short story series『と、私も前々から考えていた』横断歩道 case 05

作:堀愛子

僕が最近一番気になるのは、妹のこと。

中学2年の妹の秘密。

部屋の隅の、ペンとノート。

妹が秘密にしてるのは、あの日記。

今日何をしたとか、誰が好きとか、そんなことは書いてなくてただ

「死にたい」理由が書いてある。

妹は死にたいらしい。

死にたい、それは自分にはよく分からない感情だった。

授業中にお腹が鳴りそうな時、先生にみんなの前で怒られた時、死にたくなるけど。

マジで死にたい気持ちなんてやっぱり僕にはわからない。わからなくて怖くなって、でも日記を読む手は止められなくて。

妹がヒョロッと帰ってくるのを恐れながらもページをめくり続ける。

妹は死にたいらしい。

僕だけが知っている秘密だから本人にも母親にも隠してるけど。

でももうひとつ、僕が知っていることがある。

妹は毎日、帰り道。

コンビニの近くの横断歩道。

信号が赤なら止まるし、青になれば歩き始める。

妹は横断歩道をちゃんと歩く。

ルールを守って。

僕はそれを見てさらに怖くなった。

日記は嘘じゃないか、と思ったわけじゃない。

僕は、

こうして日記を秘密にするし、妹の本心を知らないままにしておく。

2018年11月16日

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