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《イタリア情報》 イタリアで流行った長時間発酵のピッツァ生地
コロナ禍はイタリア人をもピッツァ作りに走らせた
文・撮影/市川路美
コロナ禍で見直される食に対する思い
イタリア人はパスタを外食する事を好みません。パスタは家で食べるものだと思っているからです。反対にピッツァは外で食べるものだと思っているので、手作りする人は稀でした。
イタリアのピッツァ専門店は、薪を使った石窯を使う事が多いです。400℃近くにも達する高温の石窯でパリッと焼き上げるイタリアのピッツァ。家庭のオーブンで同じように焼くのは難しく、美味しいピッツァを食べさせてくれるレストランは星の数ほどあります。
それにピッツァ生地を作るのは地味に大変な作業。イタリアのレストランではピッツァが手頃な価格で提供されるので、安くて美味しい一番人気の外食だったのです。ところがコロナが蔓延し、ロックダウンが始まると、レストランが閉まり外食が出来なくなってしまいました。
今まで当たり前のように食べていたピッツァが急に食べられなくなる。イタリア人は週に最低1回はピッツァを食べないと、イタリア人としての原形を保てないとされるので、イタリア人として危機に瀕したのです。
外出が制限され、家に閉じ込められていたので時間だけは沢山ありました。こうしてイタリア人は、ついにピッツァを自宅で焼くようになったのです。レシピがインターネット上を飛び交いました。色々なレシピが存在しますが、コロナ禍のイタリアで流行ったのは長時間発酵のピッツァ生地です。じっくり発酵させると風味が良くなり、モチモチした食感になります。そして時間だけは有り余るほどあったのです。
本来イタリアは、スローフード発祥の地。スローフードとは早くて安くて便利なファストフードに対抗した、伝統的な食文化を見直し、食への関心を高める運動の事です。1986年イタリアの首都ローマに、ファストフードを代表するマクドナルドが開店し巻き起こった抗議運動がきっかけでした。
数十年の時を経て、コロナの蔓延によって、再び食に対する向き合い方が見直された形となりました。手間と時間と愛情を込めて、イタリア人はピッツァを家で焼くようになったのです。
イタリアのピッツァは2種類あります。ローマ風のピッツァは薄いクリスピーな生地。ナポリ風のピッツァは厚めで外側はカリッとして中は柔らかい生地です。今回のレシピはナポリ風。ヴェネツィア在住のニコさんに、本場イタリアの味を伝授してもらいました。
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粉の量は何時ものようにニコの自己流なので若干違うと思います。後でイタリアのレシピ本で確認したら、大体同じ位の分量だったので目安的にこんな感じです。
《ピッツァ生地の材料》
強力粉 250g
薄力粉 200g
ドライイースト 1.5g
砂糖 10g
ぬるま湯 300cc
塩 10g
オリーブオイル 大さじ2杯
●手作りピッツァの作り方
1. ぬるま湯にドライイーストと砂糖を加えて暫く置き、イースト液を作ります。砂糖の代わりに蜂蜜を使っても美味しいです。
室温が高過ぎる場合は冷水を使いますが、その時はドライイーストを粉の方に混ぜます。寒い冬に作る時はぬるま湯の温度を上げますが、40℃以上にならないようにしましょう。イースト菌が元気に活動する温度は28〜36℃位。人肌の温度が最適です。人肌の温度を超えると弱っていき、60℃を超えると死滅してしまいます。温度が低過ぎても活動を停止してしまうので、扱いが大変なのです。
イースト菌と砂糖は仲良しなので一緒にした方が活性化します。砂糖を入れないレシピもありますが、その場合は発酵時間を長めにとる事が肝心です。
2. 大きなボウルに強力粉と薄力粉を入れて軽く混ぜ、真ん中に窪みを作ります。その中に少しずつイースト液を注ぎ混ぜていきます。
3. 生地を捏ねず、ひとまとまりにする程度にして濡れた布巾をかぶせ、30分ほど休ませます。
4. 打ち粉(強力粉)をふった作業台に生地を取り出します。
5. 塩とオリーブオイルを加えて、生地を10分ほど捏ねます。両手の腹に体重をのせ、べたつくようなら軽く打ち粉をして、生地を回転させながら均等に捏ねます。
塩には殺菌効果があり、イーストは菌なので塩に触れると死滅して発酵の力が弱くなってしまいます。塩とイースト菌は出来るだけ触れないようにするべきなので、捏ねる直前に塩を入れるのがポイントです。
ニコは肩が悪いので捏ねる作業は機械を使います。機械が無くても捏ねるのは10分位なので頑張りましょう。ニコいわく、手で捏ねた方が絶対に美味しいとの事。コロナ禍のイタリアでは暇を持て余した旦那さんが、力仕事であるピッツァ生地作りを率先してやるようになったそうです。
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6. 生地のダマがなくなって滑らかになり、耳たぶ位の柔らかさになったら完了です。捏ねれば捏ねるほど良いってものではないので注意して下さい。
