THE MODELは本当に使えるやり方なのか?

以前の記事「マーケティングをわかりにくくしているのは何か」で、マーケティングの意味することを3種類にまとめて、では何がマーケティングを考える上で重要なのかについて、別の記事「マーケティング推進のための7つの重要な観点」で整理してみた。今回は、多くの企業で導入されてきたTHE MODELの営業プロセスモデルについて、これが本当に使えるやり方なのかについて考えてみたい。

先に結論

THE MODELは使えるモデルだと思う。ただし、それが本当に使えるかどうかは個々の業界や組織の文脈に依存するので、自身の文脈においてはこういう調整を行った方がいいのではないかと正しく考えることが必要になる。そして、そのときに以前の記事は役に立つはずなので、ぜひ読んでみてください(笑)

THE MODELとは何か

THE MODELとは、Salesforceの事例に基づいて定式化された営業プロセスモデルの名称であり、マーケティング(見込顧客の開拓)→インサイドセールス(見込顧客を顧客化)→フィールドセールス(クロージング)→カスタマーサクセス(クロスセル/アップセル)と顧客の購買プロセスに合わせて営業・販売活動を分業化していくというものである。

顧客の購買プロセスを基準とすることで、顧客の検討のポイントに合わせた情報提供と段階移行の促進活動が円滑に行えるほか、検討フェーズによって対応すべき内容と求められるスキルセットが異なるため、分業と専門化によって個々の業務が効率化されることになる。購入側も販売側もいいことのように聞こえる。

とはいえ、単純にこのモデルをそのまま導入すれば成果が出るわけではない。とりあえず入れてみたけれど、上手く機能していないという声はよく見かける。ここを考えるためには、「Salesforceの事例に基づいて定式化された」点を考えてみるとよい。

THE MODELの文脈を考える

THE MODELは、Salesforceの事例に基づいて定式化された。では、この事例における文脈とはどういうものなのだろうか。

①そもそも、なぜ顧客の購買プロセスが変わったのか

THE MODELの背景には、売り手の都合ではなく買い手の都合に着目する重要性が高まっているということがある。これはなぜ起きたのか。それは、一定の品質のプロダクトについてはある程度の競合があり複数から選択できる状態になっていることと、顧客が自身で取得できる情報量が格段に増加したことで、顧客自身が検討を深い水準まで進められるようになったことによる。過去であれば情報の非対称性を悪用して誤認により買わせることができたのが、今ではその余地が狭まっているのである。

②欧米の労働市場の特性

日本の労働慣行は個々のジョブ単位ではなく組織人員の単位で雇用を行うメンバーシップ型と呼ばれる形になっているが、Salesforceは米国企業であり当然ジョブ型雇用を前提としている。社会全体としてジョブ型雇用がベースになっている場であれば、分業化した営業プロセスモデルを設計するのは至極当然のことである。

③フィールドセールスのコスト感覚

インサイドセールスは日本においては最近発生してきたものに過ぎない。これは訪問されてこそ誠意があるというような営業慣行も当然背景にあるが、それに加えてフィールドセールスのコスト感覚が違うということもある。米国の広大な国土を思い浮かべてみれば、フィールドセールスをしようとしたときにかかるコストが段違いなことは容易に想像できるだろう。

④メトリクスを適切に計測するデータ基盤

THE MODELの考え方には、検討プロセスを順序関係のあるファネルの形として捉えることで、フェーズの意向を数値として把握可能ということがある。当然ながら、これをやろうとすると適切にメトリクスを計測することが必要で、Salesforceというソフトウェア企業がデータ基盤の構築に秀でていたのは言うまでもないことである。

日本での応用を考える

上記の文脈を考えると、逆にどういった点を踏まえて調整しなければならないかがわかってくる。

①買い手の都合への着目

購買の意思決定をする主導権が購入側に移ったということは、それを前提にしながら検討プロセスごとに必要な情報を出し分けたり、探そうとしたときに必要なコンテンツを見つけやすいようにする必要がある。無理やり購入させようとするのは顧客の反感を生むことになるので、より相手の立場を踏まえた営業行為が必要になっている。一方で、ジョブベースで動いていない日本では商材によっては顧客のリテラシーが上がっていない領域もあると想定され、場合によっては使い分けをすることも考えうる。

