一人暮らし(0日)

朝早くから社員寮へと向かう。ニトリで頼んだあれこれが時間指定ができなかったため、朝早くに届く可能性があるからだ。

乗る電車は大きな水と大きな山の間を走り抜けて行くのだが、雨のおかげかあちらこちらでモヤが発生し、空間全てが雲に覆われている気分になる。
不安や期待に気づかないふりをして、田舎の駅へと向かった。

一人暮らしが始まる。
母の過干渉や父の無関心を潜り抜けて、社員寮へとこじつけた。社員寮があるのは至って普通の田舎だ。あるのは田園と動植物、あとは開けた空間がある。
朝早くから届いた荷物を一人で三階まで運ぶ。ああ、あの人がいたら甘えてしまっていただろうな、みたいなことを一人で淡々とこなす。どこか誇らしげな気持ちになる。

家具を組み立てて、箱を解体する。大人とやり取りをする。粗品を出しておく。
部屋の半分は段ボールで埋め尽くされているし、必要なものは揃っていない。コップがないので汁椀で紅茶や水を飲んだ。
風呂上がりにあれやこれやを用意するのを忘れて裸で慌てる始末であるし、そもそも風呂の入れ方もわからず時間がかかったし、栓が甘くて湯船は浸かっている間に消えていった。

こんな家さっさと出てやるぞ!と思いつつも、まだまだ先は長いのだから段ボールの山を見て暗い気持ちになっても仕方がないのだ、と言い聞かせて嗜める。

これまでぬるま湯だったのだから、たまにはこうして無理くり生きておこう。若いうちに。いつか笑い話になると良い。

一人で生活できたほうがいいよね?苦しむと分かっていても、苦しむ経験は大事だよね?みたいな考え方をするのだが、
祖母などは「いやそうは思わん」「一人で暮らせなくたっていい」と言ってくれる。確かにそう、一人暮らしした結果誰かと住まないといけないことに気づくのもあるんだろうなと思う。

けど、そうだけど、そうじゃないじゃん?と思う。誰と暮らすにしても、自分一人でどれだけコストがあって、そのコストを誰とどうやって分け合っているのかを知るためにも必要であると思うし、シンプルに、一人で荷物を3階に運ぶ経験をしたほうがいい。などと、自分の選択を正当化して無理矢理にでも前向きな気持ちにさせる。

これから仕事などで泣いてしまっても、一人でこの部屋で頑張って行くのだ、と田舎の暗闇に決意する。この決意がいつまで持つのやら。ここは暗いが、そのぶん星はよく見える。

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