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伊豆旅行 一泊目、アルカナイズ

 ようやく東京もGoToに追加されたとはいえ、よさげな宿は秋口の休前日にはことごとく埋まっている、という状況になっている中なんとか秋と年明け以降の宿を確保したわけですが、それに先駆けて8月の下旬、二泊三日で伊豆に行ってきました。いや、これGoToを見越して予約をしたはいいけど東京が外されて、でもせっかく予約したのを放流するのは悔しいし、まあ今年は海外行きたいといっていたけれど、このご時世でそれも完全になくなったしということでまあいいやと。

 わが家はわりと旅行には行く方で、海外旅行のない年であれば、温泉旅館を主に年2~3回くらい国内旅行に行っているのですが、実は伊豆は疎かったりします。

 これは箱根もそうなんですが、伊豆、便利過ぎて旅行感が薄いのと、その利便性から俗っぽさもまたつきまといがちでこれまで避けてきたというところはあるのですが、こういうご時世ということもあり、近場狙い、とはいえいわゆる観光地感丸出しではないエリアで館内でわりと完結できるタイプの落ち着いた宿に、ということで一日目は以前から時折妻よりリクエストがあった中伊豆の山の中の宿、アルカナイズ(http://www.arcanaresorts.com/)になり、ならば二日目は海、沼津港近くの沼津倶楽部(https://numazu-club.com/)にしました。沼津倶楽部、今は亡き那須の二期倶楽部と同系列ということでやはり前から行ってみたかったのです。

 まあ単純に山と海、さらには東京から新幹線で行く場合に起点となる三島を軸にした移動が楽ということで選んだのですが、結果としてはそれぞれに特徴があり、また宿としての在り方自体が対象的な二軒という感じで面白かったです。

部屋

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(渓谷に面して大きな窓が。到着直後で曇っていますが)

 初日は中伊豆の有名宿、アルカナイズに。修善寺から車で30分も行かないわりには狩野川の峡谷沿いで山の中感がある湯ヶ島温泉にあります。周辺にはほかにも老舗や有名宿がいくつかあるところですね。アルカナイズも峡谷沿いに並んだいくつかの建物からなり、テラスに設置された露天風呂からも川を見下ろせる眺めのよさが一つの売りです。そしてもう一つの売りがこの山中にありつつ、分子系調理も交えたいわゆるモダン・フレンチ・レストランが併設されていること。

 実のところ、公共スペースはそのレストランのみでフロントもロビーも大浴場もなし、食事時以外は完全に部屋の中で滞在が完結するという大胆に切り詰めた作りは2000年代の初頭、やはり伊豆の宿である月のうさぎあたりをきっかけにブームとなった部屋露天付きおこもり系宿を突き詰めた感じですね。そういう意味では完全にカップル宿、というかほぼラブホ?という印象は。言い換えると東京カレンダー的な雰囲気なので、正直ややアウェイ感を受けなくもw
 そういう作りである以上、大概の客はほぼこもり切りになることが想定される部屋(わが家は下から2番目のカテゴリーにあたるリバーテラス・スイートでした)ですが、スペック的には55㎡と不足はないはずなのですが、大きなベッドが二つ並んでいるせいか、意外と余裕はない感じでしたね。窓が一面に広がる構造上、ほぼ開けられない辺りと合わせて、狭くはないものの少し圧迫感を感じる可能性はあるかも。まあより上のグレードの部屋であればスイートルームになっているので圧迫感的なものは解消されるとは思います。

 ビール(ハートランド)、ジュース、お茶など冷蔵庫内のドリンクはフリー。あとコーヒーメーカーもあります。CDシステムはありますが、TVはなし。有料で室内にプロジェクター/スクリーンの設置は可能で、CD/DVDの貸出あり。この辺の設備は2007年開業からアップデートされていない感じですね。DVDはまあ普通ぽいラインアップですが、貸出のCDのラインアップはグールドのゴルトベルグ変奏曲、ビル・エヴァンス、ジョン・ケージ、ブライアン・イーノのアンビエントもの、ポストロック、エレクトロニカなどやはり2000年代半ば渋谷タワレコ最上階を思い出させるようなこじゃれすかしコア寄りのものが並んでいます。あと、レストランの一角にライブラリとして本が並べられているのですが、そこにもヘンリー・ソロー、レイチェル・カールソン、ポール・オースター、イタロ・カルヴィーノなどが並んでいて、あーなるほどとなるか、あるいはなんだこれとなるのか、そもそも目に止めないのかは客層考えると微妙だろうなと。

