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自然と「好き!」が生まれる仕組み ファンベースカンパニー 代表取締役社長/CEO 津田 匡保(1/2)

本連載 “Challenger’s IDEA” は、各業界でチャレンジされている方をゲストとしてお迎えし、今後のブランドの在り方をディスカッションしながら、「チャレンジを続ける人たちの思想をシェアするスペース」です。

今回はファンベースカンパニー代表取締役社長の津田匡保さん。16年間勤務されたネスレ日本で「ネスカフェ アンバサダー」を立ち上げた後、自身の信じるファンとの繋がり方を広めるためにファンベースカンパニーに入社。今後の企業と生活者の関係性の理想の形、そのちょうど良い距離感やコミュニケーションについてお話を伺いました。

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ファンベースカンパニー 代表取締役社長/CEO 津田 匡保さん(左上)
スペースマーケット 執行役員 CPRO 端山 愛子(右上)
スペースマーケット ビジネス開発部 部長 益戸 佑輔(下)

ファンと触れ合う楽しさを伝える、ファンベースとの出会い。

益戸:まず初めに今の事業の話も含めて、ご自身のキャリア、今までやってきたことをお話しいただければと思います!

津田:もともと新卒でネスレ日本に入り2002年から16年間働いていました。正直、いろんなことをやってきました。ブランドマーケもやっていましたし、ECや新規事業で「ネスカフェ アンバサダー」などもやっていました。

ネスカフェ アンバサダーは、職場でコーヒーマシンをシェアしていただくサービスです。ちょうど2014年ぐらいかな、いろんな企業さんとの取り組みを検討する中で、スペースマーケットさんと出会ったんですよね。スペースマーケットさんが例えば、野球場で社員のミーティングをされているって聞いて、すげえ面白いなと。そういう新しい所に進んでいる企業さんを応援する、というとおこがましいんですけど、「何か一緒に新しいことをやりたい」と思ってましたね。

ネスカフェ アンバサダーに取り組む中で、ファンの方やサービスをご利用いただいている人たちと触れ合うのが、すごく楽しかったんです。自分にもすごく合っているし。でも、その楽しさや良さを、講演とかいろんなところでしゃべっても、「津田さんが変わっているからできたんでしょうね」「ネスレさんだからできたんでしょうね」みたいなことを言われるんです。たまにね。
そうじゃないだろうと、別にネスレだからできたわけではなく、津田だからできたわけでもなく、「考え方ひとつだろう」と思って。

それを証明したくて。自分で起業してそういう考え方を伝えていく会社をつくろうかなどいろいろ考えて、2019年、40歳になったタイミングでネスレ日本を卒業しました。

でも正直何も決まってなかったんですよ。(笑)
どうしようかなという時に、さとなお(Twitter: @satonao310)とたまたまネスレの退職の報告も兼ねて飲む約束をしていて。そこでさとなおと野村證券さんとアライドアーキテクツさんの3者でファンベースカンパニーを立ち上げるという話を聞いて、「あー、ここだ。」と思ったんです。

益戸:それが始まりだったんですね。

津田:はい。創業メンバーとして会社を創業したのが2019年の5月。そして今年4月から社長をやらせてもらってますけど、僕としてはそういう予定は全然なくて、入ってみてやっていたらそういう風になっていったという感じです。

「サブスク」以前に「社会課題解決」という観点でネスカフェ アンバサダーができた。

津田:ネスカフェ アンバサダーの話に戻りますが、その前に、僕の話をもうちょっとだけ詳しく話しておきます。

1995年、僕が高校1年生の時に阪神淡路大震災があって。僕が住んでいた地域は電気、ガス、水道が2カ月止まる、みたいな大変なところでした。このときボランティアの人に助けてもらった原体験があるんです。

