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《イギリス情報》 サンデーロースト

全イギリスを代表する料理 
しがらみを超えて定着したイギリスの国民食 

文・撮影/市川路美 

日本人が誤解するイギリスという国

イギリスは日本人にとって馴染みの深い国ですが、多くの人が間違った認識をしています。イギリスという名前のせいです。イギリスの正式名称は、グレートブリテン及び北アイルランド連合王国(The United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland)。とても長い名前なのでUKと訳されます。

世界でUKの事をイギリスと呼んでいるのは日本人だけ。その為日本の人達は、イギリスを一つの国のように思いがちですが、実際は4つの非独立国であるイングランド、ウェールズ、スコットランド、北アイルランドで成り立つ連合王国です。政治、法律、教育、医療などが、それぞれの国で独自の制度を有します。

例えば通貨。同じポンドでも各国で異なるデザインの紙幣を発行しているので、スコットランドで両替したポンドをロンドンで使おうとすると、「これは使えません」と突き返される事があります。イギリス国外での両替は、イングランドポンドしか出来ないので注意が必要です。通貨だけでなく色々な面で異なる事が多いので、イギリスを旅行する際は一つの国ではなく、4つの国の連合国家である事を常に意識して行動した方が良いのです。

西洋の国の存在が、日本に伝えられたのは江戸時代。鎖国をしていたので、ポルトガルとオランダだけが世界を知る窓口でした。

当時、既にグレートブリテン島内にはスコットランドやアイルランドが存在していたのにもかかわらず、ポルトガル人とオランダ人は主力勢力であったイングランド王国の存在だけを日本へ伝えました。そんな江戸時代の間違ったイギリスの認識が、現在まで続いてしまっているのです。

イギリス料理への心理的な葛藤

とは言え、4つの国の中で一番大きなイングランドの影響力がとても強い国である事も事実です。だからこそイングランドの次に大きなスコットランドは、常に強く反発しています。

長い歴史の中で、イングランドとスコットランドは戦争を繰り返してきました。

イングランドの首都ロンドン
スコットランドの首都エディンバラ

スコットランドは屈辱を強いられる事が多かったので、現在においてもスコットランド人はイングランドをかなり目の敵にしています。イングランドの人達もスコットランドを下に見る傾向があるので、両国の確執はかなり根深いと思います。

欧州連合離脱を問う国民投票があった時も、スコットランド人の殆どが欧州連合への残留を望みました。イングランドに与するより、欧州連合と共に在りたいとの意思が強く反映した結果です。

スコットランド人はイギリスを形成する4つの国の中でも特に愛国心が強い人種。自己紹介の時はスコットランド人である事を必ず強調します。スコットランド人に顕著ですが、4つの国の人達はイギリスとひとまとめにされる事を嫌う人が多いので配慮が必要です。

そんな背景を知っているからこそ、イギリス料理とひと括りにしてよいものなのかと、常日頃思い続けてきました。イングランド料理、スコットランド料理、ウェールズ料理、北アイルランド料理、きちんと分けて紹介せねばと、下手な使命感すら感じていました。でも幾度となくイギリス4か国を訪れていますが、若干の違いはあるものの、大きな違いを発見出来ずにいます。

そもそもイギリスの人達は、食に関してとても無頓着。一つの国として扱われる事には、あれだけ大きな抵抗を示すのに、食べ物に関しては全くスルーです。他の面での統一は無理そうですが、食べ物的には確実に統一を果たしている国だと思います。

サンデーロースト

食べ物以外に関しては、とても複雑な国イギリス。そんなイギリス全体を代表する料理がサンデーローストです。

本来は日曜に行く教会の礼拝の後で、家族揃って食べる週末の食事を意味しました。現在ではバラバラの家に住む家族が週末に揃って楽しむ昼食と夕食を兼ねた食事、または土曜の夜遊びの後、昼頃までゆっくり寝てから食べる朝食と昼食を兼ねたランチを意味します。

イギリス人の週末の悦びサンデーロースト

一週間に一度、家族全員が揃って楽しむ食事。だからこそイギリス人の誰もが大好きな肉のローストを食べるようになったので、サンデーローストと呼ばれるようになりました。

●サンデーローストの肉
ローストされる肉は牛か羊が一般的で、季節によっては鴨やガチョウ、クリスマスの時期には七面鳥の肉が使われます。最初の10分間は200℃以上の高温で焼き目を付け、その後は150℃位に温度を落としてじっくり焼き上げます。

絶妙な焼き加減の肉

一番ポピュラーなのが牛肉で、特にヨークシャ・ビーフやスコティッシュ・ビーフはブランド化されていて別格扱いされます。基本的にきちんと産地が表記されている肉は美味しいので、メニューにあったら絶対に食べるべきです。

牛肉が一番ポピュラーですが、一番愛されているのはラム肉。イギリスは田舎へ行くと、人より羊の数の方が多くなります。ラム肉はクセが強い印象がありますが、イギリスのラム肉は不思議とクセが少なく食べやすいのでお勧めです。

イギリス人は伝統的に豚肉を食べないのですが、最近のグルメブームで豚肉が注目を浴びるようになりました。サンデーローストのメニューにもし豚肉を見つけたのなら、食べてみるべきだと思います。最近のグルメのトレンドを熟知したシェフがいるレストランかと思うので、新しい美味しさを期待出来ます。

●グレイビーソース
肉をローストする際に出る脂で玉ねぎを炒めソースにしたものがグレイビーソース。昔は手作りする人が多かったのですが、最近はレストランでも市販のソースを使うのが主流です。

何にでもかけるグレイビーソース

スーパーマーケットに行くと、沢山のメーカーのグレイビーソースが販売されています。粉末から瓶詰、色々なタイプがありますが、どのメーカーのどのタイプのグレイビーソースも似たりよったりな味です。イギリスでは本当に何にでもグレイビーソースをかけて食べるので、絶対に避けては通れない味です。

●野菜
サンデーローストで欠かせない野菜はジャガイモです。マッシュポテト、ベイクドポテト、茹でたジャガイモ、色々な形で調理されます。イギリス料理は油断すると茶色一色になってしまうので、グリンピースやブロッコリーなどの緑系の野菜や、ニンジンなどの赤系の野菜が彩りとして付け加えられます。

サンデーローストを構成する食べ物

基本的にジャガイモ以外に味は付けません。ただ茹でただけの野菜となるので、グレイビーソースと一緒に食べます。

●ヨークシャー・プディング
サンデーローストに欠かせないのがヨークシャー・プディング。シュークリームの皮のようなパンです。プディングと呼ばれていますが甘い訳ではなく、パンと呼ぶのも何か違う、とても軽くてフワフワした食べ物です。

サンデーローストの準主役的存在

サンデーロースト発祥の地とされているのがイングランド北部のヨークシャー地方。この地方の名物であるヨークシャー・プディングが、サンデーローストには必ず添えられる決まりです。

何時何処で食べるのか

イギリスを訪れたら絶対に食べるべきサンデーロースト。日曜日はイギリス全土、殆どのレストランでサンデーローストを用意しています。通常は12時頃に昼食を食べるイギリス人ですが、日曜日だけは遅い時間にランチを食べます。

典型的なサンデーローストの形

特にサンデーローストを食べる人達は、朝食と昼食、または昼食と夕食を兼ねるので、人によって食べる時間がかなり異なります。その為サンデーローストを提供するレストランは、昼過ぎから夜にかけて、かなり長い時間に渡って何時でもサンデーローストを注文出来るようになっています。


(2021年12月28日発行「素材のちから」第43号掲載記事)

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