②適正な人材を採用できるか

THE MODELがはまり易いBtoB SaaSをはじめとしたソフトウェア企業は別だが、労働市場にTHE MODELの個々の職務に関して十分に経験のある人材は限定的にしか存在しない。分業をさせた個々の職務の人材要件を明確にし、かつ最適な人は見つからない前提で転用できる経験を持った人を育成する視点が必要になる。このとき、その後のキャリアパスの観点についても検討ができると望ましい。

③フィールドセールスの有効性

コストが低いならという販売側の都合でもそうであるし、顧客側として安心感/信頼感が大きいからという理由でも、フィールドセールスをどこまで使うかは検討の余地がある。もちろん、フィールドセールスの方が安心感/信頼感があるのではないかという前提を疑うことも大事ではある。ここは個別の文脈によることなので、小さく実験をしながら、どこまではオンラインでも可能で、どこからがオフラインのが望ましくてという境界を理解し、最もレバレッジの効く体制にすることが望まれる。また、初期のイノベーター/アーリーアダプターはインサイドセールスベースで、グロースをして顧客の特性が変わってからフィールドセールスやパートナーセールスを組み合わせるというのも検討のポイントになるだろう。

④メトリクスを正しく使う

メトリクスを計測するのは前提である。事業会社内部でのソフトウェア開発能力が貧弱な日本企業では、この時点で若干怪しいところが出てくる。また、データを精緻に取るために、営業に細かい数値まで報告義務を課して従業員体験(EX/Emploee Experience)が悪くなるというのもよくありそうな話である。なるべく人間の負担がかからないよう自動化すべきだし、人間に負荷をかけなければならないやり方は小さく始めたり、何より負荷の分だけリターンが返るよう設計することが重要である。

正しく全体最適をさせる

以上、4つの観点から整理をしてきたが、全体最適の観点でも述べておくべきことがある。それは、やっぱり市場やプロダクトの特性によって違うよね、という話である。

新規リード/既存リードの割合

リードとして新規が多いか既存が多いかによっても、使い方が変わってくる。新規リードが多い場合にはマーケティングが大きな役割を果たすだろうし、既存リードが多い場合にはルートセールスのなかで広げていくことや、CSを通した売り上げ拡大の役割が大きなこともある。どの領域に力を入れるかは、文脈によって調整する必要がある。

プロダクトの特性

取り扱っているプロダクトやサービスの多様性が大きく、運用不可が高い場合は分業以前にセールスの負担を軽減させるような仕組みを入れる方が効果的かもしれない。あくまでも、現在の営業活動のなかで何がボトルネックになっているかという課題の分析が重要である。

そもそもプロダクトは優れているのか

PMFをしていないプロダクトであれば、いくらTHE MODELでプロセスの最適化を図ろうとしても成果は出ない。数値管理が重要だと思っていても、そもそもプロダクトの品質が悪いことが自明なのであれば、まずは定性調査をしてプロダクトの改善を優先すべきこともある。

分業に由来する分極化を回避する

分業をして専門性を高めて効率化するというのは、口で言うのは簡単であるが、追いかけるメトリクスにより利害が分断しコミュニケーションが希薄化することで、結局社内政治に陥ることがある。マーケティングがもたらすリードの質が悪いのか、セールスのクロージング能力が低いのかという争いはよくあるし、はたまた風呂敷を広げるだけ広げて受注したことでCSが頭を抱えることなどよくある話である。

これを回避するには、一番には「顧客の役に立つ」というビジョンを強く持ち組織に浸透させること、そしてそれに合わせて共通のメトリクスを設計するなど、利害が相反しないような設計上の仕組みを入れることが重要になる。

最後に

THE MODELは役に立つがとても奥が深いと感じている。まだ導入していないのであれば、この形を取るかは別にして、モデルとの比較をすることで見えてくることが必ずあるだろう。これから導入しようと思っている、既に導入しようと思ったがうまくいっていないのであれば、自身のおかれている「文脈」に意識的になることで、きっと改善をしていくための糸口が見えてくるのではないだろうか。

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