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自然と「好き!」が生まれる仕組み ファンベースカンパニー 代表取締役社長/CEO 津田 匡保(2/2)

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これから大切なのは余白を如何に残すか。

益戸:今年はこういう状況になって随分と世界が変わったと思うんですけど、今、取り組んでいることやコミュニケーションで得た気付きなど、お伺いできればと。

津田:僕は今年42才になるんですけど、割とフラットな目線で生きてこられたかなあと思っているんです。退職するときに、結構年上の先輩の方に言われたんですけど、「人間は、キャリアとかいろいろ積み上げてきたものにこだわって判断がぶれるときがあると、それに縛られて、自分が本当に正しいと思っていても判断に踏み切れないときがある。」と言われて。

「それなりにキャリアを積んできたのに、それを捨てられる勇気があるのはすごくフラットでいいね。」と言っていただいたんですよね。それが、すごく救われた一言だったんです。

実際に、お金がどうとか、ポジションがどうというのは、あまり興味がないんですよ。どっちかというと自分が何をしていたら幸せかとか、周りの人がどうやったら幸せになってくれるかとかしか考えてなくて。

これからはお金やポジションなど、何か積み上げてきたものが価値がなくなる、といったら言い過ぎなんだけど、そうなってきている気がしていて。物質的なものより精神的なもののほうが大事。

例えば、今はコロナの影響で、どれだけお金があっても使い道がなかったりするわけじゃないですか。それよりも、こうやってzoomとかでも気軽に話せる友人がいるほうが幸せなわけで。

ファンベース津田さん.001

よくこういうことを、お偉方がメディアで「物質的から精神的へ」とかいろいろおっしゃっていますけれど(笑)、わかりいやすく言うと今みたいな感じ。

そしてこの世の中の変化を経て、また一段階、多様性の軸が広がっていくだろうと思います。直近でいうとコロナに対する恐怖心の強さに個人差があったり、ウィズコロナ的なところでの、どう過ごしたいか、何をしたいかでも、個人、職業、家族構成、体調、いろんな要素によって本当に多様化してくるんだろうなと思っています。

なので、さっき「傾聴」というキーワードを出したと思うんですけど、企業側が一方的な思い込みで「生活者に提供しよう」みたいな上から目線で何かコミュニケーションやサービス提供をするのは限界があると思うんです。

目の前にいるファンやユーザーさんたちに傾聴しながら、お互いに歩み寄って一緒に何かを作り上げていくことが、より大事になっていくのだろうと感じています。ある程度の「余白を残しながら」一緒に開発を進めていくってイメージなのかな。

津田:本当にいい商品やサービスって余白があって、利用者の人がちょっと遊べる要素があるというか、ガチガチじゃないんですよね。スペースマーケットもそうかもしれないけれど。

益戸:余白しかないですよ。笑

津田:ガチガチじゃないほうが、絶対にいいよ。笑

益戸:スペースマーケットに掲載している古民家のスペースがあるんですけど、僕がそのオーナーと出会った当時、「今は外資系企業が古民家でオフサイトミーティングをするのが流行っているので、絶対に使われますよ。掲載してください」と提案したんですよ。

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掲載した結果、オフサイトミーティング利用もあったんですが、一番使われてるのって、コスプレイヤーさんたちの撮影会なんですよ。当初は誰も予想してなかったんですけど、自由に使えるという余白があったからこそ生まれた価値だと思ってます。

津田:なるほど。今の幸せって、自分と価値観が近い人と近くにいられたり、何でも話せる友だちがいて、コスプレイヤーもそうかもしれないけど、そういう人たちと一緒にスペースマーケットさんみたいな余白の場所を使ってみんなで工夫して楽しむとか、そういうことかもしれないですね。

自分なりの幸せの尺度や価値観。

津田:ファンベース的にいうと、「ホモフィリー」という言葉をよく使いますけれど、類友ですね。大体、人って周りに15~50人ぐらいの強いつながりの人がいて、その周りに弱いつながりの人が150~500人ぐらいいて、どちらのつながりも影響力が大きいんですよね。

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人は8~10ぐらいのコミュニティに属しているので、これがコスプレイヤーのコミュニティかもしれないし、PTAかもしれないけれど、自分と価値観が近い人といられる幸せ。

コロナの時代は、こういうつながりが重要で、そういう人たちと一緒に好きな場所で、好きなことをやるのが、すごく大事だと思います。

価値観の近い人とどれだけつながっていけるか。スペースマーケットさんみたいなベンチャーに就職する人は価値観が近そうっていうのが外から見ても分かりやすいんだろうね。

それが大企業だと、大きすぎて見えないじゃないですか。逆に価値観が合わない人といるのは、しんどかったり不幸だなと。自分なりの幸せの尺度や価値観を見つめ直す時期なのかもしれないですね。

益戸:本当に、そう思いますね。

津田:僕はネスレで採用の面接をしていた頃、履歴書の内容は一応読みつつも、「何をしているときが一番幸せですか?」って絶対に聞いていたんですよ。

幸せとか好きを語る時にその人の価値観が結構出るじゃないですか。「家でYouTubeを見ているのが幸せです」という人もいれば、「友だちとお酒を飲んでいる時」とか、そこに個性も出るんです。その自分なりの幸せの尺度というか基準って、これからすごく大事だと思います。

