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《スウェーデン情報》 ディルピクルス

スウェーデンの短い夏の風物詩 
スウェーデンのキラキラした夏を閉じ込めたかのような甘酸っぱさが特徴の美味しいピクルス 

文・撮影/市川路美 

スウェーデンの短い夏の間にしか見かけない食材

スウェーデンの人達が愛して止まない食材がディル。セリ科イノンド属の一年草で、独特のすっきりとした芳香と柔らかい葉が特徴的なハーブです。サラダ、マリネ、スープ、肉料理、魚料理。スウェーデンの人達は何にでも大量のディルを入れます。本当にどんな料理にもディルを使うので、スウェーデンではディルの入らない食べ物を見つける事の方が難しいくらい。それほどスウェーデン料理の味を決定づける食材となっています。

ディルは夏になると黄色い小さな花を咲かせます。

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ディルの葉の部分は年間を通して売られていますが、ディルの花が売られるのは夏の間だけ。夏にスウェーデンの市場を訪れると、あちらこちらで可憐なディルの花を見かけます。

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最初は、スウェーデン人はディルが大好き過ぎるので、花まで愛でるようになったのだろうと思っていました。スウェーデンでホームステイを体験して初めて、ディルの花は観賞用ではなく食用なのだと理解しました。ディルは柔らかい緑の葉の部分だけでなく、花も茎も種も全て食用にします。

ディルの花と同様に夏になるともう一つ、普段売られる事のない食材が店頭に並びます。ヴェステロースグルカと呼ばれる小ぶりのキュウリ。

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長さは普通のキュウリの半分位で、皮が少し厚く、身にはしっかりとした歯応えがあります。ディルの花と小ぶりのキュウリ。この2つが市場に並ぶのは夏の間だけ。スウェーデンの短い夏の風物詩となっています。

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ディルピクルスの作り方

ある日、滞在先のお母さんが「スウェーデンの短い夏の思い出を作りましょう」と言い出しました。市場へ行き購入したのはディルの花束と大量のキュウリ。スウェーデンの夏の風物詩を使って、スウェーデン人が大好きなディルピクルスを作るのです。

ピクルスとは欧米風の漬物の事。日本には塩漬け、ぬか漬け、みそ漬け、辛子漬け、数えきれないほど漬物の種類がありますが、ヨーロッパでは酢の味が主流。使用するスパイスの違い、発酵させる、させないなどの違いはありますが、基本的に酸っぱいのが欧米の漬物の特徴で、総称してピクルスと呼んでいます。

スウェーデンには、スモルゴスグルカ、サルトグルカ、ボストングルカと呼ばれる3つのタイプのキュウリのピクルスが存在します。

スモルゴスグルカはサンドウィッチのキュウリを意味し、その名の通りスウェーデンでよく食べられているオープンサンドに使われるピクルスです。バターを塗ったパンの上にハムやチーズをのせ、トッピングとして薄くスライスしたキュウリのピクルスを置きます。かなり甘い感じに味付けされるのが大きな特徴。

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サルトグルカは塩キュウリを意味し、砂糖は使わず塩と酢のみで漬け込みます。サルトグルカはサンドウィッチよりも肉料理の付け合わせとして登場する事が多いです。

ボストングルカはピクルスを作る時に切り落としたキュウリの端っこを集めて細かくカットしたもので、玉ねぎやパプリカのみじん切りも加え、ハンガリー風のスパイシーな味付けがしてあります。ホットドックのトッピングや、マヨネーズなどに加えてソースにする事が多いです。

用途の違う3種類のキュウリのピクルスの中で、一番ポピュラーなのがスモルゴスグルカ。世界的にも有名で、ディルピクルスの名で各国で販売されています。ディルピクルスと言われても、何だか馴染みのない食べ物のように思えますが、誰もが一度は食べた事があるはず。有名なファストフードのチェーン店のハンバーガーに使用されているピクルスがディルピクルスだからです。

知らないようでいて馴染みの深い、スウェーデンの短くとも美しい夏を閉じ込めたディルピクルス、皆さんも一緒に作ってみませんか。

●ディルピクルスの材料
キュウリ 瓶に入るだけ
下漬け用液 水カップ1杯に対し塩大さじ2杯
(ピクルス液)
穀物酢 400㎖
水 100㎖
砂糖 180g
ディル 大量
ブドウの葉 適量

