見出し画像

《キューバ情報》 キューバのソウルフード

世界の豆料理キューバ編 
カーマニアにはたまらないクラシックカー天国 

文・撮影/市川路美 

キューバとクラッシックカーの関係 

カリブ海最大の島キューバは、レトロな街並みと美しいビーチ、サルサを愛する陽気な人達が代名詞となっている魅惑溢れる国。野球、チェ・ゲバラ、葉巻やラム酒でも有名です。そんな数あるキューバの名物の中に、クラシックカーも含まれます。

キューバはカーマニアの人達にとって天国のような国。アメリカの古き良き時代のクラシックカーが現役として活躍しているのです。キューバのレトロな街並みを1950年代に製造されたアメリカ車が普通に走行しているさまは何ともフォトジェニック。古い映画の世界に迷い込んだような気分になり、車に興味がない人でもテンションが上がってしまうはず。ただ観光客にとっては魅力的でも、キューバの人達にはとても厳しい現実です。それでは何故、キューバではアメリカのクラシックカーが現役で使用されているのでしょうか?

キューバのレトロな街並み
映画のワンシーンのよう

1902年、キューバは400年近くに及んだスペインによる植民地支配から解放され独立を果たしました。その際にアメリカから支援を受けたこと、そして地理的にとても近いことから(フロリダ州から150キロメートルの距離)、アメリカから多くの企業が進出し、同時にアメリカ車も大量に輸入されました。スペインから独立後、キューバはアメリカに依存するようになり、ついにはアメリカの植民地的存在となってしまいます。そのため、今度はアメリカからの独立を目指すようになりました。

1959年、キューバ革命により誕生した新カストロ政権は、社会主義国となることを宣言します。米ソ冷戦時代だったので、キューバはアメリカから敵視されるようになり国交は断絶。1962年のキューバ危機以降は、対キューバの貿易を全面的に禁止するなどの厳しい経済制裁を加えるようになりました。

自由に車を輸入することができなくなっただけでなく、鉄やゴムなどの材料も不足するようになったので、自国で車を生産する道も閉ざされました。同時に政府は新車販売を禁止、市場には中古車しか出回らなくなります。そのためキューバでは、1959年までにアメリカから輸入されていた車を、修理に修理を重ね現在まで使いまわす以外の選択肢がありませんでした。

2014年には新車の売買が自由化されるようになったのですが、価格があまりにも高すぎました。結果、新車を購入できるようなキューバ人は殆ど存在せず、今でも街中を走行するのはクラシックカーが主流です。

キューバを訪れる機会があったら、クラシックカーを見るだけではなくて是非乗ってみてください。レンタカーとして貸出しているだけでなく、多くのクラシックカーがタクシーとして使用されています。ただし、通常のタクシーのようにメーターはついていないので、ぼられないよう注意しましょう。

キューバのレンタカー
キューバのタクシー

乗る前にタクシードライバーとの事前交渉が絶対的に必要となります。そして、値段は交渉次第でかなりピンキリです。キューバのレトロな街並みをクラシックカーで疾走するのは、格別な経験となるはずです。まるで過去にタイムスリップしたかのような感覚に陥るでしょう。

ホテル前にいるタクシーはコンディションが良い

キューバでは車は親から子どもへ代々受け継がれるもの。だからこそ、キューバで走行しているクラシックカーの多くは、よくよく観察してみると結構な改造をほどこしてあります。クーラーの代わりに扇風機を取り付けるような珍改造の他に、50年代の車のオーディオ機器にUSBの差し込み口を取り付けるような近代的(?)な改造も多く見られて非常に興味深いです。キューバでは常にどこかで誰かがボンネットを開けて車の修理をしているので、是非細部まで注目してみて下さい。