当時家の隣に公園があって、公園に仮設風呂ができたんですよ。そこでお弁当をもらったり、お風呂に入ったりするんですけど、ボランティアの人が、お茶やコーヒーを出して飲ませてくれるんですよね。そこで飲んだコーヒーがすごくおいしくて、温かいというか。真冬でしたね。

当時食い物がマジでなかったので、「食」ってすげえ大事だなと思って。その原体験から、就職先は食に関係する会社が良いと思い、地元に貢献したいというのもあって本社が神戸にあるネスレ日本に入りました。

そして2011年に東日本の震災が起きた時、会社としても物資を送るなどの支援をしていたんですけど、自分でも何かしたいなと思って。担当していたコーヒーとコーヒーマシンを持って被災地に行きました。

ちょうど凸版印刷さんの僕の友人が、本をワゴンに積んで仮設住宅を回って本を貸し出す「ブックワゴン」という活動をやっていて。これに乗っけてもらって本を借りに来た人にコーヒーを配る、みたいなことをやっていたんです。本とコーヒーって、なんか相性がいいじゃないですか。

益戸:そうですね!

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津田:仕事ではなく、気持ちでやっていたら、すごく喜ばれたんですよね。「神戸から来たんす」とかって話してたら「こんなところまでありがとう!」みたいな感じで。その時に、ああ、おいしさとか、自分たちの思いがしっかり伝わっているなという感触があったんです。

当時の仮設住宅では、みんな知らない人同士の中、人と人の交流が全然生まれないことが問題になってました。100棟、200棟仮設住宅があって、真ん中に集会所があるんですけど、管理人さんたちに聞くと、集会所にもあまり人が来ないとのことでした。

何かできないかなと思ったものの、僕もずっとは通っていられなかったので「このコーヒーやマシンを集会所で使ってください」と寄贈して一度帰りました。

数カ月後に「最近どうですか」と様子を見に行くと、結構、集会所に人がいるんですよ。使い方がよく分からないおばあちゃんがコーヒーマシンの前でフリーズしていて、知っているおじいさんが使い方を教えてあげてるみたいな光景があって。

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管理人さんからも、こういう光景がよく起こっている、コーヒーを飲みに、人が来るようになったと言われて。コーヒーがいいソーシャルツールになって、人と人をつないでるというのが見えたんです。

僕は当時、どうやってコーヒーのおいしさを人に伝えたらいいかとか、このマシン自体はそもそも家庭用に開発したマシンなので、家庭に売ることばかりを考えていたんですけど。そんな中で、こういうふうにコミュニティとか人が集まる場所に置くことで、人と人がつながるという、使われ方もあるんだなと気づきました。

それが社会課題解決やコミュニケーションの活性化につながるということを発見して、ネスカフェ アンバサダーというコンセプトの、一つのヒントになりました。

「ネスカフェ アンバサダーは、サブスクの代名詞」とか言われているんですけど、別にサブスクをしようと思ったわけじゃなくて、僕が当時の社長の高岡とか当時の上司も交えていろいろ話しながら、どうやったら社会課題を解決できるかという観点で、色々議論したりテストして作ったものなんです。当時2012年は震災直後で沈んだ世の中でした。日本で一番大きなコミュニティは職場なので、だったら「職場から日本を元気にしていこう!」と。

最初の最初は数十人。北海道にエリアを限定して始めたサービスで、僕も現地へ行って応募してくれた人の会社にマシンを持っていって設置して、「こういうのを始めました」という話をしました。「こうやって使うんですよ。どうですか。」みたいな会話をいろいろして、サービスをブラッシュアップしていきました。

「傾聴」の繰り返しでしたね。食品メーカーが新規事業でサービスをやるなんて、他社も含めてほぼ経験としてなかったんです。本当に手探りで、初期の利用者の方々と一緒に話しながら、どんどんつくって広げていきました。

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この経験を通じて思ったことは、自分たちのサービスを使ってくれている人たちはすごく大事だし、人として見なきゃいけないし、そうやって接した人たちはいつか絶対に僕らを助けてくれるということ。

自分の感覚を信じていろいろやってみて良かったと思っています。キャンプをしたり、イベントをしたりとか、だんだん津田のやりたいことも広がって行きました(笑)

自分の活動が実はファンベースそのものだった。

津田:さとなお(現ファンベースカンパニー会長)が、たまたま僕のやっていたキャンプに遊びに来てくれて、『ファンベース』という本にも書いてくれたんです。

益戸:もともと、さとなおさんとお付き合いはあったんですか?

