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ハイブリットは車だけではないのです。

「全然着きそうにないなぁ」一体どやったら、あんなにも簡単に着けることができるのか不思議だった。遠目で確認する限り、特に特殊なことをやっていない様な気がしてみていた。でも、全然着かないのである。やっぱり最初から教えてもらうしかないかな。
 
 子供頃、母方の実家に行く時はいつも楽しみだった。自宅では味わえないワクワクがあったからだ。広い畑や、昆虫がたくさんいる林などは子供だった自分にしては、テーマパークと同じ位楽しめた。
 
 家の中に入ると、囲炉裏があったりして、ある意味、新鮮だった。
 中でも好きな場所と言えばお風呂場であった。母方のお風呂は薪式のお風呂であった。
 ガスではなく「焚く」 のである。
理由はただ一つ。母方の実家は実は大工だった。なので、燃料となる薪はただ同然で手に入ってしまう。
 
 母がいつも手際よく薪に火を付けてお風呂を沸かす光景を見ていた。何回か見ている内に私自身もできると思い、チャレンジして見た。するとどうだろうか。全然、火が薪に着かないのだ。ほんとに着かないのだ。マッチに火を着けて、新聞に火を移す。ここまではできた。
 
 しかし、ここから先が全然進まないのだ。ほんとに進まない。恐らく半分位の新聞紙を消耗したと思う。何度かトライしている内に母が心配したのか突然現れた。
 
 今までしたことを話すと「それじゃ着かないよ」と一蹴された。そして、お手本を見せてくれた。自分なりに観察していると新聞紙まではよかった。次から全然違った。私は無謀にも新聞紙から角材へ火を移そうとしたのだ。着くわけがないのだ。
 
 そう。ここがすでに違ったのである。感覚的には、ジューサーに素材を切らず、皮をむいたまま入れる位なことを私はやっていたのだ。
 
 子供ながらに観察した結果、次のことが判明した。実は新聞紙から間違っていた。
 
 用意ドンで逆に走り始めていた感覚に等しい。なんと、なんとである。「松の葉」なる物が存在するのだ。確かに冷静に考えると、袋一杯に松の葉があるのが、不思議ではあった。まさか、ここで使うとは予想を超える使い方だった。
 
 そして、この松の葉と「かんなくず」をコラボレーションさせる。私事ではあるが一番好きな木の香りは「ヒノキ」である。すごく心がリラックスする。あ! 話がそれてしまった。失礼しました。
そう。この松の葉と、かんな屑のコラボレーションで強大な火力が発生するのだ。
 
 整理するとこんな感じである。最初に大きな角材を入れておく。そして、その周りを囲む様に松の葉と、かんな屑を敷き詰める。そして、マッチで着火するのだ。
 
 そうすると、ゆっくりであるが、角材に炎が燃え移るという仕組みである。
 そして、最後の仕上げである。竹でできた筒で酸素を送り込む。決して吸ってはいけない。吹くだけの一方通行である。このことでようやく安定した火を手に入れることができるのだ。

 子供の頃は薪で焚くお風呂は見ているだけで面白かった。
 大人になった今、この工程を振り返るといきなり目的の物へ取り掛かるのではなく、自分が得意な場所から、ゆっくり確実に攻めて行くことで、目的の道のりがわかっていくと感じた。

 大きな目標を掲げるのはとても大事だと思う。けれど、掲げることは誰でもできると思う。問題はどうやってその目標までたどり着くかとよく言われる。
 
 答えはたった一つ。誰にもわからないのである。なぜかというと、自分が作った目標までの道のりを、誰かのアドバイスで、到達してまったら、自分の目標ではなく、アドバイスした人の目標になってしまう。
 
 最初の出だしの助言は、いいのだけれど、途中から自分のオリジナリティーを出して行くと自分の目標に近づけると感じる。

 私が出会った、この風呂焚きであるが、慣れると、途中から、自分のオリジナリティーを付け加えてみた。最初に窯の中に格子状に枝を組んでみたのだ。
 そう、窯の中にミニキャンプファイヤーを組んでみたのである。するとどうだろう。これが結構燃えるのである。酸素が万遍に行きわたり結構強い火力を産むのである。これはこれで成功した。

 4~5年後に薪の窯が壊れてしまったと連絡が入った。もうあの薪で沸かして入ることはできないのかと思った。私自身の感想であるが、薪で焚いたお風呂と、ガスで焚いたお風呂。全然薪で焚いたお風呂の方が、温まり方が違うのだ。
 
 なんというか、入って数秒経つと「ピリピリ」するのだ。本当に暖かい。温泉とは別の感覚である。もし、薪で焚いたお風呂に入る機会があったらぜひ感じてもらいたい。

 連絡を貰って数週間後、母方の実家に行った時、お風呂を確認した。やはり、風呂釜の温度を示すデジタル表示の温度計があった。「あ、やはりガス窯になったのか」と諦めていた。

 最後に、薪窯があった場所を見てお別れの挨拶をしようと思い、脱衣所のドアを開けようとしたら中から「パチパチ」と音が聞こえるではないか! 何が起こっているか確認した。なんと薪窯の中で炎が存在している。
 
 そうなのだ。ガスと薪のハイブリットのお風呂がここに完成していたのだ。ありがとう現代のテクノロジー! そして私は浴室のドアを開けた。

 最後まで、お読み頂きありがとうございました。もし、チャンスがあったら、ぜひ薪風呂に入ってみてください。
 体の芯から温まりますので。

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