short story series『知らない』 person 35

作・堀愛子

電車の中、隣の席で寝てた男性のはなし。
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角谷晶馬(かくたにしょうま)24歳。
21:58
たしか電車に乗っていた。
間違えたんだ道を。
森の中みたいなところに上司から連れていかれた。オオカミ男に手を引かれて奥に進んで行った、ひらけた先になぜか通ってた中学校があって中に入ったら当たり前のように大学の友達がおせえよって待ってた。
気付いたらその友達の中に父がいて、
また父に連れていかれた場所にあった深い海に
怪獣が現れたんだった。逃げたけど捕まえられてそのまま。沈められた。
ぬるかった。
ぬるい水の中でもがいていた。
会社に就職してなんだかんだ。不満があったわけでもないし、それなりに充実してた。
夜が遅くても、弁当屋さんのお惣菜とあったかいシャワーと撮り溜めたバライティ番組でどうにか朝を迎えているし。
ちゃんと満ちている、と思っている。
寝れないことは不満じゃなかった。早起きも得意じゃないし、携帯があればいくらでも起きていられる。
気付いたらぬるい水の中、足を引っ張られていた。怖かった。なにもできないじゃないか。
叫んだ、叫んだけど誰も来てくれなかった。
助けてくれなかった。
目が覚めた。
電車は停車していた。
最寄駅の案内アナウンスが流れてて、急いで立ち上がる。携帯の画面を見たら、ゲームの時間切れという文字がデカデカと映っているだけだった。
父親からも中学の友達からも連絡はなくて、
また僕はこれからもぬるい水の中で
もがいていくのかなと思って悲しくなった。
また朝が来ている。

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スーツのしわを見て頑張れと思いました。
知らない人だけど。

2018年12月10日

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