津田:数年前に(当時)アジャイルメディアの徳力さんに紹介いただいて。僕は昔から、さとなおの本を読んでいて彼のファンだったので、「ネスカフェ アンバサダーという取り組みをやっているんです。今度、アンバサダーさんたちとキャンプをやるので来てください」と、さとなおと徳力さんもお誘いしたんです。

そしたら本当に来てくれて。僕がキャンプ場でアンバサダーさんとか、いわゆるキャンプまで来てくれるようなファンたちと遊び回っている姿を見て、さとなおもファンベースという考えはこういう形で実現されているんだというのを確信したって言ってましたね。で、本を出したと。

益戸:めっちゃ、いい話だ〜。

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津田:僕はあんまり体系的に自分のやってきたことをまとめていなかったし、ただただファンが喜ぶことを一生懸命にやっていっただけなんだけれど。

それをさとなおが体系的にまとめてくれたので、すげえと思いながら自分の自信にもなりました。そういうご縁があって、「そっか。俺がやっていたのってファンベースだったんだ」と気づいた感じでしたね。

端山:ネスレさんといえば、マーケティングが強い会社というイメージが強いです。ネスカフェ アンバサダーは、もともと体系化されていた考えから、綿密に計画された取り組みだったのかと思ってました。

津田:そうですね。マーケティングっていう言葉の定義にもよるかな。。そもそもサービスをやったことがない、新規事業なんてやったことがないわけです。特にネスカフェ アンバサダーみたいなものは、本当にやってみなきゃわからない。

当時の社長の高岡はキットカットの受験キャンペーンを手掛けた人なのですが、あれも人の課題解決を色々やりながら進化していったものなんです。だから同じような感じで、新しいことだし最初からカチっと色々決めなくてもやりながらいこうという感じでした。世の中も、どんどん変わるしね。

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端山:逆に、社内で新しい取り組みとしてチャレンジしてみて、失敗しちゃったとか、結果、検証の途中で止めたこともあるんですか?

津田:もちろん、ネスカフェ アンバサダーも今のスキームになるまでとかローンチ前も、いろんな仕組みをトライアルしてます。初めはみんなで飛び込み営業なんかもしていて。でも「総務の壁」があったりして(笑)

それで別の方法として「インターネットでみんな応募してください」という形にしたんです。そうすると総務担当ではない他の社員さんが、「うちの会社でコーヒーを飲みたい」といって応募してくるんですよ。気付いたらマシンが職場にある、総務が後で気付くみたいな(笑)

ネスカフェ アンバサダーについては、コンセプトとやりたいことは明確だから、これがどうやったらうまくいくか、いろんなトライアルをして、いい仕組みを探しました。成功するまで色々ピボットしてやるって感じ。


もちろん他にも、いろんな事業でいろんなトライアルをして、うまくいかなくてやめたビジネスも沢山ありますよ。それはどこの企業でもあるかと思うんですけど。

ファンベースはテクニックではなく「考え方」

僕がやってきたことは、テクニックじゃなくて「考え方」です。身近なサービス利用者の方々を数字じゃなくて「人」として見て、ちゃんとつながって一緒に何かをつくっていくということは、「考え方」であってテクニックでも何でもないからこそ、誰でもどこでもできるはずだと思っていて。それがさっきの話につながって、ファンベースカンパニーに入る形になりました。

