちらの色紙は夢の中での物ですので、お預かりいたしますね」
「出来れば持って帰りたいんやけど、無理かな?」
「申し訳ございません、規則ですので…」
「そこをなんとか!」
「物は持って帰れませんが、夢の内容を思い出せばあなたの“頭の中”に記憶として残りますよ?夢を思い出すコツは『起きたら出来るだけ早く夢の内容を思い返すこと』です」
「なるほど!出来るだけ早くね、ありがとう!」
「いい朝をお迎えください」
スマホのアラームが鳴る5分前、何故か自然と目が覚めた。
懐かしい友人に会った夢を見た気がするが、頭がぼやけている…。
ようやく思い出せたのは、友人の夢と1枚の色紙だけだった。
「あれ…?色紙はあったけど…何て書いてもらってた?」
メッセージの内容は思い出せない。
儚さの余韻に浸ったが、懐かしい友人に会えたことに微笑んでしまった。
どうやら、いい朝を迎えられたようだ。
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