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角屋のアジフライ

文・撮影/長尾謙一 

角屋のアジフライ
(素材のちから第44号より)

1枚目はおいしさに驚き、2枚目はおいしさを楽しみ、3枚目でこのおいしさのファンになった。少しくらい高くてもこのアジフライは絶対に食べたいと思う。

丁寧な仕事でアジフライにブランド価値をつくり出す。

人々の心を揺さぶるアジフライをつくりたい

今回、おいしいアジフライをつくるメーカーがあると聞き、鳥取県境港にある(株)角屋食品に角谷社長を訪ねた。角屋食品は実に売り上げの75%がアジフライというまさにアジフライカンパニーだ。

代表取締役 角谷 直樹 さん

株式会社 角屋食品 鳥取県境港市
2006年、日本有数の漁港である鳥取県境港市で創業。境港で漁獲されたアジを最高のアジフライにして販売することでアジの価値を高め、漁業者にも、そして地元境港の経済と水産業の振興にも貢献する。そのためにアジ一匹一匹への丁寧な仕事を積み重ね、今までの枠にとらわれない価値を創造する。新たなアジフライの企画に次々に挑戦し「角屋のアジフライ」ファンの獲得を目指す。

昔からアジフライは日本人の暮らしの中で親しまれてきた庶民の味方のようなメニューで、誰もが安価なものだと思っている。このためにアジフライの販売競争で重視されるポイントは、そのおいしさには向かわず価格の安さに向かってしまった。世界のサプライチェーンによって安価な原料を手に入れ、コストをかけずにつくられるアジフライがスタンダードになってしまったのだ。どのスーパーで買ってもアジフライは安いし、外食店でも価格の取れるメニューにはなっていない。

角屋食品のつくるアジフライはとてもおいしい。その違いは見ただけですぐに分かる。

このアジフライは塩で食べたい
きつね色に揚がった粗目のパン粉が香ばしく、身はふんわりとやわらかい。サクサクとした音とともにアジの香りと旨みが心地よく口の中に広がる。アジとはこんなに繊細な風味を持っていたのか。

粗目のパン粉は食べる前からサクサクと音が聞こえるようだし、尾を立てて反り返るように見える勢いのある姿はその鮮度を表しているようにも見える。

身は厚くふっくらとしていてやわらか、何よりもアジの旨みが楽しめる。独特のくさみはまったくなく、アジの味はこんなにも繊細だったのかと驚く。

〝手間暇を惜しまず最良の製品を造る〟が角屋食品の企業理念だそうだが、手間暇はまさしくコストで、アジフライのスタンダードには沿っていない。なぜ、こうしたものづくりをするのだろうか。

その理由は独自のブランド戦略にある。原料も人件費もどんどん上がる中で、適正な利益を確保するにはアジフライを適正な価格で販売しなくてはならない。そのためにはマーケットとコミュニケーションをとり、気持ちを揺さぶるようなアジフライを提供しなくてはならないと角谷社長は言う。

「他のアジフライとは違う。」「少しくらい高くても絶対に食べたい。」「日本で一番おいしい。」角屋食品のアジフライは、そんなファンづくりを目指しているのだ。

ブランドに共感してもらうには相手との信頼関係が前提になるが〝手間暇を惜しまず最良の製品を造る〟という企業理念がここにいきてくる。

はたして角屋食品はどのようにアジフライをつくっているのか。角谷社長に商品づくりをご紹介いただいた。

〝角屋のこだわり〟が、とびっきりの〝角屋のアジフライ〟をつくり出す。

境港で水揚げされる原料を使用する

アジフライはとてもシンプルな食べ物で、アジと衣でしかありませんから、おいしいアジフライをつくるには、いかに品質のいいアジ原料を手に入れることができるか、いかにいい衣付けをするかが勝負になります。ですから、アジと衣へのこだわりを徹底しています。

私どもは創業以来、〝境港産の原料を使うこと、無添加、そして手間暇を惜しまない〟ということを商品づくりの理念として掲げてきました。アジフライの原料となる真アジは境港で水揚げされた新鮮なものだけを使います。

地元境港で水揚げされる原料を使う

水揚げがあった日には、その日のうちに工場に運ばれてきますから、刺身級の鮮度のアジを使って商品をつくることができます。

また、地元の仲買人との厚い信頼関係によって、鮮度の高いアジ原料を安定的に提供していただいておりますので、品質を落とすことなく大量のご注文にも対応できる体制を確立しています。

