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“したいこと”と“できること”をフィットさせる それがワーケーションのコツ

スペースキーの小野(@tsugumi_o_camp)です。アウトドアとワーケーションを伝える記事の続編。今回は自治体と一緒に取り組むワーケーションについて、推進するメンバーに話を聞きました。運営してみて見えてきたこと、今後の課題感は何なのか。どうぞ参考にしてください!


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笠原 敦子
2018年入社。前職では温泉旅館・ホテル予約サイト運営企業にて、広報を担当。最近、Eバイク(電動マウンテンバイク)に初めて乗りました。起伏のある山道をグイグイ下って、坂もスイスイ上れるのがとても爽快でした。また乗りたい!


アウトドアプロモーション本部がやっていること


-所属部署の簡単な紹介をお願いします!

私たちアウトドアプロモーション本部は自治体/官公庁さんと一緒に、アウトドアで地域を活性化する取り組みを実施しています。その中で私たちの役割は、これまで『なっぷ』としてやってきた「アウトドアの知見」とメディアによる「情報発信力」を活かして、この取り組みを支援すること。これまでも高知県や茨城県の観光振興事業や、環境省や林野庁といった省庁との取り組みを実施してきました。今後も、アウトドアを軸にした地域振興といえばスペースキーと言われるよう、実績を積んでいきたいと考えています。

-現在は「ワーケーション推進事業」に取り組んでいるそうですね。

はい、環境省による、国立・国定公園等への誘客やワーケーションの推進を支援し、新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けている地域経済の再活性化を目的とした補助事業に携わっています。

スペースキーでは、阿寒摩周国立公園(北海道)、磐梯朝日国立公園(福島県)、富士箱根伊豆国立公園(関東地方)の3か所で、ワーケーションツアーの企画から検証、販売まで行いました。

-なぜスペースキーでこの事業を行うのでしょうか?

スペースキーは2018年から「国立公園オフィシャルパートナー」として環境省と連携し、メディア等を通じた国立公園の情報発信や国立公園の利用者拡大への取り組みを行ってきました。また、アウトドア業界向けイベントのOIS(Outdoor Innovation Summit)にも登壇いただくなど、関係性を構築してきました。今年はなんと小泉環境大臣にも特別出演いただきました!

また、国立公園でワーケーションを推進するための座組が整ってきたという環境面の後押しもあります。スペースキーでは株式会社R.projectさんと一緒に、「RECAMP」というキャンプ場の運営を行っています。RECAMPを拠点にアクティビティをプラスし、国立公園内やその付近に滞在して自然体験ができるサービスを提供することが可能となりました。

これらの要素から、この事業を推進していくことが、スペースキーのスローガンでもある“もっと自由なアウトドアを、すべての人へ”にもつながるのではないかと考えています。


国立公園ワーケーションツアーとは


-国立公園でワーケーションができるのは興味深いです!詳しく聞かせてください。

私は富士箱根伊豆国立公園を担当し、そこで実施したモニターツアーについてお話しますね。ざっくりした内容は下記の通りです。

富士箱根伊豆国立公園ワーケーションツアー
実施:2020年10月12日・13日
宿泊:RECAMPおだわら
内容:キャンプ場でのワーケーション+アクティビティ
ツアーのウリ:
・天候にも左右されない!電源Wi-Fi完備のキャビンで快適ワーケーション
・森林インストラクターでもあるガイドさんの楽しい解説を聞きながらの森散策&ハイキング
・伝統の箱根寄木細工体験でコースターを作り、思い出をお持ち帰り

当日は、小学生または未就学児がいるファミリー3組にご参加いただきました。宿泊はキャビン、シュラフ等の備品も完備だったので、キャンプ初心者の方でも安心してご参加いただけたのではと思います。また、WiFiを完備し、テントの設営等の手間もなかったので、13時のチェックイン後に早速仕事を開始している方もいらっしゃいました。

その後はスケジュールに沿って各自進めていただきました。仕事をする方は仕事。PCを用いてテレカンなどをされている様子が見受けられました。もう一方ではアクティビティとして竹ランタンのDIYなどを楽しんでいただきました。日が暮れてからはナイトハイクなど、キャンプ場でのワーケーションならではの体験をしていただくコンテンツを企画しました。

2日目も同様に、ワーク組とアクティビティ組に分かれてそれぞれスケジュールを遂行。本来の趣旨でもある国立公園を楽しんでもらうために、富士箱根伊豆国立公園でのハイキングも盛り込みました。夜はキャンプ場に戻って、キャンプご飯など各々好きなように過ごしていただきました。

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-実際に運営してみていかがでしたか?