 雰囲気重視ということか、照明はかなり控えめで、デフォルト状態だと読書にも不自由するくらいだったので、読書灯(無料)を二つ持ち込んでもらいました。あと、これは海外の南国リゾートホテルにはよくある構造なのですが、この宿トイレと洗面所の間に扉がない!(手洗いの写真はないです)。なので、うちみたいにもう随分と長く過ごしている夫婦ならまず問題にならないのですが、付き合い始めて間もない初々しいカップルだとその辺も心理的なピンチに陥るかも?ほか、水回り関係でいうと、建物~部屋はモダンなコンクリート打ちっぱなしで、洗面所は石張りの床なのですが、床暖房は装備していないということで、秋冬以降、伊豆とはいえ山の中は冷え込みがあるので実用上不便を感じないかなと気になったり。


 もっとも朝、渓流の流れる音を聞きつつ、一面の窓の外に広がる緑を眺める目覚めはかなり気持ちがよく、そういう意味ではこの部屋はローテーブルやソファなどに立派なものはありつつ、ベッドの上で過ごすことを重視して作られているのかなという気がしました。

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お風呂

 で、部屋の中でももう一つの焦点となる風呂ですが、これがただテラスにあるのではなく、建物から突き出した形のテラスに設置されているので三方がオープンになっているという大変に開放的な構造で非常に気持ちがいいものでした。この建物から突き出すようにして風呂があるというのはこのカテゴリだけの特徴で、今回この部屋にしたのはほぼそれが目的ですね。あ、開放感があると言っても地形的に切り立った崖に面しているし、宿の他の場所から目に入りそうな感じはしないので、女性の方もまずは安心して入れると思います。

 わが家、客室露天風呂へのこだわりはないのでそこまで比較対象がないのですが、とはいえ開放感、部屋からの動線、大人二人でも十分余裕もって入れるサイズと湯量、温度調整のしやすさなどを合わせるとまあこれまでで一番かも。ただ、泉質自体はよくいえばさらりとした、悪くいえば当たり障りがないそれなので、硫黄臭や湯の花たっぷりの温泉感が欲しい人には物足りないかも。とはいえ、そうした当たり障りのなさは入り疲れしないという利点はあるので、滞在中5回くらいは入り、昼、夜、朝、午前の風呂をたっぷりと楽しみました。というか、この風呂、秋の紅葉の時期とかだとさらに気持ちよさそう!

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 ただし、排水の浄化の具合でかこの露天風呂は浸かるのみでソープ/シャンプーの類は使用できず。これ自体は部屋付きの露天にはありがちなことなんですが、大概の宿はその辺は大風呂で、となっているのに対して、アルカナイズは大風呂というものがないので、体と頭は露天への入り口を兼ねているシャワー・ブースで洗うということになります。これは本当に普通のホテルに付いていそうな普通のシャワーブースで完全に一人用、というか普通に狭い。後、熱がこもるなどあんまり使い勝手はよくないですね。ちなみに最上位グレードのthe SUITEのみは露天とは別のバスタブ付浴室があって、そちらで身体を洗えるようになっているようです。

食事

 さて、アルカナイズのもう一つの看板となるのがご飯です。大阪でミシュランの星をキープしているリュミエールの系列とのことで、温泉旅館としては非常に珍しい本格的なモダン・フレンチです。
 海、山ともに豊富な伊豆の食材を推してくる地産地消的アプローチや、モダンフレンチのとかくしゃらくささを感じさせてつい失笑につながりがちな”映える”プレゼンテーション(わりと意識高い系と親和性高い気は)も緑広がる大きな窓をバックに出されると説得力割り増しになったりして、なるほど、場の威力というものはあるのだなと思わされたり。

 なお、8月に泊まった際は新型コロナの影響で全室は埋めずにある程度減らしての営業をされているということで、宿泊客の全員がオープンキッチン越しにその緑が見渡せるカウンターか、そこから一列下がりつつも上から見下ろす感じの席に収まっていたようですが、本来は満室ですと全員をそれらの席に収めることが出来ず、一部の客はその裏側にある駐車場側に面したボックス席での食事の提供になるようで、これはカウンター側とヴィジュアル的に格段の差が出てしまう上、そこらの創作和食ダイニングの半個室的なシャビィさも出てしまうので、食事の席はカウンター側に出来るかは予約の際に確認/リクエストをした方がいいと強く思いました。

