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綺麗なテクスチャを手に入れた。

肉や魚、野菜を吟味するように、ゼラチンもしっかりと選びたい。ゼラチンは液体をただ固めるものではなく、その硬さのニュアンスが料理の表情を変える。ゼラチンの概念を壊す「ゼラチン21」の特性を知れば、料理の表現はもっと広がる。 

文・撮影/長尾謙一 

ゼラチン21
(素材のちから第46号より)

「ゼラチン21」は50℃程度の液体に、あらかじめふやかすことなく直接投入して素早く溶かすことができる顆粒ゼラチン。においが少なく透明感があり、ゼリー強度が高いため、少ない量で固まる。

「ゼラチン21」の作業性のよさに、ちょっとびっくりしました。

オーナーシェフ 宮木  康彦 さん

モンド」 東京都目黒区自由が丘
イタリアでの経験をベースにした料理をつくり続けてきたが、やがて自分の中でその枠を外し、イタリア料理に重きを置きすぎないようになっていった。日本でやる以上、日本の風土をよく知り日本の食材を正しく使い、昨日よりも少しでもおいしいものつくろうと挑み続けることが自分のスタイル。イタリア料理のルールと違っても自分の中ではちゃんとイタリア料理になっているのだ。

「ゼラチン21」ともっと仲良くしたいとシェフは言った。膨潤させる工程なしにすぐに使えるスピード感と、少量を計って使える繊細な食感は、シェフの創造力に火をつけた。皿の上にのせるのはゼリーなのか、ソースなのか、とろみなのか、泡なのか、自在に食感をコントロールできる武器を見つけた。


「ゼラチン21」は0.1グラム単位で微妙な食感調整ができる

私はいつもは板ゼラチンを使っていますが、今回初めて顆粒ゼラチンを使ってみて、使いやすさにびっくりしました。何しろ戻す手間がないというのが凄く大きいですね。メニューを思いついたらパッととりかかれます。

50℃程度の温度で溶けますから素材へのダメージが少なく、フルーツピューレなどは風味をきっちりと残しつつクリアに味が出せます。さらに、0.1グラム単位で微調整がきくので、かなり繊細な食感調整ができるところも素晴らしいなと思いました。

繊細な風味をクリアに微妙なテクスチャも綺麗に

料理はまず、マグロのタルタルをつくってみました。マグロはカットして、塩とオリーブオイル、塩漬けのケッパーでシンプルに和えています。

本マグロのタルタル、大西洋マグロのタルタル 発酵野菜のエキスゼリーがけ

上から夏野菜のジュレをかけました。このジュレはピーマンやパプリカ、キュウリ、セロリ、オクラ、トマトなどの夏野菜を2日くらいしっかりぬか漬けにして、それをフードプロセッサーで回して砕いてから冷凍します。

これがちゃんと固まったらザルをかませて冷蔵庫でゆっくりと溶かしていき、氷の部分と液体の部分を分離させて、おいしい発酵エキスだけを取り出しています。それをとろとろのジュレにしてマグロにかけました。ぬか漬けのジュレの発酵感が、旨みや酸味に変わって主役のマグロのおいしさを上げていきます。

発酵エキスをジュレに

この発酵エキスは意外にデリケートだと思うのですが、ゼラチンに臭みがまったくないので風味はそのまま、そして、綺麗なテクスチャが出せます。

泡はもっと軽く、やわらかくなめらかにできる

次は冷たいパスタです。

冷たいフェデリーニ カプレーゼ風

茹でたフェデリーニは水に取って冷やすのではなく、ボウルに水牛のモッツァレラチーズとホエーを入れて、氷を当てたところにフェデリーニを入れて冷やし、塩とオリーブオイルで味を調整します。

モッツァレラチーズというのは派手なおいしさではないのですが、じんわりおいしいのがいいかなと思っていて、フェデリーニにはそんなチーズの味が移っています。

冷やしたフェデリーニの上にはトマトの泡をのせます。トマトをつぶして液体だけを取ったトマトウォーターにほんの少し塩を加えて味を調整します。これを加熱して「ゼラチン21」を加えて溶かし、冷やしながら攪拌して空気を入れ泡立てました。

トマトとクリアな味のゼラチンだけなので、素材そのもののよさが楽しめます。形を保つ力も強いし好みのフォルムで抜けますから、型に流しておけば泡を好みの形にして使えます。

泡がとても軽く、トマトの風味がパッと広がります。香り立ちがよくパスタとの絡みがいいですね。

最後にバジリコのオイルを垂らして風味をつけています。泡はもっと軽くやわらかく、もっとなめらかにできると思います。

食感の微妙なコントロールを楽しむ

パンナコッタというと、ドルチェのイメージがあるのですが、これは生海苔と相性のいいウニを合わせて前菜風にしたものです。

生海苔のパンナコッタ

生クリームがどっしりとしているのではなく、軽めにしたかったので牛乳を多めにしました。加熱して沸く直前に火を止め生海苔とゼラチンを加えて固めただけです。

ウニはそのまま、とうもろこしはコラトゥーラを塗ってあぶってのせ、全体が甘くもったりとしないよう木の芽をアクセントにしています。皿の中にあるすべてのパーツがアクセントになっていて、噛むごとに味が変わります。

パンナコッタの硬さはウニの濃厚感に合わせましたが、何度か硬さを調整してみて、もっと軽くできるなと思います。この食感がお好きなお客様もいらっしゃると思いますが、生海苔から出てくる海の風味をもう少しやわらかな、とろみのような食感でウニに合わせてもいいでしょう。

パンナコッタは凄く硬くてもおいしいし、凄くやわらかくてもおいしいです。今回のような中間くらいの硬さというのも食感の立ち位置としてはありだなと思います。

「ゼラチン21」を使えば、微妙な食感のコントロールができるのが分かりましたから、これからはもっと仲良くしてみようと思っています。


協力/お問い合わせ:新田ゼラチン株式会社

(2022年9月30日発行「素材のちから」第46号掲載記事)

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