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【私のアウトドア履歴書♯2】伊藤直也さん(株式会社一休 執行役員 CTO)

スペースキーの小野です。今回の「私のアウトドア履歴書」は、宿泊施設やレストランの予約サイト『一休.com』のCTOを務める伊藤直也さんにインタビューをしました。伊藤さんと言えば、ニフティをはじめ、はてな、GREEといった著名企業にて開発を手掛けてこられ、エンジニアであれば知らない人はいないのではないでしょうか。一方で、アウトドアのイメージは皆無。一体、どのようなアウトドアを楽しんでいるのか。Webサービスに関わるすべての人必見です!


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伊藤 直也氏  株式会社一休 執行役員 CTO
ニフティ社『ココログ』の立ち上げ、はてな社『はてなブックマーク』の開発・統括、グリー社ソーシャルメディア開発・統括を経て、一休社CTOに就任。その間にも、数社の技術顧問を務める。日本のITサービスのテクノロジー部門を牽引してきた立役者。


私生活に変化を加えたい 選んだのが釣りだった

-初めまして。本日はインタビューを受けていただき、ありがとうございます。

よろしくお願いします。

-伊藤さんはSNS等でもアウトドアの話題は一切ないので、正直イメージが湧かないですが。普段はどのようなアウトドアをされているのですか?

釣りですね。種類でいうと海釣りで、東京湾でマゴチをルアーでよく釣ってます。最近はフライフィッシングもやったりしています。

-すごいですね!最近の釣果はどうですか?

先日、知り合いと一緒にタイに行ったのですが、バラマンディを釣りましたよ!しかもフライで(笑)。フライフィッシングは貴族の釣りのイメージだったのですが、釣れたのは9kgのバラマンディ。しかも初めてのフライフィッシングで、だいぶイメージと違いました。

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↑今ハマっているマゴチ。

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↑北海道で釣ったアキアジ (サーモン) 。3日粘って遂に一本。これは嬉しかった。

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↑タイでフライフィッシングで釣った9kgのバラマンディ。バラマンディの引きがすごすぎて、糸の摩擦で手を火傷しました。

-最初から内容が濃いですね!子供の頃から釣りが好きだったのですか?

いえ、子供の頃はほとんどやっていません。幼少期は周りにいる子どもたちと同じように、田んぼで泥だらけになったり、虫を捕まえて遊んだりしていましたね。親父が釣りをしていて、僕も何度か連れて行ってもらいましたが、あまり記憶にないくらいです。

-では、いつ頃からそんなに釣りをするようになったのですか?

ここ最近で、釣り歴で言ったら3年程度なんです。釣りを始めようと思ったきっかけは、何か新しいことをしてみたかったからですかね。以前の僕の趣味は、家でゲームをすることでした(特にゼノブレイドが好き)。でも40代を迎え、自分の私生活に何か変化を加えたいなと思いました。これまでの自分1人だけの楽しみから、誰かと一緒に外に出て遊ぶことをしてみたい。そこで思いついたのが、親父もやっていた釣りでした。幼少期から魚という生き物が好きだったというのもあったと思います。

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ただ、当時は釣りについて何もわからなかったので、釣りを教えてくれる旅館が館山にあると聞いたのでそこに行ってみました。実際に行ってみたら、道具を渡されて「その辺で釣れるよ」と言われただけ(笑)。しょうがないので見よう見まねでやってみたら、イシダイの幼魚が釣れたりしました。ただ、ふと堤防の向こうに目をやると、シイラとかをバンバン釣っている釣り人がいて。「あっちのほうが楽しそうだな……」と正直思いましたね。

それが1回目の釣りでした。それでわかったのは、釣りは誰かから手取り足取り教えてもらうものではないということ。そこからは自力でネットを駆使して、調べ尽くしました。

-大事な経験ですね。そこからは?

