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《アルゼンチン情報》 アルゼンチン風ピッツァ
イタリア移民がアルゼンチンにもたらしたアルゼンチンの新国民食
文・撮影/市川路美
とても珍しい氷山の景色
南米大陸のアルゼンチンとチリ南部にまたがるパタゴニア地方は、美しい大自然が魅力の一大観光地。日本の国土の3倍に近い面積を有するので、見る物全てがとても雄大です。
見所が盛り沢山の地域ですが、一番の魅力は何といっても氷河。パタゴニアは南極、グリーンランドについで3番目に氷河の量が多い場所です。
大小合わせて50以上の氷河が存在し、そのうちの47か所がロス・グラシアレス国立公園内に集中しています。その為パタゴニア観光と言えばロス・グラシアレス国立公園を意味するほど重要な観光名所となっていて、ユネスコの世界遺産にも登録されています。
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日本には殆ど存在しない氷河。特にパタゴニアのような大規模なものは、なかなか他では見る事が出来ません。
でも氷河って、結構世界の至る所にあるんです。だからこそパタゴニアで一番注目して欲しいのは、世界的に有名な氷河ではなく氷山の景色。地球上で氷山の方が見る事の出来る場所が限られていて、実はとても貴重な景色なのです。
ロス・グラシアレス国立公園内にあるウプサラ氷河は、南パタゴニア氷原からアルヘンティーノ湖まで60キロメートルに渡って伸びる、南米最大で最長の氷河です。
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スケールの大きさにも圧倒されますが、最大の魅力は氷山です。湖を漂う氷山の、幻想的な景色を楽しむ事が出来ます。気温が上がると氷河が溶け、一日4メートルに近い驚異的な速さで湖まで押し出されます。水に落ちた氷河は、侵食されて氷山となります。
ウプサラ氷河はこの氷山を見る為のクルーズ船がとてもお勧めなんです。「氷山の一角」の言葉通り、水面上に見えている部分はほんの僅か。氷山の総面積の90%以上は水面下にあります。タイタニックのように衝突して沈没してしまわないか不安になりましたが、最新のテクノロジーとプロの航海技術の合わせ技で、氷山の合間をスイスイとクルーズしていきます。
氷山の景色は本当に幻想的。実物を見るまで、氷山とは白い氷の塊なのだと思っていました。でも実際は白ではなく青でした。氷山は氷河から切り離されて出来るもの。元である氷河自体が青いです。
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氷河は降り積もった雪が長い歳月をかけて押しつぶされ、巨大な氷の塊となって出来上がります。何万年という時をかけて、自身の重みで空気を押し出すので、空気を殆ど含まない透明な氷となります。
純度の高い透明な氷は、太陽の紫外線の波長の短い青い光だけを反射して他の色を吸収します。だからこそあんなにも美しいブルーの輝きを放つのです。途方もない歳月を閉じ込めた、氷河だけが作る事の出来る独特の青色です。
アルゼンチンの国民食ピッツァ
地球上で最も珍しい氷山の景色を堪能した後は、アルゼンチン風ピッツァを食べましょう。
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アルゼンチンはイタリアから移民してきた人が多いので、食べ物の根本にイタリア料理があります。イタリアから持ち込まれた多くの料理の中で、一番アルゼンチンに浸透したのがピッツァです。独自の発展を遂げたので、本場イタリアのピッツァとはかなり趣が異なる食べ物となりました。
アルゼンチンの人達はアルゼンチン風ピッツァが大好き過ぎて、本家であるイタリア人よりも頻繁に食べています。国民一人当たりのピッツァ屋の数が一番多いのも、イタリアではなくアルゼンチン。
アルゼンチンの人達は世界で一番牛肉を消費する事で有名ですが、長い間国の経済状態が悪いので、大好きな牛肉をしょっちゅう食べる余裕がありません。その点ピッツァは安くて美味しい。多くのアルゼンチン人が毎日のようにピッツァを食べるようになったので、遂にはアルゼンチンの国民食と呼ばれるようになりました。
ピッツァ発祥の地イタリアには、大まかに2種類のピッツァがあります。ローマ周辺で食べられている薄焼きタイプのピッツァとイタリア南部のナポリ発祥の厚みのあるピッツァです。
アルゼンチン風ピッツァの特徴
アルゼンチンへ移民した多くのイタリア人は、貧困に喘いでいた南部の人達。その為アルゼンチンに持ち込まれたピッツァも、新世界に夢を託してやって来た、イタリア南部のナポリ風ピッツァでした。
食べる物にも困っていたイタリア人が、アルゼンチンへやって来て一番驚いたのは食べ物の豊富さでした。特にアルゼンチンは昔から牧畜がとても盛んな国。美味しいチーズが驚くほど安く出回っていたので、アルゼンチンのピッツァは本家であるイタリアよりふんだんにチーズを使うようになりました。
ボリュームのあるチーズを支えるのには、頑丈で厚みのある土台が必要となります。ナポリ風のピッツァ生地よりベーキングパウダーを多めに入れた、パンのような生地を使うようになりました。チーズの量と土台の厚さ、これがアルゼンチン風ピッツァの大きな特徴です。
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そして忘れてはならないのが、トマトソースの位置付けです。本家であるナポリ風ピッツァの主役は絶対的にトマトソースです。トマトソースの上にモッツァレラチーズとバジルの葉をのせたマルゲリータと、トマトソースだけのマリナーラが二大勢力。そして、ナポリの人達は初めて行くピッツァ屋では味を確かめる為に、まずはマリナーラを食べる人が多いです。
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アルゼンチン風ピッツァは、トマトソースよりもチーズが主役。その為アルゼンチンで一番多く食されているのが、白いピッツァと呼ばれるトマトソースを使わないピッツァです。
フォガツェッタと呼ばれ、厚みのあるパン生地に大量のモッツァレラチーズとスライスした玉ねぎをのせて焼き上げます。レストランによってはサワークリームを加え、オレガノや粒コショウをトッピングしますが、基本的にはチーズと玉ねぎだけのとてもシンプルなピッツァ。フワフワしたパン生地とモッツァレラチーズの相性が抜群で、少し甘みのある玉ねぎが加わると更に美味しさがアップします。日頃イタリア風の、トマトソースが命のピッツァしか食べない私もすっかりハマり、アルゼンチンでは白いピッツァしか食べませんでした。
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ピッツァの味を決めるのはトマトソースだと思っていました。アルゼンチンでトマトソースを使わないピッツァを初めて食べ、その認識を改めました。それにチーズ主体のピッツァの方が当たり外れが少なく確実に美味しいです。
アルゼンチンの牛は、広大な土地で放牧されて育ちます。大自然の中で育つ牛のチーズは、格別の美味しさ。チーズの美味しさに関しては、本場イタリアより断然美味しいと思います。そして、そのチーズの味を一番よく楽しめるのが、白いピッツァなのです。
美味しいところどりの料理
アルゼンチン風ピッツァは、観光地でこそ食べるべき料理の王道です。何処で食べても安くて確実に美味しい料理だからです。特にパタゴニア地方は、世界中から観光客が押し寄せる人気のある地なので、物価がとても高いです。
アルゼンチン風ピッツァは、値段も安くサーブが早いファストフード的な存在でありながら、レストランで着席して、手を使わずにナイフとフォークで食べます。チーズの量が凄いので、手づかみでは食べられないんです。
安くて早い料理なのに、ゆっくり座って食べる事が出来る。物価の高いパタゴニアで、観光の合間に食べるのに最適な、確実に美味しい料理です。
(2022年3月31日発行「素材のちから」第44号掲載記事)
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