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《スペイン情報》 ペスティーニョス

アンダルシア地方を代表する郷土菓子 

文・撮影/市川路美 

スペインを代表する揚げ菓子 

スペイン南部アンダルシア地方に昔から伝わる揚げ菓子がペスティーニョス。オリーブオイルと白ワインがたっぷり入った生地を揚げ、ハチミツに浸したお菓子です。

ペスティーニョス

元となっているのはアフリカのモロッコの人達がラマダン明けに食べていたシュバキアというお菓子。ラマダン期間中は日中に飲食することが出来ないので、日没後に栄養価の高い食べ物を口にします。薄力粉、油、ハチミツの組み合わせで作るエネルギー価の高いシュバキアは、辛いラマダン期間を乗り切るために必要不可欠な食べ物です。

そのシュバキアがモロッコからやってきてスペイン風に変化を遂げました。モロッコなどのイスラム教国ではアルコールの飲酒を禁じているので、ワインがたっぷり入っていることが一番大きな違いです。

当初はアンダルシア地方を代表する郷土菓子だったのですが、その美味しさから直ぐにスペイン全土に広まりました。キリスト教を信仰するスペインにはラマダンの習慣はありません。しかし、ペスティーニョスはモロッコと同様に、宗教行事と密接な関わりを持つようになります。

キリスト教徒にとってクリスマスと同じくらい重要な意味を持つイースターは、イエス・キリストが磔で処刑されてから3日後に復活したことを祝う祭です。スペインではこの復活祭から逆算した40日の間、イエス・キリストが荒れ野で40日間断食したことに基づいて節食する習慣がありました。

そのため、ラマダンと同じように腹持ちの良いエネルギー価の高いお菓子が必要だったのです。近年はイースター期間に節食する敬虔な信者が少なくなっているのですが、イースターにペスティーニョスの習慣は残り、風物詩となりました。

ペスティーニョスはイースターの季節になると、お菓子屋さんのウィンドーの一面を飾るお菓子です。もちろん手作りする人もいるのですが、成形したり揚げたりするのに時間がかかり、かなり作るのがめんどくさいお菓子なので、近年はお店で購入する人がほとんどです。

今回はペスティーニョスの本場であるアンダルシア地方ラ・リネアに住むズリさん一家に、この有名な郷土菓子を作ってもらいました。

ズリさん一家

ズリさんはパンやお菓子作りのエキスパート。教室で教えたり、ブログなどでレシピを公開しています。

●ペスティーニョスの材料
薄力粉 400g
エキストラバージンオリーブオイル 100ml
白ワイン 100ml
オレンジの果汁 100ml
オレンジの皮 1個分
レモンの皮 1個分
アニスシード 20g
塩 少々
揚げ用油(オリーブオイルだとカラッと揚がらないので、ひまわりオイルが好ましい)

1 オレンジとレモンの皮をピーラーなどを使って剥きます。皮の白い部分は苦味が強く出るので、出来るだけ残さないようにしましょう。皮の色がついた部分だけを薄く削り取ります。オレンジやレモンの他にみかんを使っても美味しいです。そしてオレンジとレモン、両方の皮を使った方が味に深みが出ます。

2 フライパンにオレンジなどの皮を入れ、分量のオリーブオイルを注いで火をつけます。一緒にシナモンスティックを入れる人も多いです。オレンジの皮などが焦げないよう火加減には十分注意して下さい。弱火で約10分ほど、オリーブオイルにオレンジの皮やシナモンスティックの香りを煮出します。香りがきちんと染み込むまで煮出す事が重要ですが、オリーブオイルのフレッシュ感が損なわれるので、10分以上火にかけるのは止めましょう。

3 10分ほどたったらアニスシードを加え、少し火を強めます。しばらくすると、オリーブオイルに細かい泡が立ち盛り上がってきます。1〜2分ほどが目安で、この状態を確認したら直ぐに火を止めます。