2回目は空いている釣り場がいいという理由から、沖堤防にしました。奥さんも一緒に。

-2回目で沖堤防!初心者はまず行かないですよね(奥さんも危ないのによく行ったな!)。チャレンジングですね。

自分で調べて、試して、釣って。自分で考えて実践したことがうまくいったというプロセスが、すごく楽しかったですね!この経験がきっかけで、釣りに完全にハマりました。

-わかります。自分の作戦が当たったとき、なんとも言えない嬉しさがありますよね!そこから釣りのスタイルは変化していったのですか?

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しばらくは、沖堤防からのサビキ釣りや穴釣りばっかりやっていました。アジやカサゴ、いろいろな魚が釣れましたね。とにかく楽しくて、他の釣りをしたいとは考えなかった。でも、だんだん寒くなってくると釣れる魚も少なくなってくる。ある時、広大な沖堤防で釣りをしているのが僕一人になって、やっと「冬は沖堤防で遊べないんだ」と気づきました。

船に乗るようになったのはそれからです。沖堤防では出会えなかった魚が釣れるようになり、また楽しさが広がりました。釣った魚は自分でさばいて料理もするので、食べる楽しみも広がったと思います。

-新たな魚と出会えるのも楽しいですよね。釣りはいつも誰かと行くのですか?

一人で行くこともあれば、奥さんと行くこともあります。会社のメンバーと行くこともありますね(釣り部もあるので)。一休会長の小澤さんも釣りが好きなので、先日は釣りしにバンコクまで行きました。

-(なんてアグレッシブな……。)

マゴチにハマったのも、釣り部で行った釣りがきっかけなんです。いつもカワハギなどの小さめの魚を釣っていたのですが、ある時、釣れなくてもいいから大きな魚に挑戦してみようと。それでみんなで初めてマゴチ船に乗ったのですが、全員ハマってしまいました(笑)。

-冒頭で、マゴチはルアーとのことでしたが、ルアーもこの頃からですか?

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マゴチは最初は餌で釣っていたのですが、あるとき僕の実家がある仙台でマゴチがよく釣れると聞いて、みんなで行ったんです。仙台の方では基本的にマゴチはソフトルアーで釣るようで、やってみたらすごく面白くて、そこからルアーの魅力に取りつかれました。マゴチは釣りごたえもあって面白いし、食べてもおいしい。そこが好きですね。

-他にもやっている釣りってありますか?

割となんでもやります。タチウオもやりますし、イカやカワハギ、シーバス、タイラバ、ロックフィッシュもやります。海外にも行きます。今後の予定では、3月は玄界灘でヒラマサ、4月は秋田でサクラマス、5月は沖縄と鹿児島。でもやっぱり一番好きなのは、東京湾でのマゴチ釣りですね。

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↑東京湾名物冬タチウオ。

-本当にいろいろな釣りを楽しんでいますね!

釣りをする人ならわかると思いますが、いろいろな釣りをするからこそ道具が増えてしまって……。竿が60本、リールは30個近くにまで増えてしまいました。

-すごい。うらやましい。

お金はかかってしまいますが、もはや最近はこのために働いているので、いい使い方をしているのだと思っています。以前は稼いでも、使い道があまりない状況でした。今は釣りを楽しむために稼いでいる、釣りを楽しむために生きていると断言できます!釣りは生き甲斐ですね。


釣れるまでのプロセスを、理屈を考えるのが楽しい

-お気に入りのギアについて、聞かせていただけますか?

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3つ選んでみました。まずはPatagoniaのフライフィッシング用のヒップバッグ。フライフィッシングをするようになって、これを購入しました。Patagoniaでデザインもカッコいいのも気に入っています。フォーセップやラインカッターなど必要なものを最適な位置に取り付けらるようになっているし、見た目以上の十分な容量があります。このバッグひとつとロッドがあればフライフィッシングにでかけられるのが良いですね。

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次に、これは愛用しているリールで、SHIMANOの「ヴァンキッシュ」。とにかく軽い!僕はマゴチを"ワインド釣法"という手首を使った釣り方で釣るので、結構身体に負担がかかるんですよね(以前、腱鞘炎にもなりました)。このリールに変えたおかげで、手首への負担も減りました。軽くて使いやすいので、重宝しています。

