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居酒屋のおっちゃんからもらった就職祝いが頑丈かつちょうどいい件

のれんを持ち上げて店内をのぞくと、おっちゃんの横顔が見えた。20人くらい入れるその居酒屋は、いつもほぼ満席だ。引き戸を開けるときは少し緊張する。

「らっしゃーい。ん?」

おっちゃんは飼い主が帰ってきたときの芝犬のように目をきらんと輝かせたあとに、ちょっとイジワルな顔をして呟く。

「ずいぶんと久しぶりじゃねえかよ!しかも一丁前にスーツなんか着ちゃってさー」

そうか。スーツを着てこの店にくるのは初めてか。
「明日こっちで中学の仲間とBBQやるんで帰ってきました」

「帰ってきたってどこからよ?」
「藤沢です」
「ふじさわぁ?そんなの電車で一本じゃねえか!毎晩来い!」

まぁたしかに電車で一本ではあるのだが、毎晩は無理だよ 笑
「瓶ビールと焼き鳥7本セット、お願いしま〜す」

「あしたBBQやるのに焼き鳥食うのかよ!刺身も食え!」
「おっちゃん、俺はここの焼き鳥が食べたい食べたいと思いながらはるばる来たんだよ」
「はるばるって一時間ちょいだろ!毎晩来い!」

「そうだよ、俺なんか来るなって言われても毎晩来てるぞ(笑)」
いつもカウンターの定位置にいる常連の岡田さんが割り込んでくる。顔真っ赤やないかい。ヒゲぼうぼうやないかい。

「岡田さんは来すぎ。そこの椅子は岡田さんの尻のカタチになってる」なんてことを言いながらキンキンの瓶ビールを渡してくれるおっちゃん。

「あとこれ、就職祝い」
「え?コップ……?これってビール会社が配ってるやつじゃないの?」
「これ非売品だぞ。めちゃくちゃ頑丈だし、ビールでも日本酒でもこのサイズが一番使い勝手がいいんだよ」

〜 〜 〜

そのコップをもらってから10ウン年。たしかに頑丈だし、引っ越すたびに行われるコップ選抜を勝ち抜いてきた。「毎晩来い!」というおっちゃんの口癖を思い出しながら、今はビール用ではなく歯みがき用として毎朝毎晩大活躍。 週末、おっちゃんと岡田さんの顔を見に行くか〜

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