たくさんお金を稼いで、とにかく出世したいみたいな人もいるだろうし、やりたいことをやって、家族も大事にして、友人も大事にしてというのが幸せな人もいると思う。世の中全体としてそういうのを見つめ直す時期なのかなという気がします。

企業と生活者の距離をもっと近づける

益戸:一方で企業活動の中で今後の世の中的に大切になってくることってどこになりそうですか。

津田:今後は生活者が価値観を含めて変わっていく。そうなると企業を見る目も変わってきます。

今まで当たり前に使っていたモノやサービスも見つめ直すと思うんです。そこって、すごく精神的な部分になってくると思っていて、機能面だけじゃなくなってくると思うんです。

なので企業側が、もっと生活者と距離を近づけていいんじゃないかと思っているんです。要は、「企業も人である」というか。

「僕たちもコロナの中でこういうことを頑張ってやっているんで応援してください」と言ってもいいと思うし、「僕たちはこういう思いでものを作っています」とかね。企業からすると、生活者にそういうことを伝えていけるチャンスだとも思うんです。

今までは企業の中の人が自分たちの思いを伝えきれてないというか、結構遠慮していたと思うんですよね。企業側から壁を作っていたのかもしれないんだけど、今って企業も人もみんな同じ気持ちだから、つながりとか、そういうことを伝えていくべきだと思います。

益戸:本当におっしゃるとおりで、先日僕がいるチームの一つの取り組みとして、オンライン飲み会支援というのをやったんですよ。バカルディさんと一緒にやらせていただいたんですが。

FireShot Capture 096 - 【お祝いしたい人はいませんか?】オンライン飲み会×お祝い企画募集開始!締切27日午前まで - スペースマーケットマガジン_ - event.spacemarket.com

何でやったかというと、普段スペースマーケットを利用してくれている方々が、コロナの影響で仲間と集まれずにいて。でも、こんな時でも仲間や家族で繋がるキッカケをオンラインでもいいのでつくれたらと思ったんです。スペースマーケット的には、スペースを使ってもらわないと売り上げは立たないんですけど。もともとお付き合いのある飲料やそれ以外のメーカーさんも含めて幾つかの企業に声を掛けていったところ、バカルディさんが「だったらうちの商品を無料で提供するので、交流が生まれる機会を一緒につくりましょう!!」と言ってくださったんです。お互いに手弁当じゃないですけど、やれる範囲でやれることをやりましょうと。

これがすごく好評で、「これがあったからみんなで久しぶりに顔を合わせることができました!」とか、「婚約していて会を開く予定だったんですけどそれができなかったので、いいタイミングをもらえました」とか、色々なコメントをいただいて。でも、スペースマーケットとしては1銭にもならないんですよ・・笑

津田:良いねえ・・。分かる!分かる!

益戸:1銭にもならないんですけど、やって良かった取り組みだと思いました。

津田:すごく偉いというか、言い方は悪いかもだけど、絶対に後で返ってくるから。こういうときしかこういう経験はできないし、それを感謝していただいたらすごくうれしいし、自分たちの強みになって何かで返ってきます。いろんな企業が、こういうときに自分たちで考えて動いたほうが本当はいいと思います。

端山:この取り組みを喜んでくださった参加者の方たちが、Zoomとかでみんなで「乾杯」ってやってる写真をいっぱい送ってくれたんですけど、本当に楽しそうで。

企画した部署のメンバーだけじゃなくて、全社員がそれを見て、改めてうちのサービスの意義やその先にいるファンの笑顔が目に見えることで、すごくパワーをもらえて。既にお返ししていただいているなと感じました。

津田:そうすると、また社員も会社を好きになるし、スペースマーケットの利用者の人も、まだファンじゃなかったけどファンになるかもしれないし、全部がつながっていますよね。こういうときにそうやって動ける人や会社がいっぱいあると、それは日本としての強みにもなると思う。

ファンを増やすにはテクニックだけでは意味がなく、企業のスピリッツを伝えるしかない。

津田:僕、よく他社の事例を教えてくれって相談されるんです。

でも、あまり事例を断片的に共有することは意味がないと思っていて。何でかというと、各社、例えばスペースマーケットさんの中で働いている皆さんみたいに、人もそれぞれ違うし、考え方も違うし、活動も違うんですよ。

さっきの例のユーザーさん向けにやったオンライン飲み会の企画とかも、スペースマーケットさんにしかできないことだったんですよね。その時のみなさんの思いや関係企業さんとの繋がり、熱量、タイミング、スピード感、その企画って唯一無二の奇跡みたいなことなんですよね。

それをどこかの企業がまるっとコピーしようといったってできないんですよね

だから「ファンをベースにする」っていう基本の考え方は同じでいいと思うし、お客さまを大事にするというのは大事なんだけど、活動や施策までは過去の事例の真似はできない。人が違うし、ファンも違うから、自分たちなりにファンとどう付き合っていきたいか、会社をどうしていきたいかから考えていくしかないんだよね。

