見出し画像

《北欧情報》 北欧の夏を彩るベリーたち

北欧に、短いけれど美しい夏がやってきた 

文・撮影/市川路美 

北欧とベリーの関係 

夏に北欧を旅すると、庭先や道端でボウルを持ってウロウロする人に遭遇することが多くずっと不思議に思っていました。フィンランドでホームステイを体験し、ようやく長年の謎が解けました。

北欧の人達は朝食としてヨーグルトにブルーベリーを入れて食べることが多いのですが、北欧ではお店でブルーベリーを購入する人は殆どいません。至る所にブルーベリーが茂っているからです。自宅の庭に生えているブルーベリーを食べ尽くすと、近所の道端まで遠征して摘みにでることになります。
結果的に私も夏の間に北欧に滞在する時は、他の人たち同様、朝方にボウルを持ってウロウロするようになりました。

ブルーベリー摘み
ベリー摘み機

厳しい寒さが長く続く北欧では、冬になると作物が殆ど育たず、ビタミンが不足しがちになります。昔から北欧の人達は、夏の間にベリー類を大量に摘んでジャムなどに加工し、冬の間の貴重なビタミン源として活用してきました。冬でも野菜や果物が手に入るようになった現代でも、夏になるとベリーを摘みに出かける人が多いです。北欧の人達にとってベリーは欠かせないもの。スイーツなどに使用するだけでなく、魚や肉料理にも上手にベリーを組み合わせます。

北欧を代表するベリー

北欧はベリーが本当に豊富な国。日本でもお馴染みのストロベリー、ブルーベリー、ラズベリーの他に、北極圏ならではのベリーが存在します。

◇クラウドベリー
科・種・目:バラ科キイチゴ属
和名:ホロムイイチゴ
樹高:10~20cm
収穫時期:7月下旬から8月上旬

お店で購入すると一番高価なことから、ベリーの王様と呼ばれるのがクラウドベリー。湿地帯の植物なので、湖の近くに自生しています。隠れた場所や、ズブズブと足をとられて踏み込めないような場所に生えている事が多いので、採集するのがとても困難。だからこそクラウドベリーを見つけると、北欧の人達のテンションがかなり上がります。

果実は成熟するにつれ緑がかった黄色から赤、完熟すると琥珀色に変化します。とても柔らかいベリーなのですが、ゴリっとした種があるので、食べ慣れていないと気になるかもしれません。煮込んでジャムにするより、タッパーに入れて砂糖をかけ、そのまま冷凍にする家庭が多いです。ビタミンCをはじめ、ビタミンE、食物繊維、ポリフェノールが豊富に含まれ、美肌効果もあるのだそう。

◇ビルベリー
科・種・目:ツツジ科スノキ属
和名:ビルベリー
樹高:20~60cm
収穫時期:7月末から8月末

北欧産の野生種ビルベリーはブルーベリーの一種で、殆ど見た目は同じ、でも上位互換と考えていいかと思います。ブルーベリーは眼精疲労に効果があるアントシアニンが豊富なことで有名です。

ブルーベリー

100gあたり140mg含まれているのですが、ビルベリーには670mg、なんと5倍近くのアントシアニンが含まれています。抗酸化作用、糖尿病性網膜症の予防などにも有効とされているので、医薬品またはサプリメントの天然原料として人気があります。食用に改良されたブルーベリーより酸味が強いので、そのまま食べるよりジャムやジュースに加工されることが多いです。ビルベリーを使って作るパイは甘酸っぱくて本当に美味しいです。

ブルーベリーのパイ

果実を紫色に染める天然の色素成分がアントシアニン。ブルーベリーは皮こそ紫色ですが、果肉は薄い緑色をしています。ビルベリーは実の中まで紫色をしているのが大きな特徴。夏の間は一日中太陽が沈まない、白夜の地域で育つビルベリー。24時間紫外線を浴び続けるので、皮だけでなく果実の中にまでアントシアニンを蓄えることができるのです。

ビルベリーの果汁は服などに付くと落ちにくいので注意が必要です。この性質を利用して、北欧では子供たちがきちんと歯磨き出来たかどうかのチェックにビルベリーの果汁を使っているのだそう。

