チャランとポランとスキー

山の上には、大きな栗の木が一本生えていました。

チャランはいつも大好きなスキーを待っています。晴れた日の午後3時、それが彼らの集合時間でした。数年前、北の森の奥に雨師が住み着いてしまったので、この街では太陽が出ることが最大のご褒美です。太陽が出ると街のみんなが笑顔になる。そんな日にスキーに出会える。それだけでチャランは幸せなのでした。サンドイッチと大好きな紅茶(りんごの香りがするとても美味しいお茶です)を携え、チャランはいつもスキーが現るのを待っていました。必ず先にその栗の木の下にやってきて、チャランはスキーを待つのでした。

なぜなら、チャランはスキーの事が大好きなのです。太陽と同じくらいに。

晴れた日はお昼ご飯を食べるとすぐに、お昼の残りを、特にお昼に大好物のスモークサーモンが出た時は一口も食べずに、大きなバゲットに挟んでサンドイッチにしました。そして紅茶を水筒に淹れたら、さあ出発です。とても貧乏なチャランでしたが、お父さんからもらった、アルミニウムで出来た保温性の水筒にたっぷりの紅茶が入っているのでした。大事な大事な、お父さんからもらった水筒。りんごが大好きなスキーのために、晴れた日に働いたお金の半分は紅茶を買うために使っていました。

それくらい、スキーはりんごの香りがするお茶が大好きなのでした。

チャランは市場で働いています。朝早くに、海でとったサーモンや大きな池(養殖場と大人は言っています)で育てられた虹鱒が、夜も開けないうちからチャラン達の住む街にある大きな市場に運ばれてきます。チャランの大嫌いなセロリやいろんな野菜も、魚達が到着するのに合わせるかのように市場にやってきます。大人達が運んできた美味しい魚や野菜を、ご主人様の用意した荷馬車に運ぶのがチャランの仕事でした。

チャランはひとりぼっちでした。

お母さんはチャランを産んですぐに、そしてお父さんは二年前の戦争で亡くなりました。そう、街に雨師が住み着いてから起こった戦争です。お父さんだけでなく、多くの大人が亡くなりました。でもそれは仕方ない事なのです。

なぜなら、この街には雨師が住み着いているから。

お父さんがいなくなってからは、大好きなおじいさんと暮らしていましたが、そのおじいさんも冬にあった隣の国がドカンと落とした爆弾で死んでしまいました。おじいさんが亡くなってからは、チャランは大人達の紹介を経て、今のご主人様の家で働いています。

チャランは学校に行く事を諦めました。

大好きな音楽の勉強も出来なくなりましたが、仕事をしながら大声で歌っても誰にも怒られないので、チャランは今の仕事を気に入っています。それくらい、チャランは音楽が大好きなのでした。お父さんから教えてもらった、虹鱒の歌やシャケの盆踊りを歌いながら仕事しても、その日の仕事が終われば、ご主人様の家来から銅貨3枚も貰えるのです。

まあ、そのうちの1枚は何故かその家来に取られてしまうけど。

仕事が終わった後、チャランは自分の小屋に戻りお昼ご飯を食べます。その後、雨が降っている時はそのまま眠り、晴れている時は山に向かうのでした。

3時を過ぎました。もうチャランは1時間以上待っています。でも今日はなかなかスキーが現れません。紅茶が冷えてしまう事、パンが硬くなってしまう事を心配しながら、チャランは大きな栗の木の下で待っていました。

少し南風が吹いて心地よい、5月半ばの事でした。(多分、続く)

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