だから、スペースマーケットさんなりのやり方、ファンの増やし方は、スペースマーケットさんにしか創れない「歴史」みたいなものだと思うんです。

なので、僕らは断片的に事例をしゃべらないようにしています。スライド1枚とかでは事例を見せない。だったら、ちゃんと時間をとって話をさせてもらう。そうでないと勘違いされちゃう。

テクニックだけコピーしようとしても、企業の持っているスピリッツとか、社長の重松さん(Twitter:@masurao99)のスピリッツとか、他の社長はコピーできない。だから企業の理念やスピリッツが大事なんですよね。

端山:まさにですね。あとは、各取り組みの結果をどう判断するか、いわゆるKPIや数値目標が立てづらいという問題って、ファンベースの考え方を推進していくときに企業として悩みどころなんだろうなと思います。

例えば、様々な企業とのコラボレーションの中で、スペースマーケットが提供できるいちばんのバリューは、体験の深さだと考えていて。「何十万人にリーチできます」ということではないので、ご担当の方が企画を立ち上げる際に社内に説明しづらいというのが課題としてあります。

その中で「そもそもお客さんに対してどうしたいんだっけ?」「うちの会社は世の中にどんな価値を提供したいんだっけ?」という上流の視点から、ファンベースの考え方を融合させつつ効果測定もできたら、我々の企業コラボレーションをより活用いただけるのかなと思いました。

津田:ちょうど、このディスカッションが終わった後に相談しようと思っていたんです。実はファンベース独自の指標を、いま作っているところなんです。スペースマーケットさんにも今後ご協力いただけないかご相談しようと思っていました。

益戸:ぜひぜひ!!

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これからは自然と「好き!」が広まる世界を。

益戸:では、最後に、今後世の中をどう面白くしていきたいかという観点でお話を伺えますか。

津田:これはいつも言っていることなんですけど、世の中にもっと「好き」を増やしていきたいと思っています。別に一人の人が好きなものとか、好きなサービスがめちゃくちゃたくさんあってもいいじゃないですか。もっと増やせると思っているんです。

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今、僕たちはコロナで在宅が多くなって、本当に好きな人よか好きなものに囲まれて暮らしているのは、ある意味で幸せな部分もあるじゃないですか。仕事のやりづらさとか家事など色々大変なこともあるけれど、やっぱり好きに囲まれるのは幸せなんですよね。

これが通常に戻っても、また家族や友人のありがたみが分かり、「好き!」という気持ちは盛り上がったまま保たれると思います。

「好き!」に囲まれて暮らすのは本当に幸せだと思うので、僕らの会社としてはファンベースという考え方を広げていきたい。

いろんな企業さんが自分たちの目の前のファンを大事にする。そうすると企業と生活者の関係性が深まっていって、結果的に「好き!」をお勧めしたくなるということが起こっていくわけですよね。企業と生活者の楽しい関わりによって、自然と社会に「好き!」が増えていくのが理想だなと。

そうして世の中が幸せになると、もっと平和な世の中になるんだろうなとか、戦争とかがなくなるんじゃないかなと思っています。

ぶっちゃけ僕も、そんなにガツガツした人間でもなくて、家で漫画とかを読んで静かに暮らしていたい人なんです(笑) でも、みんながそういうふうに「好き!」に囲まれて幸せだったら、争いは起こらないのかなと。何となくそういう方向に世の中が向かっていっている気もするし、我々としては、そういう世の中になっていく一助になれたらと思っています。

スペースマーケットさんみたいな、まさに自社のファンを大事にしていらっしゃる企業さんたちと一緒に何かしたり、そういった企業さん同士をつないでいけたらいいなと思っています。

端山:ありがとうございます!今の津田さんのお話を受けて。私も、まさに「好き!」に囲まれて暮らしている人たちを増やしたい。そしてそれを実現するための選択肢を、広げていきたいです。

個人的には、家族も仲間もいちばん大事です。でも、時にはひとりの時間も貴重だし。事情があって家庭が危険な状況にある人もいるかもしれない。人の価値観て、企業側が考える以上にきっと多様で、繊細で。一般論としての価値観が、みんにとって正解なわけでもないと思ってます。仲間とでも、ひとりでも、その人が「心地いいと思えることを安心して実現できる選択肢」として、スペースシェアをもっと活用してもらえたらなと、思っています。

津田:本当にそうですよね。いろんなことをして、いろんな人の好きにも触れたいから、そういうときにスペースマーケットさんの場所は、すごく大事ですよね。

今日はスペースマーケットさんの変わっていない良さが、改めて分かりました。これからも変わらないと思うんだけど!(笑)

端山:ありがとうございます。今日とてもいいヒントをたくさん聞けたので、「ファンベース」の考え方を大事にしながら、スペースマーケットにしかできないチャレンジを続けていきます!


対談は以上です。
今後も様々な方々のアイディアをシェアしていきますのでご期待ください。連載の掲載先SPACEMARKET Bizdev noteをフォローしていただけたら嬉しいです。

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