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「参加者がスタッフミーティングに参加できる研修」 久しぶりの合宿#1

割引あり

参加のきっかけ

11月18日から21日まで、本当に久しぶりに参加者として合宿トレーニングに参加しました。

八ヶ岳の吹雪が歓迎してくれました

このトレーニングは「山梨HIL 第1回ファシリテーター養成研修」として開催され、日本ラボラトリートレーナー協会の代表である文珠先生が主催しました。第1回とあるのは、文珠先生が、これからTグループやラボラトリー・トレーニングのトレーナー育成が必要であるといよいよお考えになり、初めて開催されたからです。

Tグループ(トレーニング・グループ)は、ラボラトリー・トレーニングの一種で、「非構成的な体験」と言われている。ねらい、時間、場所、メンバーはあらかじめ決められているが、取り組む課題や話し合う内容はあらかじめ決められてない。特にグループ・ダイナミクスとグループの人間関係に焦点を当てたトレーニングである。

ラボラトリー・トレーニングは、特別に設計された人と人が関わる場において、参加者自身の行動や関係性を素材にしながら、そこでの体験を通して人間関係を学ぶ方法。ラボラトリー・トレーニングでは、専門のファシリテーターが参加者の対話を促進し、内省や学習を深めるための支援をする。

僕は折に触れて「ファシリテーターを名乗るならば、Tグループに一度は参加すべき」と言っているように、Tグループはとても重要なトレーニングだと考えています。しかし、現在は南山大学とHILぐらいしか開催されておらず、次世代育成もなかなか進んでいません。このままでトレーナーが育たず、本当に絶滅してしまいます。

そこで、文珠さんの思い切った決断に後輩として貢献したい気持ちから参加を決めました。7年前に開催されたJIEL最初のトレーナー・トレーニングも、津村俊充先生の意気に答えたいと生意気なことを思って参加した記憶があります。

この合宿トレーニングは、清泉寮のハンターホールという日本のTグループの聖地で行われました。余談ですが、ここの食事は本当に美味しく、1週間の滞在では4kg増が目安となります(笑)


今回はデザートを主食にしてカロリー・セーブ


民主的な場づくり

オリエンテーションは文珠先生の挨拶から始まります。HILはHuman Interactive Laboratoryの略称であり、「人と人との関わりと私を素材として私を試す場」という説明がありました。ちょっと取っ付き辛い表現かもしれませんが、Tグループを知る僕にとっては魅力的な紹介です。「人と人との関わり合いという生の体験と、そこにいる私自身という生の素材を使って、私がどうできるかをチャレンジするトレーニング」言ったら少しは伝わり易いでしょうか。

続いて、今回の開催経緯についてお話がありました。

「コロナになって、ラボラトリー・トレーニングとは何か、何のためか?」「今までの方法で良いのか?このままで良いのか?」という点について議論し、対面かつグループ・トレーニングの重要性を感じながら、次世代のトレーナー育成をする必要性を感じたそうです。「トレーナー・トレーニング」でなく「ファシリテーション研修」という表現が用いられたのは、今はトレーナーよりもファシリテーションの需要が高まっているからだとのことです。またこの期間、新しい試みにチャレンジしてみたいとのことでした。

そこで一つの提案がなされます。

「スタッフも参加者も一緒に作り上げていきたいので、提案や意見が欲しいです。そのため、毎晩のスタッフミーティングも参加していただきたい。」と述べられます。プログラムも2日目の午前までしか決まってませんでした。初回は試行錯誤したいので参加者の意見も重要だとのことですが、Tグループの歴史を知る方はピンときたはずです。そう、Tグループが生まれた経緯となったKurt Lewinたちのエピソードです。

1946年の夏、コネチカット州で開かれたユダヤ人の職業差別の撤廃を推進するために、教育と人間関係能力の向上を目指したワークショップが開催されました。そのプログラムでは討議やロールプレイがなされ、毎晩スタッフミーティングが開かれました。何らかのきっかけで参加者の方から、このスタッフミーティングに出席したいと要望があり、Lewinはそれを許可したのです。このスタッフミーティングで、グループに何が起きているかが明確になり、その議論がむしろグループの発達につながることが発見されました。(Benne, 1964、津村, 2002)

この民主的な場の経験から、Lewinたちは参加者が自分自身の体験を学習素材として活用する学びの有効性を確信し、それが後のTグループやラボラトリー・トレーニング、ファシリテーションへと発展していったのです。


Lewinと文珠先生の決断に込められた勇気と洞察力


ここで注目したいのは、Lewinが参加者にスタッフミーティングの出席を許可した決断です。通常ワークショップや研修では、スタッフ・講師・ファシリテーターなどの供給者と、受講者・参加者などの受給者に分ける構図が一般的です。この構図の方が、役割ごとのタスクや目標が明確になり、安心感と安定感がある場になります。どちらも不安になったり、見通しが立たない状況になることはほとんどあまりありません。

しかし、新しいアイデアを生みだす際にはどうでしょうか? 

構造を曖昧にし、役割や立場を超えて率直な考えや気持ちを活かすことで、予測のつかない発見や気づきが現われるようになります。(このあたりの詳細は創造的対話や対話型組織開発について書く際にご紹介ます。)

ただし、わかりやすい構造を手放す主催者は、関係者を信頼し、何かが生まれて来るまでカオスな状況に耐えなければなりません。また、権限を委譲された参加者も、主体的に関与し。結果に責任を持つ必要があります。なかなか簡単に「オープンしましたのでどうぞ」とは言えないと思うのです。

当時のLewinの決断も大胆であったし(実際、反対の声もあったそうです)、文珠先生の最初からオープンなスタンスも恐れ入ります。第1回という新たな試みに、これまでの経験と知識を手放して挑んだんだなと、深く感じました。

実際、今回スタッフミーティングが公開されたことで、グループ全体に揺らぎが生じたように感じています。僕にとっても、自身のTグループ観、トレーナー観が揺さぶれ、新たなスタートに立った経験になりました。

その過程は、また次回書きます。

参考文献
「ラボラトリー方式の体験学習の歴史」中村和彦ら 2008

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