丸が三つあれば顔なのよ
美術の鈴木先生はそう言って笑った。
絵心がない私にとって、美術の時間は苦痛でしかなかった。
ある年の写生大会。丸一日川辺に座って、橋の絵を描いた。ちゃんと観察しているつもりなのだが、どうもバランスがよくない。
草むらのところに緑の絵の具、黄色い絵の具、茶色い絵の具を何度も何度も重ねていたら、画用紙がぼろぼろになった。
あー、もういやだ。向いてない。美術の術ってなんだよ。忍者かよ。私は家庭科や音楽をがんばろう。
ある日の授業で、クラスメイトの似顔絵を描くことになった。よりによってほとんど話したことのない小泉さんの顔を描くことになった。
やはりピントのボケたような絵になってしまう。そこに鈴木先生がやってきて丸を三つ描きたしてくれた。おお!一気に小泉さんになった!すごい!
その絵は市のコンクールで金賞をもらい、県のコンクールでもなんとか特別賞みたいなものをもらった。後にも先にも、美術で褒められたのはその時だけだった。
母はその賞状を額に入れて、仏壇の上に飾った。なんで仏壇の上なのよ、賞状じゃなくて絵を飾ってよと思ったが、ご先祖様の横に小泉さんが並んだらヘンだわな。
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