◇リンゴンベリー
科・種・目:ツツジ科スノキ属
和名:コケモモ
樹高:10~40cm
収穫時期:8月後半から10月前半

北欧料理に欠かせない食材がリンゴンベリー。かなり酸味が強いので生食には向いていません。ジャムやソースに加工して、パンやデザートだけでなく、肉や魚料理にも使います。特にトナカイ肉との相性が抜群なのだそう。北欧の人達にとって一番馴染みの深いベリーで、どの家庭にも必ずリンゴンベリーのジャムが常備されています。

リンゴンベリーのジャム

マイナス40度の極寒でも耐えることのできる強い植物で、痩せた土地でも逞しく育ちます。その反面暑さには弱いので、寒冷地でしか見かけることがありません。北欧ではベリー摘み機が一家に何台か必ずあります。バケツとベリー摘み機を持った人達をそこら中で見かけるのが北欧ならではの夏の風物詩。特にリンゴンベリーは何処にでも生えているので、一度に大きなバケツ2~3個分もの量を摘んでいる人が多いです。

フィンランドではリンゴンベリー摘みの世界選手権も開催されます。1時間でリンゴンベリーを27.98kg摘んだのが大会記録。参加費用は無料で賞金も出るので、国内外から100名以上が参加し、毎年とても盛り上がるのだそう。

リンゴンベリーはポリフェノールとビタミンEを豊富に含み、抗酸化作用があります。近年はスーパーフード的な扱いをされることも多くなってきました。安息香酸と呼ばれる発酵をうながす乳酸菌などの微生物の繁殖を防止する成分も含まれているので、添加物を入れなくても長期間保存が可能なのも魅力の一つ。

リンゴンベリーだけでジャムを作るのは勿論、リンゴや他の果実と混ぜたりもします。北欧では肉料理にリンゴンベリーのジャムを添えるのが一般的。IKEAのミートボールに添えられているのも、リンゴンベリーのジャムです。

料理にはリンゴンベリーを添える

◇グーズベリー
科・種・目:スグリ科スグリ属
和名:セイヨウスグリ
樹高:1~3m
収穫時期:6月から7月

美肌効果が抜群なことから、海外セレブから大人気のグーズベリー。耐寒性は強いのですが暑さに弱い植物で、北欧に限らず北ヨーロッパの一軒家の庭先で良く見かけます。
ジャムやソースに加工される事も多いのですが、甘さも十分あるので、そのまま生で食べても美味しいです。

◇ブラックカラント
科・種・目:スグリ科スグリ属
和名:クロスグリ(黒カシス)
樹高:1~2m
収穫時期:7月から8月

独特の香りと風味を持つブラックカラント。日本ではフランス語名のカシスの方が浸透しているかもしれません。北ヨーロッパの国々で昔から栽培されていて、食用というより病気予防や治療に使われていたのだそう。今でも風邪をひいた時はブラックカラントを食べるといいます。黒に近い紫色で、ビルベリー同様アントシアニンが豊富に含まれていますが、他の紫系のベリーとは異なる独特のアントシアニンです。一度収穫すると劣化するのが早いので、乾燥させたり、ジャムやリキュールに加工します。

◇レッドカラント
科・種・目:スグリ科スグリ属
和名:赤スグリ(グロゼイユ)
樹高:40cm〜1.5m
収穫時期:6月から7月

北欧はブラックカラントよりレッドカラントの方がポピュラーです。寒さにとても強いので、ラップランドのような北部の極寒の地でも栽培されています。酸味がとても強いので、砂糖を加えてジャムなどに加工して食べます。

北欧の夏の風物詩

北欧では家族揃って野山へでかけ、ベリー摘みをすることが多いのですが、レジャーとして楽しむというより、必要不可欠な家族の共同作業のような感じです。個人的にはボウルを持った北欧の人達を見かけるようになると、夏が来たんだなと思います。


(2022年6月30日発行「素材のちから」第45号掲載記事)

「素材のちから」本誌をPDFでご覧になりたい方はこちら

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?