キューバ風エアコン
街の至る所で車を修理

キューバの国民食フリホーレス

キューバ風豆料理と白いご飯バナナ添え

ソウルフルなクラシックカーでドライブを楽しんだ後は、キューバを代表するソウルフードを食べましょう。フリホーレス・ネグロスと呼ばれる黒インゲン豆の煮込みです。キューバ人家庭の食卓に登場する回数が一番多いだけでなく、国民からとても愛されている料理です。

キューバの首都ハバナに住むアレハンドロさんに、フリホーレス・ネグロスを作ってもらいました。

フリホーレス・ネグロスのレシピ

●材料
・黒インゲン豆 300g
・ピーマン 1個
・パプリカ 1/2個
・玉ねぎ 1/2個
・ひまわりオイル 大さじ2
・ニンニク 4片
・ローレルの葉 3枚
・クミンパウダー 小さじ1
・オレガノ 小さじ1/2
・塩 小さじ1
・砂糖 ほんの少し
・水 1.2リットル

今回実演してくれたフリホーレス・ネグロスは、ベーコンと豚の骨を一緒に煮込んでいますが、キューバでは肉類を入手するのがかなり難しいので、植物性のものだけで作る方が多くなっているとのことでした。

①黒インゲン豆をよく洗った後、たっぷりの水に浸します。黒インゲン豆は皮が厚いので、理想としては調理する1日前から、最低でも5時間は水に浸しておくことが必要です。

黒インゲン豆

②豆を浸しておいた水を捨てて、1.2リットルの水を加えます。肉類を入手できた時は、食べやすい大きさにカットして一緒に加えます。脂身の多いベーコンを使用するのが一番美味しいとのことでした。

脂身の多いベーコン

③黒インゲン豆が入った鍋を火にかけます。水が沸騰したら弱火にし、蓋をして2時間ほどコトコト煮込みます。圧力鍋があれば時間をかなり短縮できます。強火で調理し圧力がかかったら火を弱め10分ほど調理したら出来上がりです。
キューバはエネルギー資源が不足しているため、政府から全国の女性にむけて圧力鍋が支給されました。そのためどの家庭のキッチンにもお揃いの圧力鍋があります。何とも社会主義的な現象だと思いました。

圧力鍋が便利

④黒インゲン豆を煮ている間にソフリートを作ります。フライパンに細長く切ったピーマン、パプリカ、玉ねぎ、そしてみじん切りにしたニンニク、塩、オレガノ、クミンパウダー、ローレルの葉を入れます。その上からたっぷり目のひまわりオイルを入れて弱火にかけます。野菜がクタクタになるまで、油で野菜を揚げるというより、油で煮る感覚です。理想はオリーブオイルなのですが、キューバではオリーブオイルが高価すぎて一般家庭では手に入りません。そのため、ひまわりオイルを使用します。

ソフリート
上からたっぷりオイルを加える

⑤煮込んで柔らかくなった黒インゲン豆にソフリートを加えます。

⑥味見をして、足りない調味料を加えてから更に30分ほど煮込みます。この時に隠し味として砂糖をほんの少し加えるのがコツなのだそう。

コトコト煮込む

カレーのように2日目以降が更に美味しい

フリホーレス・ネグロスは作ったその日に食べるより、3日目の朝が一番美味しいといいます。最初はサラサラなスープが、日が経つにつれ濃くなり、とろみがついてシチューのようになるからです。キューバの人達はフリホーレスを必ず白米と一緒に食べます。深皿に白米を盛り、その上からフリホーレス・ネグロスをたっぷりかけて食べます。

日本人の口によく合う味

この時忘れてはならないのがバナナ。本来は揚げたバナナを添えて食べるのですが、キューバでは常に物が不足しています。特に油は非常に貴重で、揚げ物をするのがとても難しくなっています。なので最近は、殆どの家庭で揚げバナナではなく生のバナナを添えて食べているのだそう。キューバを代表するキューバ料理ではありますが、何だか懐かしい味がする、美味しい豆料理でした。


(2023年3月31日発行「素材のちから」第48号掲載記事)

「素材のちから」本誌をPDFでご覧になりたい方はこちら

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?