①キュウリをよく洗い水気を切ります。

②下漬け用液を作り、キュウリを入れて冷蔵庫で一晩漬けます。

③一晩漬けたキュウリをザルにあげ、水気をよく切ります。

④保存用のガラス容器を煮沸消毒します。

⑤煮沸消毒したガラス容器にキュウリ、ディルの花と茎、ブドウの葉を交互に積み重ねていきます。

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⑥全てガラス容器の中に並べ終えたらピクルス液を作ります。酢、水、砂糖を火にかけ煮立てます。ピクルス液は誰に聞いても「分量を計った事がないから分からない」と言われます。無理やり計ってみたらこんな分量になりました。ただ途中で色々と目分量で足していたので、だいたいの分量だと思って下さい。

最初は砂糖の分量が余りにも多くてびっくりしました。砂糖の量はお好みで減らしてもいいとの事でしたが、本場スウェーデンの味を目指すなら、レシピ通りのかなりの量の砂糖が必要です。酢と砂糖の割合が2対1になるのが理想との事でした。

⑦ピクルス液が熱いうちにガラス容器に注ぎます。キュウリがピクルス液からはみ出さないよう注意して、足りないようなら追加でピクルス液を作って注ぎ足します。

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⑧ピクルス液が冷めたら冷蔵庫で保存します。浅漬けが好きなら3日後位から食べられますが、2~3週間位置いたのが一番美味しいのだそう。保存は3か月位可能らしいのですが、作ると直ぐになくなってしまうので正確には分からないとの事でした。

美味しくて体に良く、育てるのが簡単なディルのすすめ

ディルピクルスの一番の特徴は、甘さにあると思います。ディルピクルスはそのままでも食されますが、ハンバーガーや塩漬け肉などと一緒にパンに挟んで食べる事が多いです。塩気のあるものと合わせて食べる事を前提にしているので、甘めに仕上げるのだと思います。日本では漬物は個別で食べる事が多いので、日本人の口には甘さは控えめで漬けた方が合うかと思います。

ディルピクルスの作り方はとても簡単なのですが、日本では小さいキュウリを見つけるのが難しいかと思います。何よりも入手困難なのがディルの花。最近は日本でもハーブが人気となっているので、緑の柔らかい葉の部分は見かける事が増えてきました。でもディルの花は難しいです。

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日本在住の北欧の人達は、自宅のベランダでディルを栽培している人が多いのだそう。ディルは日本の気候でも良く育ち、ベランダの鉢植えなどの狭いスペースでも平気な植物です。日当たりの良い場所に置いておけば、勝手にぐんぐん大きくなります。とても丈夫で育てやすいハーブなので、美味しいディルピクルス作りの為に、まずはディルの栽培から始めてみてはいかがでしょうか。

ディルの名には「なだめる」の意味が含まれ、その名の通り気持ちを落ち着かせ、和ませる働きがあります。ビタミンB、C、カルシウム、カリウム、マグネシウム、葉酸などの栄養素を含み、整腸作用や鎮静効果がある薬草として昔から重宝されてきました。

その歴史はとても古く、紀元前3000年のメソポタミア地方で発掘された粘土板に、既に薬草としてディルの名が刻まれているほどです。デトックス効果も高いので、美味しさだけでなく、健康面も意識して積極的に摂取したいハーブ。

ディルはピクルス作りだけでなく、色々な食べ物に使える万能のハーブです。貴方の食卓がワンランクアップする事間違いなしの食材なので、強力におすすめします。

何よりも遥か遠くのスウェーデンのキラキラした夏を体感できるハーブ。ディルは独特の強い香りを持つので、口に含むと爽やかな夏の風が吹き抜けたかのような気分になります。ほのかな酸味と苦みもあるので、同時に風になびく青々とした草原すら感じられるようです。

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スキッとした短くとも鮮烈で美しい、スウェーデンの夏そのままの味がするハーブだと思います。


(2021年6月30日発行「素材のちから」第41号掲載記事)

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