ファンベースというのは、今の目の前にいらっしゃるファンの方を大切にしながら事業価値を高めていくという考え方で、これからの世の中ですごく大事なことだと僕は思っています。
僕らのスローガンは、「ファン、企業、社会 みんなをもっとハッピーに」ですが、

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これからは企業だけがハッピーじゃ駄目で、それを利用しているファンや生活者の方々、あるいはそれを包含している社会全体がハッピーになっていないとうまくいかないと思っています。

まさにスペースマーケットさんのサービスはそうだと思います。場所を貸す人、借りる人、スペマさん、社会全体という4者。そのみんなを幸せにしているサービスなので、うまく世の中にフィットしているんだと思うんです。

端山:まさにスペースマーケットのバリュー(社員の行動指針)のひとつに、「サクセス」というキーワードがあるんです。常に「四方良し」を考えながら、自社だけじゃなく、みんなか幸せな状態を追求しようと、全社で大事にしています。

津田:やっぱり、そうなんだ!それぐらいみんなが誠実につながっていく時代だと思うんです。僕らは、そういった考えを正しく広めていくために立ち上がっている会社で、ファンベースという考え方を正しく知っていただくのも大事だし、実行する上でのサポート、伴走をするような会社です。

ファンベースは考え方であって、マーケティングのテクニックでも何でもないので、逆に言うとこの考え方は会社の中のいろんなところに活用できます。コーポレートのファンをつくるもよし、マーケティングや製品開発に活かすもよし、ファンと新規事業をつくるもよし。

社員の「好き!」は漏れている

津田:あと大事なのは、社員も会社や製品のファンであることなんですよね。勤めているけれど会社のことが好きじゃないとか、自社商品は買わない人もいるじゃないですか。「何で買わないんだろう?」と思うんだけど。

でもそういうのって結構漏れるんですよ。好きじゃない社員がやっていることって、外に漏れて生活者に伝わるんですよね。スペースマーケットさんは、社員の皆さんが本当にスペースマーケットを好きじゃないですか。

益戸:自分で言うのもなんですけれど、びっくりするほど、みんな好きですね。

津田:それって絶対に外に漏れてるんですよね。漏れてるって変か、、伝わってるはず(笑)
ウェブサイトやイベントをはじめとして制作物とか全てにその好きや思いが漏れる。そして、利用者に伝わるんですよ。

益戸:それこそ世の中どこの会社もファンベースでありたいですよね。そしたら、もっともっと良くなると思います。

津田:そう思ってますね。やっぱり、「人」を大事にするというか。スペースマーケットさんも創業当時は、僕がやっていたネスカフェ アンバサダーと同じで、最初は利用者に話を聞いたりしていたと思うんです。

でも、それをいつしか成長と共に忘れてしまうかもしれないんだよね。それがずっとできている企業もあるし、忘れてしまっている企業もあると思いますね。

端山:そうですよね。ちょっと私の話をすると、もともと私は、創業間もない頃に広報としてスペースマーケットに入社したんですけど、今はCPRO(パブリック・リレーションズ)の統括をさせていただいています。

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さっきの「四方良し」そのものなんですが、いわゆる広報という概念からもっと目線を上げて、みんなで成長して幸せになっていこうと、近年特に、PRというか「世の中との関係性」という視点をより大事にしています。

スペースマーケットでいうと貸す側、借りる側だけじゃなくて、社員、いろんな業界の方、パートナー企業さん、世の中など、いろんな人たちとの信頼関係をどう築いていくか。「スペースシェア」という文化を通じて、どうみんなで幸せになっていくかを常に考えていて。
結果的にみんなの「好き!」が増えて、漏れて、連鎖していく状態を目指しているんだろうなと。

会社によっていろんなファンの方向性があると思うんですけど、PRの思考自体が、ファンベースとすごく通じるところがあるなと、改めて思います。

津田:PRをされていると、周りのステークホルダーとかとも関わられることが多いと思うので、端山さんの場合は、そう感じることが多いのでしょうね。

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