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 少量多品種のアミューズから始まり、液体窒素で凍結粉末化したソースなどのイノヴェーティヴ系の典型的な技を使いつつ、素材の組み合わせには奇をてらわず魚〜メインは何をどのように調理したかが分かりやすい皿が続いて、そこまで極端には尖った感じではないところにまとめて来ているのは温泉旅館付属のレストランとしては正解と思います。火入れの加減など技術的にもしっかりしていて、モダンフレンチであるという前提を理解していればまずは万人受けする料理と思いました。東京であればドリンク含めて客単価2万前後、無難に美味しく雰囲気もあり、ミシュラン星には届かなさそうだけれど、一定以上の評価は得られそうな感じの料理ですかね。まあ、こうしたイノヴェーティヴ系フレンチ、少なくとも都内ではそれなりに一般的に頂けるものではあるので、これを食べにここまで来るというモチベーションにはなりにくいとは思いつつ、このロケーションにてこのタイプの料理をこのレベルで頂ける、というのは他に中々ない特質なのは間違いないかと。

 ただまあワインの値付けはかなり強気で都内グランメゾン級であり、この価格帯を気にせずきちんと飲む客は限定されそうな気はしました。あるいはそもそもそういう細かい事は気にしない客層が基本ターゲットでありそうですが。

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 そして単にレストランではなくオーベルジュということで必然的に朝食もいただくのですが、卵料理はオムレツやスクラブルドなどからチョイス、さらにはトッピングも複数種類から選ぶという形で、フレンチということもあり基本のオムレツを。サラダのドレッシングが試験管的な容器に入って出されたり、ラタトゥイユの再構成という形で分子調理を取り入れたりと、モダンフレンチならではの主張も見せた朝食というのはそれ自体が珍しいですし、鮮やかな緑が大きな窓越しに見える中でのそれは、気持ちいいですしまあ中々他では得られない体験で面白かったです。


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周辺

 最初の方で、アルカナイズの作りを公共スペースはレストラン以外になく、部屋露天を軸にしたいわゆるおこもり宿のコンセプトを推し進めたもの、と書いていますが、実のところアルカナイズがある湯ヶ島温泉、古くからの由緒ある温泉地であり、また渓谷近くを散歩できる遊歩道などもあって、なんてことのない田舎の温泉地でありつつも宿周辺を小一時間くらいうろうろするのも楽しかったりします。ということで、夕食前と朝食後の二度にわたり散歩したのが以下ですね。東京では35度越え、とかなり暑い日だったので山の中とはいえ結構汗をかいたのですが、そういう時には部屋戻ってすぐに浸かれる部屋露天は便利でした。

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それで風呂から上がったら外を眺めつつビールでだらだらと。アルカナイズ、チェックイン15時、チェックアウト13時と滞在時間が長くとられており、チェックアウトが遅いので、一泊でも余裕をもって滞在できるのはよかったですね。チェックアウトが遅い時間なので、存外充実していたインヴィラ・ダイニングのメニューでお昼にしようかという話も出たのですが、実際は朝ごはんが充実しすぎていてお昼になっても固形物はなにも入らない状態でチェックアウトまで過ごしました。

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総合的な印象

 総合的な印象ですが、先にも書いた通り、眺めがよく開放感ある部屋露天と実力あるモダン・フレンチ・レストランの二つを軸にしたおこもり型温泉宿としての完成度はかなり高く、そのロケーションの良さとあいまって、季節を変えて再訪してみたいなという魅力がある宿ではあると思います。
 まあ欲をいえば、いわゆるおこもり型旅館のコンセプトを合理的につきつめ、この辺は目立つスペック的な部分は豪華風にしつつ、シャワーブースや床暖房の欠如など、細かいところで切り詰めた余裕のなさを感じる部分があって、余裕を感じに行くリゾート宿としてはそこが弱点ではあるなとも思いますが。なんというか、目立つ部分に豪華なパーツを合理的に配しつつ、公共スペースや庭などを廃しているその合理性ゆえに宿全体から見えるストーリー性というか、美意識というのが見えにくいというのも気になるところではありました。そういう意味で、再訪の可能性は十分にありつつ、そう何度も繰り返しリピートしたくなるかどうかはちょっと分からないですね。

 いやまあ、もっと気軽に郊外の豪華ラブホの超強化版として使える層にとってはそうしたストーリー性や世界観などは必要なく、合理的かつ便利な作りと感じるのかなあとも思うので、その辺は単に嗜好と世界の違いとは思いますが、うちクラスになるとこの価格帯の宿はラグジュアリーになってしまうので、非日常性的なストーリー性が欲しくなってしまうところはあります。ただの貧乏性か。

 なお、サービス面についてはバトラー制を敷いており、なにかあれば担当バトラー(複数部屋兼任とは思いますが)に連絡を、となっておりますが、基本的にはチェックイン/アウトとレストランの給仕以外ではほぼ従業員の方とは関わらず、いい意味でほったらかしにされる宿なので、判定不能ですね。もちろん滞在中はスムーズに進み、なんら不満が起こらず、十分でした。

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