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最後に、これはオンスタックルの「マナティー」というワームです。これもワインド釣法に適したワームで、こだわりがたくさん詰まっているんですよ(一番話したいけど、マニアックすぎて話していいのかな)。

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ルアー愛を力説する伊藤さん。釣りをほとんどしない私(小野)には理解不能。

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『TSURI HACK』編集長の野口も、伊藤さんの知識量に脱帽。

-このルアーのコレクションを拝見して、ルアーでの釣りが好きなことがすごくわかりました。ルアーの魅力ってなんでしょうか。

やはり、同じ釣りでも自分なりのやり方を組み込めるところですね。餌釣りなどは自分の考えを入れ込む余地が少ないですが、ルアーは形状や色、どのような動きを加えるか自分で考えて試すことができる。それに天候や潮の動きもかけ合わせたら、やり方は無限大です。ルアーの面白いところは、いつも同じ結果が出ないこと。前回はこのルアーでマゴチが釣れたのに今回はヒラメ。そんなことが多々起こるので、そのたびに「何が違うんだろう」と考える。そのプロセスが楽しいですね。

-その考えがドンピシャに当たると、ハマってしまうんですよね。

あと、僕はエンジニアだからなのか、道具のメカニズムも知りたくなってしまうんです。なぜこのワームはこの形なのか、なぜこの重さなのか。あらゆることを理屈で理解して釣りをしたい性分なので、こういうことを考えるのもすごく楽しいです。

-なんか、ルアービルダーさんみたい(笑)。


釣りが仕事のパフォーマンスを上げてくれる

-これまでの話で、釣りが伊藤さんに欠かせない存在というのがよくわかりました。釣りは伊藤さんの生活においてはどのような影響を与えていますか?

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週末の休みはほとんど釣りなので、年間にするとおそらく100回近くは行っているのかと。元々、仕事に活かそうと思って始めた趣味ではないものの、釣りのおかげでオンとオフの切替ができるようになったと思います。

以前の趣味であるゲームは、インターネットにつながっています。仕事もインターネットにつながっていて、結果オンとオフの境目が曖昧な状態でした。若いときはそれでもよかったんですが、今の自分にはしっかり切り分けられた方が様々なメリットがあると感じています。

-例えば、どのようなメリットですか?

まずストレスコントロールができること。釣りをしているときは完全に仕事のことを忘れられるので、釣りで頭の中を一度リセットして、日曜の夜に釣った魚をさばきながらだんだんと仕事モードにもっていくんです。そのサイクルがないと逆に調子でないんですよね(笑)。

「ワークライフバランス」という概念がありますが、世間的にはライフを確保するための考え方だと思いますが、僕にとっては、仕事のパフォーマンスを上げるためのもの。はっきりと切り分けることで、仕事が正しい方向へ進む。オフの時間に頭を一旦クリアにすることで、いろいろなバイアスを避けて客観的に物事を判断できるようにする。すごく重要な影響を与えています。

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↑釣ったマゴチで作ったアクアパッツァとカルパッチョ。魚は自分で料理してます。

それに、釣りをきっかけに友達も増えました。エンジニア界隈だけでなく、ビジネスサイドの友達もできたり。お互い釣り好きであるということ以外何も知らない釣り友達もできました(笑)。 行動範囲も日本中や海外にまで広がって、交流が増えたと実感しています。僕自身も、率先して周りを巻き込んで行動するようになりました。以前は誘いに乗る方だったのですが、今ではみんなを釣りにアテンドする側のときもあります。そう思うと、生活がだいぶ変わりましたね!

-いいことだらけですね!


体験につながるまでの間を埋める 循環を加速する

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-少し話題を変えまして。アウトドア(釣り)業界に思うことはありますか?

う~ん、何だろう。正直、こんなに面白いことに出会えてありがとう、という気持ちしかないです。ゲームも昔から、今ももちろん好きなんですけど、釣りほどはのめり込めていなかったかもしれない。釣りと出会えて、人生が変わった。それがすべてですね。

-いやぁ、嬉しい。とはいえ、業界がもっとこうなったらいいのにと思うことはないですか?

