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体験価値を高めるために「変わること、変わらないこと」Mr. CHEESECAKE 代表 田村 浩二 (2/3)

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自分と同じことをできる人を増やす。

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中村:今でこそ知名度は高いと思うのですが、当時から何か自分の中で大切にしていることとか、守っている考え方などはありますか?

田村:「自分と同じことをできる人を増やす」というのが、僕の中で目標としてあって。
 
結構、料理人って自分が手を動かしたい人が多いとか、最終的なことは全部自分がやりたい人が多いんですね。でも、僕は自分と同じことをできる人を増やすことのほうが価値があると思っていて。

結果的にその方が、うちであれば「チーズケーキ」を届けられる人が増えるわけじゃないですか。そのほうが絶対に幸せになる人が増えるはずなので、自分で仕事を抱えすぎないようにするというのが、すごく大事な自分の中のルールです。

あとはメンバーに仕事一つひとつにどういう意図があるのかを共有して、深く理解してもらった上で作業に当たってもらうという部分。

さらに言うと僕たちがやってるのはチーズケーキを作ることなんですけど、おいしいチーズケーキを作ることが目的ではなくて、あくまでそれを食べた人にどう感じてもらうかということが目的なので、物を作るところばかりに意識を向けてほしくないというのはコミュニケーションとして凄く意識して伝えてることですかね。

井上:すごい!モノっていうよりかは、モノ+コトみたいな事だと思うんですけど、料理人としてはモノのクオリティーを最大化するのに結構フォーカスしがちじゃないですか。

でも、届けられた人はどういう気持ちでこれを食べるんだろうね?とか、そういうことまでイマジネーションを広げるって、なかなか僕の感覚的にですけど、伝えづらいんじゃないかなと思ってて、その辺って何か工夫されてることあります?

技術80点+他のコト60点は合計140点にならない。

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田村:基本的には、超一流の技術があって初めてその先を見れると思ってはいるんですね。でも、やっぱり時代がすごい変わってきてますし、例えばいいものを作る能力が100点の人ってそれなりにいると思うんですよ。

さらに、そこからトップクラスの人は103点、104点、105点みたいな、1点刻みのものを数年かけて磨いていくみたいな世界だと思うんですね。

それ自体は僕もすごい素晴らしいとは思うんですけど、その点数の重ね方っていうのは、年齢によってアドバンテージがすごい付いてしまうんですよね。

だから、40代、50代の人たちが同じモチベーションでやってれば、30代の人が太刀打ちしにくい世界になってくるんですよ。となると、結局すごい縦社会の中に生きることになってしまって、本当はもっといろんな表現とか可能性があるはずなのに、その業界に収まってしまうのが僕はすごいもったいないなと思っていて、多分いろんな業界にあると思うんですけど。

であれば、100点までちゃんと技術を磨いた上で、それ以外の能力、例えば、コミュニケーションであるとか、マーケティングとか届け方みたいな部分を50~60点まで持ってくるのって数カ月で持っていくこともできると思うんですよ。

10年かけて104点とかを目指すよりは、技術100点とそれ以外の能力を40点の140点にして戦っていくほうが、僕は今の世の中としては合ってるんじゃないかなとか。

でも、こういう話をすると技術80点で他のもの60点で140点にしようと思う人いるんですけど、僕の中でそれは140点になんないんですよ。

ちゃんと技術が一定ラインを越えて初めて、その上に乗っかるものがあると思っていて、その基準に到達しないと上に何を乗せても土台が弱いと崩れちゃうんですよね。

だから、僕が認められているかどうかわからないですが、業界の中でもちゃんと本物として認めてもらった上で、その人が新しく別軸で努力をするからこそ新しい価値が生まれて、評価されると思うんですよ。

さらに言うと技術100点を取ってからスタートするんじゃ遅くて、まだ70点のときからそれ以外の能力も伸ばしていかないといけないという意識を持って、若い時代に修行できるかどうかで、全然可能性が変わってくる。視野も変わりますし。

なので、技術だけじゃなく、それ以外のことにも目を向けていかないと、今の時代を戦っていくのは、すごい難しいんじゃないかなって。

中村:田村さん、話を聞いてるとアスリートみたいですね。笑

田村:僕、自分を追い込むのが好きなんですよ。笑

だから、もちろん個人としては労働時間とかも気にせずに、自分の好きなことであれば死ぬほどやればいいと思ってるんですよ。でも、やっぱり会社としては労働基準法を守んないといけないし、時間の中でどれだけ成果を上げるかということも大事だと思うんで、自分の中では切り分けて発言をしてるんです。

