short story series『と、私も前々から考えていた』「スーパーマーケット」case01

作・橋谷一滴

中2だったか。いつか私にはあかりという友達がいて。
彼女はその中2の夏休みが終わる前日に、落ちた。
スーパーマーケットの屋上から。
私の目の前には今空と彼女が落ちたあの屋上がある。
あかりは死んだのではない。落ちたのだ。

村田へ
あのさ、絶対秘密やけど あかり 腕の上の方にタトゥーシール貼ってるから。
セーラ服で隠れてるから分からんだけやけど確かに貼ってあるから。
見せたら先生びっくりするな。見せないけど、貼ってあるから。
あかり

彼女は自分のことを あかり と呼んだ。
彼女は私のことを 村田 と呼んだ。
あの時、彼女が落ちた時。村田は安達くんとキスをしていた。
私は平凡だ。
毎回あかりの言ってることが半分くらいわからない。
だから私は彼女が落ちた時、安達くんとキスしていたのだ。

「世界は絶妙なバランスで保たれている。」
と、あかりが言っていたことを思い出した。
相変わらず何を言っているのか半分くらいわからないけど
スーパーの駐車場に寝っ転がって、私は絶妙なバランスで保たれている世界について考えた。

わかったことが二つ。
一つは、あかりはタトゥーシールで世界の絶妙を保っていたこと。
二つめは、駐車場で寝っ転がるとやっぱり轢かれそうでとっても怖い。

あかりへ
あのさ、絶対秘密やけど私このスーパーマーケットに安達くんを連れてくることはできなかった。キスしたけど。キスしたけど、明日からも、私は一人であの屋上を眺めると思う。
村田

とりあえずあかりが消えたこの世界は今日も普通に回っている。

2018年10月22日

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