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《ギリシャ情報》 メゼの魅力

楽しいギリシャの食習慣 

文・撮影/市川路美 

日本人好みのギリシャの食のスタイル 

欧米の国々では前菜、メインディッシュ、デザートの順で食べます。前菜として登場するサラダやスープを食べ終わるまで、メインディッシュは登場しません。

私達日本人は「三角食べ」を推奨されてきました。ご飯やパンなどの主食、肉料理や魚料理などの主菜、和え物やサラダなどの副菜、汁物、全てを一度に並べ、それらを均等に順繰りに食べます。

そんな三角食べが小さい頃からの食習慣として染み込んでいた私。ヨーロッパに移住した当初はとても苦労しました。25年経った今でも前菜やメインだけを食べ続ける事が苦手です。途中で飽きてしまうんです。飽きてしまった前菜を残し、お皿を下げてもらってメインディッシュを食べる。そうなるとつい先ほどまで食べていた前菜が恋しくなる。でも一度メインディッシュを食べ始めたら、もう二度と前菜には戻れないのです。

典型的な日本風の食スタイルを維持する私にとって、最高に魅力的に思えたのがギリシャの食習慣であるメゼです。

メゼとはペルシャ語で「味わう」を意味する、冷製または温製の、辛味、酸味、塩味のきいた小皿料理の事。ギリシャをはじめトルコや中東でも親しまれている食のスタイルで、特にギリシャの人達はテーブルに小皿料理を沢山並べて食べるのが大好きなんです。

色々な物を一度に少しずつ食べる事の出来るメゼは、日本人なら絶対大好きな食のスタイルだと思います。

◇ザジキ

ギリシャ料理のメゼの中で、一番ポピュラーな料理がザジキです。キュウリを水切りヨーグルトであえた冷たい前菜で、味付けはハーブとすりおろしたニンニク。ディップとして肉やパンと一緒に食べます。ギリシャ人の食卓に絶対欠かせない食べ物で、ギリシャの人達はテーブルの上にザジキがないと食事を始めません。
ザジキは近年ヨーロッパで人気が急上昇中。各国のスーパーで、タッパーに詰めたザジキが売られるようになりました。ヨーロッパで一番浸透しているギリシャ料理だと思います。

◇フェタチーズ

ギリシャを代表するチーズがフェタです。山羊や羊の乳で作るフレッシュチーズで、古代ギリシャ時代から食べられています。なんと現存する世界最古のチーズなのだそう。ギュッと引き締まった固めのチーズで、食塩水の中で熟成させるので塩味が強いです。そのまま、又は色々な料理に加えて食べます。
各国でフェタと同様の製法でチーズを作っていますが、フェタを名乗れるのはギリシャ産のチーズだけ。ギリシャにはフェタチーズ以外のチーズも存在しますが、ギリシャ人は、ほぼほぼフェタチーズしか食べません。
チーズ売り場へ行けば一目瞭然で、フェタチーズは売り場面積の95%以上を占めます。ギリシャ人は本当に大量のフェタチーズを食べるので、ギリシャ人が購入するフェタチーズの大きさに注目して下さい。キロ単位で売られているのですが、皆さんバケツ一杯位の塊を購入しています。

◇ホリアティキサラタ

ギリシャでサラダと言えば、一般的にホリアティキサラタを意味します。小さくカットしたトマト、キュウリ、ピーマン、オリーブの実、玉ねぎのサラダ。フェタチーズがサラダの上にどーんと一枚トッピングされる事が多いです。
ギリシャにはサラダ用ドレッシングが存在しません。サラダの味付けはオリーブオイルとワインビネガー。レストランではオリーブオイルとワインビネガーの瓶がセットになって卓上に置かれているので、自分好みの味付けをします。
サラダの上にフェタチーズがのっかっている時は、チーズがかなりしょっぱいので塩は加えない方が無難です。豪華バージョンになるとフェタチーズの他に、ゆで卵やサーディンの塩漬けなど、更に具材が増えます。

◇メリッツァノサラタ

ギリシャ人が愛して止まないサラダが、焼きナスを使ったメリッツァノサラタ。ナス好きにはたまらない一品で、本当に美味しいです。ギリシャだけでなくイスラム圏一帯でよく見かける料理で、作る人や食べる場所によってレシピが異なります。どんなレシピで作られても安心確実な美味しさでした。

◇フムス

ギリシャに限らず中近東で食されているヒヨコ豆のディップ。世界的に一番ポピュラーなディップなのではないでしょうか。ベースの味がゴマのペーストなので、日本人も大好きな味です。

◇タラモサラタ

魚卵とパンを混ぜたサラダが、タラモサラタ。日本でもタラコとジャガイモを使ったタラモサラダが市民権を得ていますが、ギリシャ料理のタラモサラタが起源だと知る人は少ないのではないでしょうか。
魚卵としてよく使われるのは塩漬けのコイの卵巣。日本のように辛子明太子を使わないので、ギリシャのタラモサラタは日本人が期待するほどピンク色ではないです。つぶしたジャガイモを使う事もありますが、一般的には牛乳に浸したパンで作ります。
日本のタラモサラダとはかなり趣が異なりますが、ギリシャのパンで作るバージョンもとても美味しいのでおすすめです。

◇ギガンデスプラキ

乾燥させた白インゲン豆をトマトソースで煮込んだ料理。少しスパイシーな味がします。夏は冷たく、冬はアツアツを食べます。
冬バージョンは一緒にソーセージなどの肉類を煮込みます。ピタパンの上にギガンデスプラキとフェタチーズを一緒にのせて食べる人が多いです。

◇ケフテス

ギリシャ風のミートボールをケフテスと呼びます。トマトソースで煮込んでいる事が多いです。普通に美味しいのですが、ただ普通にミートボールなので、もしメニューにトマトやズッキーニのケフテスがあったらそちらを注文して下さい。

◇ムサカ

ヨーロッパの人達にとって一番有名なギリシャ料理はザジキですが、日本人にとって一番有名なギリシャ料理はムサカなのではないでしょうか。ギリシャ全土何処ででも食べる事が出来る、ギリシャの定番中の定番料理です。
トマトソースで煮たひき肉を、油で揚げたナスとジャガイモで交互に挟み、最後にベシャメルソースをかけてオーブンで焼き上げます。ナスまたはジャガイモだけで作るムサカも多く、どのようなムサカを食べても美味しかったです。
ギリシャ以外の外国でムサカを食べると、一番上の層はチーズたっぷりバージョンとなるのですが、本場の味はチーズは使わず、ナツメグの入ったベシャメルソースをこんがり焦がして仕上げます。

◇ピタパン

ギリシャには色々な種類のパンが存在しますが、一番登場回数が多いのがピタパンです。中が空洞のポケット状になっている薄く平たいパンで、焼いた肉と一緒に野菜やディップを詰めたり、ディップだけを付けて食べます。
ただギリシャでは薄いパンだけでなく、空洞のあるふっくらパンやパイ生地もピタと呼びます。ピタの定義の範囲がとても広いので、注文して出てくるまでどんなタイプのパンが登場するのか分かりません。

一日でも早く世界が身近になるように

コロナの後はウクライナとロシアの戦争。世界がどんどん遠くなっている気もしますが、きっと絶対今までの日常を取り戻せる日が来るはずです。安心して海外を訪れる事が出来るようになったら、是非ギリシャを訪れてメゼ料理を楽しんで下さい。


(2022年3月31日発行「素材のちから」第44号掲載記事)

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