ツアーとしての反省点は、コンテンツを盛りすぎてしまったことです。体験していただきたいことを詰め込んだら、かなりバタバタしてしまいました。仕事の後のナイトハイクも早朝の森散策も、それぞれ一時間強の所要時間だったので、ワーク組にとっては少しハードだったようで、「仕事の前後ということを考慮して軽めな内容の方がよかった」という声がありました。

あと、アクティビティを充実させた結果、アクティビティの満足度は高かったのですが、逆にキャンプ自体をゆっくり楽しめなかったという声もいただきました。火起こし、調理、片づけ、お風呂……とすべてきちんとやるとキャンプって忙しいものですよね。なので、ゆっくり焚火を囲んでおしゃべりしたり、そのような時間もあったらよかったなと。

-なるほど。バランスが大事なんですね。

ワーケーションでは、一長一短の側面があることを目の当たりにしました。キャビンで天候を気にすることなく集中できたという声がある一方、アウトドア用のテーブルやチェアでは長時間の作業には向かずつらいという声もありました。また、WiFi環境が整備されていると言えどデータ量の多い画像やファイルをやりとりするのはむずかしく、業務面での制約があるのも実感しました。なので、やりたい仕事がいつでも快適にできる訳ではなく、何をどこでするかにも影響されるというのがわかりました。

今回はご家族と一緒のワーケーションで、すぐ近くにお子さんがいる環境での影響も人それぞれで感じ方が違う部分がありました。あるファミリーでは近くでワイワイ声がすることで集中力が下がると感じた方がいる一方で、子どもの様子が感じられて安心するという方もいました。どちらの意見ももっともなので、ひとえにワーケーションといっても、求める仕事環境は人それぞれ異なるのだなと実感しました。そこがワーケーション普及の課題でもあるなと。

-たしかに!業務や普段の生活スタイルでも変わってきそうです。

アクティビティも、その人の年齢や状況によって向き不向きがあるなと思いました。先ほどのナイトハイクの例のように、仕事後にこのボリュームはつらいなとか。また、2日目は箱根の旧街道をハイキングしたのですが、石畳の旧街道は未就学児にはあぶないかなとか。すべての人にフィットさせるのはむずかしいので、内容がわかった上でオプションとして選べるような余白を用意してあげることも大事だとわかりました。

-たくさんの気づきがあったようですね。やってみてからこそ得られた知見!


自治体のワーケーションに参加してみた


-参加者としてもワーケーションを体験されたそうですね。

はい、高知県が主催しているワーケーションモニターツアーに、縁あってお声かけいただき参加してきました。高知県とは昨年、プロモーションでお仕事をさせていただいた間柄。高知県の魅力は理解しているものの、ワーケーションとして滞在するのは初めてだったのでワクワクしながら挑みました。

( ↓ 昨年の取り組みの様子)

今回のモニターツアーでは、高知の食、自然、アクティビティを体験してきました。移動も多かったのでワークする時間はほとんどなかったのですが、初めての場所に行ったり体験をすることで、高知の魅力を改めて知ることができました。

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滞在の拠点は土佐清水市にあるキャンプ場。キャンプ場内に携帯電波も飛んでいて、WiFiも完備しているトレーラーハウスでの宿泊と、環境はかなり充実していました。ですが実際に室内で仕事をしてみると、リラックスを重視したファニチャーではたしかに長時間のPC作業はつらく、私たちが実施したモニターツアーで参加者からあがっていた指摘を身をもって体感しました。

屋外にもタープの下で働けるスペースが用意されていたのでそこに移動すると、心地よい風や自然の音の中でリラックスしてオフィスや自宅とはまた違った感覚で働くことができました。

はじめは快適だったのですが、時間が立つにつれ太陽の位置が変わってまぶしくなり、移動を余儀なくされました。屋外だとそのような環境の変化があるので長時間集中して行う仕事にはむずかしそうですよね。適宜場所を変えながらフレキシブルに作業を変えるなど、行う業務にも工夫が必要だと感じました。

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-どういう仕事が特に向いていると思いますか?

自然の中で行うキャンプは人同士の距離を縮める効果があるので、ディスカッションしたり理解を深める場には向いていると思います。リラックスした環境の中で、円滑なコミュニケーションが期待できるので、PJのキックオフや会社間での交流会もよさそうですね。はじめて会う人でも比較的すぐに意気投合できるのがキャンプのいいところ。知り合い同士で行くのもいいですが、出会いを求めて焚火を囲み、新たなコミュニティをつくりにいくのもいいかもしれません。偶然の出会いやつながりが生まれる可能性があるのも、キャンプワーケーションならではの産物ではないかなと思います。

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-アクティビティについてはどうでしたか?