手間暇を惜しまない

工場に入ったアジは素早く加工します。一部は機械化されていますが、基本的には手作業による丁寧な仕事でワンランク上の品質を手に入れます。

背びれをカットし、ゼイゴ(尾びれにつながる硬い鱗)も一匹一匹取り除きます。

アジを開いた後、こうしたものが少しでも残っていないかを目視で確認して、残った骨やゼイゴはペティナイフで取り除く。一日およそ2万5000枚の開きをつくる作業を6人から10人で行います。

こうした作業に時間と人件費をかけることで〝手間暇を惜しまない〟という、もう一つの理念を実現しています。

さらに、衛生および品質管理にも力を入れ、2017年には鳥取県HACCPも取得しています。

「角屋のアジフライ」は衣でごまかさない

衣はアジフライにとってアジと同じくらい大切です。私どもには絶対に衣でごまかさないという信念があります。

通常のアジフライは衣率が50%を超えますが、私どもでは45%前後になるように低く抑えています。衣のところどころにアジの肌がうっすら透けて見えるほどです。まるで衣を食べているようなアジフライではなく、アジ本来の風味と食感を楽しめるようにしています。これでこそ新鮮なアジ原料のよさがいきてくるのです。

衣が少なくてもサクサクと歯ごたえのいい衣感を出すために、使用する生パン粉は特注しています。13ミリの粗目で硬めの生パン粉は剣立ちがよく、耐久性にも優れているデザインになっています。

さらにバッター粉は、国産小麦に限定したものを使います。アジそのもののおいしさをいかすために、アミノ酸などの人工添加物は一切使用しません。増粘剤は入っていませんので、小麦本来の粘着力で衣を付けているということになります。

衣はふんわりと手で付ける

衣へのこだわりとして、衣付けは機械を使わずに手作業で行っています。衣の剣立ちのよさを最大限に出すためには、機械で押すのではなくて人の手でふんわりと付ける方がいいからです。

衣はふんわりと一枚一枚人の手で付ける

実際にご覧いただければ、手づくり感ある見た目から、大量生産品ではないということがすぐにお分かりいただけるかと思います。

外食店の皆様にはお店で衣付けしたような手づくり感が出せるということで重宝され、業務用には一枚40gから90gまでのサイズを取り揃えていますので、メニューに合わせてお選びいただけます。

こうしてできあがる「角屋のアジフライ」は、サクサクと衣の歯切れがよく、身が甘くてふわふわしています。手作業でつくるため尻尾が残っているのも特徴で、立体感があって格好がいいとよく褒めていただきます。

「角屋のアジフライ」のブランド価値を高める

飽食の時代と言われて随分経ちますが、今も市場にはたくさんの食べ物が溢れています。アジフライはありふれたものですし、アジフライを食べなくても生きていけます。ましてや、私どもがつくらなくてもアジフライはたくさんあります。

アジフライはこれくらいの価格という概念がある中で、いかに「角屋のアジフライ」を一定の価格以上で買っていただけるようにするか、今後はもっともっと「角屋のアジフライ」のブランド価値を高めていきたいと思っています。

「鯵王」に心を揺さぶられた

昨年、角谷社長は「角屋のアジフライ」のブランド価値を高めるために思い切った挑戦をした。「アジフライカンパニーが、今までつくりたくてもつくれなかったアジフライ。こうすればおいしいものができると分かっていても、効率が悪いなど、さまざまな条件によってつくれなかった究極のアジフライをつくるので応援してください。」とクラウドファンディングに新ブランドを展開したのだ。

そのブランドは「鯵王」。

「鯵王」は使うアジにこだわりがある。まずは境港産、一度も冷凍しない生原料、脂質を8%以上持つこと、背開き、そして熟成だ。背開きは機械ではできないし、「鯵王」には大きなアジを使うためピンボーンを人の手によって取らなくてはならない。

また、アジの風味を上げるために2日から3日熟成させて旨みを出した。

こうしたこだわりを通常商品で実現させることは非現実的である。そこで「鯵王」というネーミングでパッケージもつくり、新たな販売方法としてクラウドファンディングに打って出た。4枚で3500円、これを700セットつくったのだ。「こんなに高いアジフライが売れるのだろうか。」誰もがそう思ったが、そんな懸念はよそに全部売り切れてしまった。

100gもあろうかと思う大きなアジフライは、サクサクの衣とふわふわな身がおいしい。それから何といっても身の熟成感がたまらない。アジの風味が相当濃厚だ。こんなアジフライは見たことがない。

〝気持ちを揺さぶるようなアジフライを提供する〟という角谷社長の言葉が分かった気がする。


協力/お問い合わせ:株式会社角屋食品

(2022年3月31日発行「素材のちから」第44号掲載記事)

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