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7. 生地を丸めて表面の乾燥を防ぐ為に濡れた布巾をかぶせて10分ほど休ませます。
8. 生地を4等分に切り分けます。
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9. 一つずつ丸めます。切り分けた生地の端を、中心にむけて押し込んでいくような感じで丸めると上手くいきます。出来るだけ丸くするのがポイントですが、生地を触り過ぎると手の温度で表面だけイーストが過発酵してしまうので注意して下さい。
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10. タッパーに打ち粉をして、丸めた生地を間隔をあけて入れフタをします。
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11. まずは室温で一次発酵させます。生地が1.5倍位になったら完了です。冬ならそのまま室温で7時間ほど二次発酵させます。夏は野菜室に入れて10時間以上を目安にじっくり二次発酵させます。
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一番美味しいのはタッパーに入れて直ぐ冷蔵庫に入れ、2〜3日間ほど放置する方法。ただ3日以上になると膨らみが悪くなるので注意しましょう。ニコはピッツァを作る時は何時も、前日の夜に生地を用意して野菜室に入れ、翌日のお昼に食べます。
12. 生地を野菜室から出し、そのまま室温で30分ほど置きます。生地の温度が低過ぎると上手く伸びないからです。
13. ピッツァ生地を成形する間にオーブンを最高温度になるまで予熱します。ピッツァ生地は伸ばした瞬間から劣化が進みます。出来るだけ素早く成形し、オーブンに入れて焼きます。
14. 常温に戻した生地を打ち粉をした台の上にのせ、生地の中心から端へ向かって両手で押すように伸ばします。テレビなどではピッツァ職人が、生地をクルクル空中で回して伸ばしていますが、普通のイタリア人が出来る芸当ではありません。指で少しずつ押しながら地道に伸ばしていきましょう。
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15. ピッツァの耳の部分は決して触らないで下さい。ふちの部分を触ってしまうと上手く膨らみません。耳となるふちに生地中央の空気を押しやるような感じで伸ばし、中央はやや薄め、ふちの部分を厚めに成形します。
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16. 生地にトマトソースを塗り、お好みの具材をのせて最後にチーズをのせます。
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17. 鉄板にオリーブオイルをのばし、その上にピッツァをのせて焼き上げます。最高温度で10〜15分位。チーズが溶けて生地がこんがり焼けたら完成です。
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イタリアとピッツァ
ピッツァの具はお好みで。
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モッツァレラチーズは水分が多いので、水切りして使わないと生地がベチャッとしてしまいます。チーズを半分にカットし、切り口を下に向けてザルに暫く置いてから使いましょう。
具材の基本はトマトソースとモッツァレラチーズ、オレガノですが、ピッツァ・ビアンカ(白いピッツァ)と呼ばれるトマトソースなしのピッツァも試してみて下さい。ピッツァ生地にローズマリーと岩塩をのせて焼き上げ、食べる直前にエキストラバージンオリーブオイルをかけて食べる本当にシンプルなピッツァです。シンプルなだけに、苦労して作った生地の美味しさをとことん楽しむ事が出来ます。
お家でも美味しいピッツァを食べる事が出来るのを知ったイタリア人。それでもやっぱりレストランのピッツァが恋しくてたまりません。イタリアのピッツァ職人は石窯の熾火でピッツァの底を焼き、炎で表面に焼き色を付けます。窯の中を絶妙な感じに保つ事が大切で一番難しい作業なのだそう。ピッツァを窯に入れてから焼き上げるまでの時間は数分。その焼き上がりはプロのみがなせる業です。
コロナ禍で手作りピッツァがブームとなっても、外出制限が解けてレストランが再開した時、イタリア人がまず駆け付けたのはピッツァ屋なのでした。
(2021年6月30日発行「素材のちから」第41号掲載記事)
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