土佐清水市は高知県の最南端に位置しており、土地の多くが太平洋に面しています。そのため、サーフィンやSUP、シュノーケリングなどのマリンスポーツが人気!私もSUPを体験させていただきましたが、アクティビティを本格的に楽しめる環境に可能性を感じることができました。

ただ、とても楽しかったからこそ、そこで体力を使ってしまってその後仕事をちょっとだけして、そのあとの移動中は爆睡でした……(笑)。この経験から、体験できるアクティビティは重要ですが、頭のスッキリしている午前中はワーク、午後にアクティビティとか、ワーク中心の日は軽めのアクティビティにするとか、組み合わせが重要だということを学びました。仕事/アクティビティのバランスを考慮しないと、どちらも中途半端で楽しめなくなってしまいます。

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また、滞在する期間や場所によってもワーケーションに求める内容は変わってくるなと思いました。土佐清水市は高知空港から約2時間半と、遠方から行く場合、移動時間が長いのがややネックに。ですが、その分自然環境は抜群なので、長めに滞在してアクティビティ重視のワーケーションが向いているかなと。

一方で、空港からのアクセスもよい高知市内では、高知の食を楽しみながら短期間でライトにワーケーションを楽しむことができます。実際、市内にもワーケーションスペースは増えているようで、古民家を改装した施設やホステルなど今回見学させていただきました。

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しっかりアクティビティを楽しみながら最低限の仕事をするのか、仕事はしっかりこなしながらも各地の観光を楽しむのか。何を重視するかによって、滞在地やアクティビティを選んでいくという方法もあるなと思いました。逆に、その地域の自治体は何ができるのかアピールポイントにもつながるので、土地の魅力をしっかりアピールして、合致する人に来てもらう戦略も必要だと改めて感じました。

-ワーケーションしたい人のニーズと、土地のポテンシャルが重なるのがベストですね!

昨年からお取組みをご一緒させていただいた中で、高知県は自然も食も豊かで、本当に素晴らしいところだと再確認しました。あとは、この魅力がワーケーションという切り口だとどのように伝えることができるのか、またそれを誰に向けて発信していくかが大事だなと感じました。


今後の目標


-今後、取り組みを通じて目指していくことをおしえてください。

前述した国立公園ワーケーション推進事業では、モニターツアーを元に実際に正式プランとして本年度内に販売をすることまでが事業に含まれています。スペースキーでは『なっぷ』で販売を予定していますので、まずはここをやりきることが目標ですね。

事業としてはここで終了となるのですが、現在、全国の自治体でワーケーションによる誘致活動が活発化しています。スペースキーとしては、これまでの知見をもとに、全国の自治体さんのお手伝いができればいいなと考えています。これまで関わってきて思ったのが、各地域にはその土地ならではの魅力があるので、それをどうやって“個性”として差別化しアピールできるか。奇しくもコロナにより、PCがあればどこでも仕事ができる環境が整いつつあります。これにより、地方都市へのポテンシャルに期待が高まり、地方へ関心の目が向く。この流れは個人的にはとてもよいのではと思っています。

-ほんとに、グッと距離感が近くなった印象ですね。

自治体側では、ワーケーションをフックにまず地域を訪れてもらい将来的な「移住」にまでつなげることを視野に入れているケースも多いのではと思います。レジャーだけで訪れるだけではわからないこともあると思うので、特に長期のワーケーションで暮らすように滞在してもらうことは、その地域を知ってもらうきっかけになるのではないでしょうか。そこに「アウトドア」という軸を持たせることでさらに地域とのつながりを深めることがスペースキーの提供価値ではないかと思っています。

-笠原さんの中で、今後の目標などはありますか?

日本には、素晴らしい地域が本当にたくさんあります。ただ、その素晴らしい地域の一部は消滅の危機にも瀕している現状があり、それはとても悲しいことだと感じています。コロナによって私たちの暮らしは変化を余儀なくされましたが、それを逆にチャンスと捉えていきたいですね。働き方や生活、教育など、今まであたりまえだった様式が徐々に変わりつつあることで、地方が選択肢になるケースも増えるかもしれません。その動きが加速して地方都市に人が流れるようになったら、日本はもっと元気になるのではないでしょうか。

今回関わったワーケーション含め、「アウトドアをキーワードに地域活性化をする」という私たちの取り組みが、地域の交流人口の増加につながり、ひいては持続的な地域経済活性化につながればうれしいなと考えています。

-ワーケーションが日本を元気にするツールとなるように、スペースキーとしてやれることがまだまだありそうですね!ありがとうございました!


■ お知らせ ■

ワーケーションができる国立公園内のキャンプ場一覧です。どうぞ活用して、国立公園にお越しください!(※こちらのキャンプ場調査も私たちがかかわりました)

http://www.env.go.jp/nature/mankitsu-project/pdf/workation202006-2.pdf