オリーブオイルで煮出し

4 そのままの状態で数時間置きます。長い時間置くことで、オレンジなどの皮やアニスシードの香りがオリーブオイルによく染み込みます。最低でも数時間、出来れば前日の夜に用意するのがベストです。

5 大きめのボウルに分量の半分の薄力粉を入れます。

6 フライパンのオリーブオイルからオレンジなどの皮を取り除き、薄力粉の入ったボウルに加えます。基本的に皮は取り除くのですが、細かく砕いて入れても美味しいのだそう。スペイン人はアニスシードが大好きなのでそのまま生地に入れますが、シードのプチプチした食感が苦手な方は取り除いても大丈夫です。

7 ボウルに白ワイン、オレンジジュースを加え、ヘラを使って混ぜます。

まだゆるい生地

8 ある程度混ざったら塩を加え、さらに薄力粉を加えます。少しずつ様子を見ながら薄力粉を加え、生地がボウルの壁にくっつかなくなるまで調整します。この段階になったら手を使って揉むようにして混ぜます。

粉を加えながら調整
手で揉む

9 もちもちして手につかない、耳たぶくらいの硬さが目安です。丁度よい硬さになったら一つにまとめ、布巾で蓋をしてそのまま30分置きます。

耳たぶの硬さが目安

10 ボウルから生地を取り出し、粉をふった板の上に置きます。

11 こん棒を使い生地を5mm程度の厚さに伸ばします。

成形する

12 生地をお好みの形に成形します。伝統的には正方形にカットして対角線の生地の端を真ん中で重なり合うように折ってとめます。細い棒状に伸ばしてドーナツ型に成形するのも簡単です。

好みの形で

13 生地を成形したら揚げる前に10分ほど置きましょう。

14 鍋一杯に揚げ用油を用意します。オリーブオイルで揚げるとカラッと揚がらないので、ひまわり油などを使って下さい。生地を入れたら泡が立つくらい十分加熱します。

15 生地を一個ずつ入れて揚げ、黄金色になったら取り出します。キッチンペーパーなどを敷いたバットに置いて、余分な油は取り除きましょう。

揚げたてのペスティーニョス

16 揚げたペスティーニョスを冷ましている間に、ハチミツに水を加えて弱火で熱し、ハチミツ液を作ります。揚げた生地をよく冷ましてから、このハチミツ液にくぐらせます。砂糖が入らない生地なので、かなりしっかりめにハチミツ液にくぐらせましょう。

ハチミツ液をからめる

モロッコのシュバキアは、ハチミツに砂糖を加えた更に甘いシロップを使います。シュバキアより、スペインのペスティーニョスの方がかなり甘さ控えめとなるので、日本人的には断然美味しいと思います。

ペスティーニョスはハチミツではなく、砂糖または砂糖とシナモンを混ぜたものをまぶして食べても美味しいです。その場合は、ペスティーニョスがまだ熱い揚げたてのうちにまぶしましょう。

特別な日に食べるお菓子

ペスティーニョスは出来たてを食べるより、次の日、または数日置いてハチミツをよく浸透させてから食べる方が美味しいです。2週間ほど日持ちもするので、しばらくそっとしておくべきだと誰もが十分理解しているのですが、美味しすぎてついつい食べてしまいます。その結果、作ると直ぐなくなってしまい、数日置いてから食べる美味しさを未経験な人が殆どです。

今回取材に協力してくれたズリさんのペスティーニョスも、かなり大量に作ったのにもかかわらず一瞬にして消え去りました。

日頃はケーキ型に入れてパパッと焼き上げるスイーツを作ることが多いので、ズリさん家でもペスティーニョスはクリスマスやイースターの時にしか登場しない特別なお菓子。ズリさん一家だけでなく、スペイン人の誰もが大好きな、スペインを代表するお菓子です。


(2022年9月30日発行「素材のちから」第46号掲載記事)

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