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【小説】#9:伊坂幸太郎『重力ピエロ』

著者:重力ピエロ
タイトル:伊坂幸太郎
読了日:1/16


あらすじ


兄の泉水と弟の春は、優しい父と美しい母と過ごしていた。実は、春の生い立ちは家族にとって辛い過去だった。
しかし、その話題が家族内で持ち出されることはなく、各々の心の中で激しい葛藤を生んだ。
そうして泉水と春が大人になったとき、連続放火事件が発生する。
そして、その放火現場の近くには決まってグラフィティアートが残されていた。
泉水はその英語と遺伝子の間に偶然とは思えないルールがあることを発見し、春とともに放火魔を捕まえようとする。
しかし、真相が明らかになるにつれて暴かれる衝撃的でかつ悲劇的な事実。
生物、特に人間にとっての『家族』とは一体何なのかーーー。
直木賞候補ともなった伊坂幸太郎による本作品。
映画化もされており、読むもの・見るものに感動を与える作品です。


感想


伊坂幸太郎さん自体は有名なので聞いたことがあったものの、今まで作品を読んだことがなかったので書店で物色していたところ、この『重力ピエロ』の書き出し

春が二階から落ちてきた。

本文より

という一文に惹かれて読みました。
「春?季節の?が、二階から落ちてきた?」みたいな感じで疑問に思いましたが、なんか文学的でカッコいい!と非常に短絡的な思考で魅了されてしまいました。
あらすじを読んだ方なら何となくわかるとは思うのですが、この春は季節ではなく人名です。
あと、飛び降り自殺とかでもないです。二階じゃ相当打ちどころが悪くないと死ねない気もしますし。
この作品では、結構早い段階で謎が解けます。また、その真相も割と普通というか、どんでん返しという感じではないです。
しかし、謎が解けた後の家族のやりとりの方が大事で、そこではタイトルである『重力ピエロ』についての言及もあります。
家族の歩んできた道の背景には、複雑でとても辛いことがあったものの、だからこそ兄の泉水と弟の春は強い絆で繋がっている。
僕のようないわゆる”一般”の家庭環境で育った人には到底図り知れない悩み・悲しみが、心に沁みて伝わってきます。
このようなミステリではありつつも、人間にフォーカスを当てた作品はあまり読んだことがなかったのでとても楽しかったです。



余談(ネタバレあり)

ネタバレが嫌な方はここから下は見ないでください!








この作品では”遺伝子”がキーワードになっています。
僕は生物選択ではないので、高校一年生の頃にやった生物基礎と大学2年の春学期にやった生命科学くらいの知識しかありませんが、遺伝子のことはある程度知ってました。
二重螺旋構造とかなら皆さんも一度は見たことがあるのではないでしょうか
。所々二つの線がつながっていますが、あれが塩基と言われる部分がくっついてできている部分、でA(アデニン)とT(チミン)がくっつき、C(シトシン)とG(グアニン)がくっつきます。
DNAではなくRNAというものにはT(チミン)に代わってU(ウラシル)という塩基があります。
RNAはコロナワクチンの文脈でmRNAっていう言葉聞いたことありませんか?
このRNAは何してるかというとDNAにある塩基の配列(順番)を読み取ってタンパク質を生成するために仲介みたいな感じで働く奴らです。
ニワカが語るなって思う方もいるかもしれませんがご容赦を。。。
このように書いてるとやっぱり「人体すごくね?」って思うんですよね。人体に限らず生物全体ですけど。
この作品では兄の泉水と弟の春は生物学的には血は繋がっておらず、春は母と母をレイプした男の間にできた子供です。
しかし、そんな二人がとてつもなく複雑でつらい生い立ちで育ってきたからこそ、遺伝子を超えた兄弟の強い繋がりが感じられてとても感動しました。
また、父親の強さも感じられました。

おまえは俺に似て、嘘が下手だ

本文より

たった一言、されど春にとってはこんなにも分かりやすい父親の愛情が伝わる言葉はないのではないでしょうか。
いつか自分にも我が子ができたらこんなに強くなれるんでしょうか。
でもホモ・サピエンスという(多分)現代人の祖先が何万年も生存してきて、子が生まれればその度に父親・母親という役割を担わなければならないわけです。
僕だけ例外でクソ弱い父親になるはずがない!と信じてます。
まず父親になれるかどうかが怪しんですけど😁


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