そうですね、まずは釣り業界がサステイナブルであってほしいこと。そのためにも釣り人口は必要でしょうから、男性だけでなく女性がもっと釣りに行きやすくなったらいいなと思います。やっぱりトイレの問題とか改善されるといいなと。会社で釣りに行くときも、女性メンバーが参加してくれるときは、行ける場所が限定されてしまうのが難しいところですね。釣り文化を存続させるためにも、女性や若い人がもっと気軽にできるような環境になっていってほしいと思います。

-そうですね、それは釣りだけでなくアウトドア全域に関わる課題ですね。

あとは、もっとオシャレになってほしいかな。服やアイテムを買うときも、どちらかというと釣り具メーカーではなくPatagoniaやTHE NORTH FACEからつい探してしまうので。以前と比べたらだいぶ良くなっていると思いますが、ここはもっと力を入れてほしいなと思います。

-その上で、スペースキーに期待することはありますか?

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『TSURI HACK』はよく見ていますが、情報(メディア)と体験の間にまだまだ距離があるなと感じます。メディアやテレビ等で釣りの情報を取得しても、すぐに「行こう!」とはなりにくいですよね。そこには釣り場までの距離はもちろん、道具を揃えたりもしなくてはいけない。間を埋めてくれるような何かがあったらいいなと思います。

また、釣りというレジャーのわかりにくさ(複雑さ)もハードルを高くしまっていますよね。釣具屋とか、道具が多すぎて何がなんだかわからない。あれではマニアの遊びです。初心者でも遊びやすくなるように、シンプルにすることも必要かもしれないですね。

-情報と体験をつなぐ取り組みは、まさに今スペースキーで試行錯誤している課題です。いやぁ、なかなか難しいですね。

新規を巻き込むサイクルも強めていくのもいいかもしれませんね。僕がいろいろなジャンルの釣りを楽しむことができるのは、それらの釣りを体験している友人がいるから。彼らの誘いのおかげでフライフィッシングを始めることができたり、釣りをしにアマゾンまで遠征することができる。知り合いから誘われるというルートは強力ですよね。

これを繰り返していくことで、誘われる側から誘う側になる。その循環がスムーズに進むようなサポートも必要になってくると思います。

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↑沖縄で、巨大アオチビキ。

-キャンプでも、誘われて行くようになったというきっかけがすごく多いです。確かに、この循環を加速させることも大切ですね。

最後に、伊藤さんが挑戦してみたいことはありますか?

まだまだやったことがない釣りがあるので、いろいろな釣りをやりたいです。バスとかいいですよね。あと、キャンプもしてみたいです!最近フライフィッシング始めたので、「釣り→キャンプ」もできるかなと。釣りにつながるアウトドアを幅広くやってみたいなと思います。

-ちなみに、ビジネス×釣りではどうですか?

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いつか釣り船の船長をやってみたいですね!元来、みんなが楽しんでいる姿を見るのが好きなんです。会社のみんなと釣りに行くときも、基本釣らせてあげるんです。自分の竿を総動員して、タックルをセットアップして。みんなが釣りをして楽しんでいる様子をみるのが好きだし、嬉しいんです。人のお世話が好きなんでしょうね。だから船長とか向いているかなって。

-すごいステキな夢!ぜひ実現してほしいです。本日はありがとうございました!


【おまけ】最新釣果情報!

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対馬で釣りをしてきました。ブリ(9kg)。

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ヒラマサ(7.5kg)。二日間ジギングし続けて腕がパンパンです。



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■ 編集後記 ■

“もはや最近はこのために働いている”とのお話もありましたが、取材の時も、獲物と一緒に写っている時も、なおやさんのイキイキとした表情が印象に残っています。

時間もお金も価値観も、すべてが一変するくらいの楽しみと出会える人生は最高ですね。アウトドアに関連する事業者としてもエモさと自己肯定感が爆上がりしたインタビューでした。


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今回のアウトドア履歴書、いかがでしたでしょうか。編集部では「あの人のアウトドア歴も聞きたい!」といったリクエストを引き続き募集しています。お気軽にリクエストしてくださいね。次回もどうぞお楽しみに!