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《スペイン情報》 スペインのカディス地方に昔から伝わる豆料理

家族総出で作るおばあちゃんのレシピ 
その土地ならではの食材を使った、その土地の気候にあった料理 

文・撮影/市川路美 

温暖な地方の豆料理

スペイン人は豆料理が得意です。一般的に豆料理は寒さの厳しい地域で食される事が多いのですが、気候の温暖なスペイン南部のアンダルシア地方の人達も豆料理をよく食べます。この地方は今でこそ世界中の観光客が押し寄せますが、観光業が確立するまでは本当に貧しい地方でした。貧しい地域では安くて栄養価の高い豆料理が発達します。

面白いのは、寒さの厳しいスペイン内陸部の豆料理とは、全く異なるタイプの豆料理が食されている事。スペイン全土で食べられている豆料理は、スープやシチューであるのが一般的です。スプーン料理と呼ばれ、体を温める役割を持つ冬の定番料理。スペイン南部では、冬でも気温がそれほど下がらないので、体を温める役割は重要視されません。冬に限らず年間を通して楽しめる豆料理だと思いました。

豆料理ではありますが、この料理の主役はフダンソウです。葉野菜として改良されたビーツと同じ系列の野菜で、耐暑性と耐乾性が強いので地中海沿岸の地域でよく栽培されています。

日本には中国を経由して17世紀頃に伝わり、季節に関係なくある葉菜なので、不断草と名付けられました。夏場に品薄となるホウレン草の代用品として栽培されていたのですが、近年はホウレン草の品種改良が進んだので需要が低下し、あまり見かける事のない野菜です。

大きさが30センチ程になる大きな野菜で、食物繊維が豊富です。ビタミンA、B1、B3、B5、B6、B9、C、E、Kが多く含まれ、鉄分、カルシウム、ナトリウム、カリウムなどのミネラルも含まれています。

旬の食材フダンソウ

スペインでフダンソウの一大産地は、スペイン南部アンダルシア地方のカディス県。この地域で昔から親しまれている野菜なので色々な形に調理されますが、一番人気のレシピがヒヨコ豆とフダンソウの炒め物です。名前すらない家庭料理で、カディス地方の人達が一番よく口にする豆料理なのだそう。

フダンソウはカロリーがとても低い野菜としても有名で、ダイエット中によく食されます。豆料理はどうしてもカロリーが高くなるので、フダンソウと一緒に食べると罪悪感がかなり薄れるのだそう。

フダンソウ

フダンソウは一年中何時でも食べる事の出来る野菜ですが、一番美味しいのは春の季節。旬の野菜を使った美味しい豆料理で、肉類が全く入らないのでベジタリアンの人達からも大人気のレシピです。

郷土色豊かなレシピ

今回はフダンソウの産地であるカディス県のラ・リネア・デ・ラ・コンセプションの町に住んでいるズリ(Zuli)さんの家族が総出で、おばあちゃんのレシピで作ってくれました。

ズリの家族は町の郊外に畑を所有しています。農地と定められた区域なので家を建設する事は出来ませんが、農具を保管したり休憩する為の小屋の建設は認められています。

ズリ家では小屋は建てなかったのですが、風が強い地域なので四方をガラスで囲った台所を作り、大きなテーブルを入れて野外団欒スペースを作りました。

ズリの両親や兄弟家族も訪れ、多い時は20人近くも集まるのだそう。コロナ禍で高齢の両親を持つ人達はレストランへ行く回数が減りました。でもスペインの田舎ではズリ家のように農地を郊外に持つ事が多いので、都会の人達よりも安心して家族の団欒を持てたのだそう。

どんなに大人数が集まっても、料理は何時もズリと旦那さんのアントニオ(Antonio)が担当します。ズリは地元で有名なお菓子作りの達人なのでデザートを担当し、料理が趣味の旦那さんがオカズ系を担当します。そして12歳にして料理好きな息子のレオン(León)君もお手伝いして、皆の分の料理を作ります。

ズリとアントニオ

この料理はカディス県で一番有名な家庭料理ではありますが、昔から口伝えで受け継がれてきたレシピです。今回は10人近くの人が集まったので10人分の分量。しかも全てが目分量だったので正確な数字は全く分かりません。

●ヒヨコ豆とフダンソウのレシピ

・ヒヨコ豆
・フダンソウ
・玉ねぎ
・ニンニク
・オリーブオイル
・塩
・コショウ
・クミンシード
・豚のラード
・固くなったパン
・パプリカパウダー
・ワインビネガー(シェリー酒のものがベスト)

1.一晩水に浸けたヒヨコ豆を柔らかくなるまで茹でます。茹で汁に少量の塩、オリーブオイル、クミンシード、コショウ、豚のラードなどを一緒に入れると更に美味しくなります。

2.豆が柔らかくなったらザルにあげて水気を切ります。

3.細かく刻んだ玉ねぎをオリーブオイルで炒めます。玉ねぎが黄金色になったらカットしたフダンソウを加えて更に炒めます。フダンソウは火を入れるととても小さくなるので、あまり細かくカットしないように気を付けましょう。ズリ家では何時もこのレシピを作る時は息子のレオン君がフダンソウのカットを担当するのだそう。

かなり大きな葉
未来のシェフ、レオン
熱を通すと小さくなる

4.別のフライパンに多めのオリーブオイルを入れ、皮ごとニンニクを揚げ煮します。ニンニクは皮ごと使った方がオリーブオイルに味がよく染み出します。ニンニクを焦がさないように注意しながら弱火で揚げ煮して、ある程度ニンニクの味が染み出したと思ったら、スライスした固くなったパンを加えます。

パンとニンニクを揚げ焼き

5.オリーブオイルが全てパンに吸収され、こんがりと焼き色が付いたら取り出して、モルテーロと呼ばれる乳鉢に入れます。この時にニンニクの皮は全て取り除きましょう。

乳鉢で押しつぶす

6.乳鉢にはニンニクとパンの他に、塩、パプリカパウダー、ワインビネガーも加え、全てが細かくなるまで押しつぶします。

モルテーロ

7.別鍋で炒めていた玉ねぎとフダンソウに、茹でたヒヨコ豆、乳鉢でつぶしたニンニクやパンを加え、かき混ぜながら更に炒めます。最後に味を調えたら出来上がりです。

全ての材料をよく混ぜる
最後に味を調えたら完成

スペインでは何時もスープやシチュー系の豆料理を食べていたので、暖かい地方であるアンダルシア流の豆料理はとても新鮮に感じました。

この豆料理なら季節を問わず年間を通して美味しく食べられると思います。


(2022年3月31日発行「素材のちから」第44号掲載記事)

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