本来は、やっぱり成果を出したいとか、自分の人生において目指すべきものがあるんであれば、本当にそこにひたむきに努力すべきだと思いますし、そういうのが全て悪になってしまうのは嫌だなと思いながら見てます。

だから、今そういうのを共有できる若手って減ってると思うので、ある意味で同じ業界にライバルを見つけるのが、すごい難しいんじゃないかなと思うんですよ。

料理人の中に同じ人を見つけようと思うとつらいので、そういう意味で異業種がつながれるような場所が、もうちょっとライトにあると良さそうだなとか思いますね。

中村:それでいうと今、オンラインでつながれる機会が増えてきていて、僕なんか普段連絡を取っていなかった異業種の先輩からオンラインで話そう連絡があったり、業種や距離を越えたコミュニケーションは今後増えそうな気もします。

今起きている変化の中での気付き。

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田村:そうですね。ただ、特に料理業界は上の世代がネットをあまり使っていないので、22~23歳の子がTwitterとかを使ってると「そんなのやんなくていいから仕事しろよとか、余計なこと言うんじゃねえぞ」とか、そういう文化はまだまだあります。

なので、下の世代がネットに対するポジティブな感覚というのを、業界として伝えていかないと、どんどんこの業界は衰退してしまう。まさに今のコロナ禍の状況で強制的にネットを使わないといけないという状況になってる。

なので、ここでスタイルを変えれる人たちが残っていく世の中になるのかなと思うと、いろいろ複雑な気もしますけど。

井上:でも、業界が変わるチャンスではありますよね。

田村:それは、すごい思います。やっぱり、これまでってレストラン以外で仕事をしていると、金に走ったとか、いろいろ言われやすいんですよ。だから、レストランだけで数字をつくるのが美学という世の中だった。

今はそもそも人が来ない中でテイクアウト、デリバリー、あとはECでの販売というのが強制的にOKになっていて、今までだったら後ろ指さされてた行為が大々的にできるようになったので。

もしかしたら「今までやりたかったけど業界の目が怖くてやれなかったんです」みたいな人たちには、ものすごい追い風が吹いてると思うんですよ。

なので大義名分がある中で新しい挑戦をして、客数×客単価×営業日数というレストランの決まってしまってる枠から抜け出すチャンスなので、ものすごい可能性が広がる世の中になったなとは思いますね。

井上:本当にそれはその通りだと思いますね。それに対して、前々からECもやってましたとか、テイクアウトができるようにしてますとか、この状況下で売り方が広げやすくなってるところもあれば、非常に苦しくなってきてしまってるというところもあって。業界が変わるってこういう時しかないですよね。

田村:そうですね。なので、個人的にはいろんなノウハウを2年やってきて持ってるので、興味がある人がいれば全然公開していきたいなという思いもあるんです。

今は実際にレストランは本当に苦しいので、そういう人からすると「おまえは影響のないところから好き勝手言っていいよな」って思う人もいるかもしれないですし、これがもし僕が実際にレストランを運営しながらこういうこともやっていれば、また全然違うと思うんですけど。

だから、自分の発言というものが、必ずしも良く捉えてもらえないなというのも、やっぱり何となくは感じます。

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あと、これは若い世代には伝えたいなとは思うんですけど、若い世代は自分が働いてる環境に対するヘイトが結構たまってるんですよ。何でこんな長い時間、働かなきゃいけないのとか、すごい短期的な目線でこの業界のことの文句を言っていたりする人も多いんです。

そういう人たちは、僕の発信に対して、

「そうだよね。この業界にいてもしょうがないよね。今はもっとクリエーティブなことをやるんだよ」

みたいな、表層だけをすくってしまう人も多いので、その辺のコミュニケーションのコントロールがすごい難しいなとも思うんですよね。

「田村さんの考えに僕も共感です。この業界は本当にもう駄目です」みたいなことを言うんですけど、その業界の人に認めてもらう能力がないのに、文句言ってるだけじゃ駄目でしょって僕は思うので。

そう思うんであれば自分が能力を付けて、自分が業界を変えていく、働き方も含めて変えていくぐらいのことをして初めて、文句を言えるのかなって僕は思うんですよ。

やっぱり、批判をするのであれば、自分がまず率先してその環境をつくるというのが大前提だと思うので、そういう意味では若い子たちの言ってることも分かるんですけど、年上を論破できるほどのものを持ってないので、まずはちゃんと努力しようというふうには思うんですよね。

井上:それは、すごい本当に大事なことですね。あまり若い人に対して文句を言っても仕方がないですけど、まずやることをやってからというのは、すごいあると思います。

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