short story series『知らない』 person 25

作・堀愛子

日曜日の夕方に高架下で見つけた男の子のはなし。

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松島あらし(まつしまあらし)11歳。

タケちゃんはおれの持ってないものをいつも持っている。スケボとかiPod、髪の長い母ちゃん。

朝からおれは母ちゃんにゲーム機を取り上げられた。くそ、ぶっと飛ばす、って言って外に出たらタケちゃんがスケボで遊んでた。朝ごはんのスクランブルエッグのケチャップが口元についてるおれをタケちゃんはげらげら笑って、スケボに乗らせてくれた。

やっぱりうまく乗れなかった。

ふたりで走った。高速道路が走る下でタケちゃんが谷口先生のくしゃみの真似をしたから、それが響いて面白かった。

フェンスによじ登ったら上を走る車の音が近くに聞こえてちょっとだけ怖かった。今にも落ちてきそうでおれが落っこちてしまった。

タケちゃんはまたげらげら笑ってた。

17時になったらタケちゃんは塾の時間だからってスケボを片手に帰っていった。

空を見上げたら、ゴォーという車の音と一緒に飛行機がチカチカ光りながら飛んでいた。

あの飛行機に乗れたらどこまで行けるんだろうか。

そんなことを考えていたらもう周りはオレンジ色で、母ちゃんの顔を思い出した。

タケちゃんの赤色のニット帽姿がまだ頭の中に残っていて、自分の坊主頭をかく。

砂利の中から一番小さい石を見つけて、それだけをひたすら蹴りながら帰った。

蹴って、蹴って、家に着いた頃には

その石がどこに行ったか分からなくなった。

玄関のドアを開けるとコンソメの匂いがして、電気の色はオレンジ色に見える。母ちゃんが奥から、土はらって上がりなって叫んでる。

おれは勢いよくマジックテープを剥がしてコンソメの匂いを思いっきり吸い込んだ。

「ただいま。」

短い髪の母ちゃんがこっちを向いて笑っている。

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理想と現実、どっちも好きです。

2018年11月26日

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