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2024/07/07 【応援歌整頓論】多少の節回しの変更は同一曲とみなす

(この記事は「応援歌整頓論」の各論です。概論は別記事をどうぞ)

最近ちょっとサボっていました応援歌整頓論です。今回からは、応援歌としては一見同じ曲に見えるけれども、メロディや曲構成が若干変化した場合、私はこれをマイナーチェンジと呼びますが、この辺りに関するルールについて論じていくこととなります。


応援歌の節回しは割といい加減

今回のテーマを語るにあたり、まず大前提として述べておきたいのが、応援歌の節回しって、そこまで正確無比に演奏されるものでもないだろう、ということです。
こんな不穏な見出しを付けると、とある球団の応援団辺りからは顰蹙を買いそうですが、私から言わせてもらうと、そういう不完全さもまた、応援歌の魅力の一つに感じるのです。

そもそも、節回しという単語自体、あまり耳慣れない方もいらっしゃるかもしれません。手持ちの辞書を引いてみたところ、こんな説明です。

歌謡や語り物などの調子・抑揚。

西尾実・岩淵悦太郎・水谷静夫編『岩波国語辞典』第6版、岩波書店

私が応援歌を論じるにあたって、節回しという語句を用いる時は、一音一音の音程の高さや長さのことを指しているつもりです。上記の語釈からは、そこまで外れていないでしょう。

応援歌というのは、その性質上、同じメロディが応援団によって演奏され、またスタンドのファンによって歌われます。同じ打席内でも繰り返し演奏されますし、別の打席でも、別の試合でも、演奏条件さえ合致すれば、何度だって演奏されます。
そして、そのメロディを奏でるのは、あくまで人の手によるもの。新型コロナウイルス感染症の影響で応援制限がかかっていた時は、録音した音源を球場内に流す、いわゆるスピーカー応援という形式が主流だったこともありましたが、これはあくまで例外的な措置であり、基本的に応援歌というものは、ライブ感を伴って球場内に響き渡らせるものです。

そうなってくると、同じ応援歌であろうと、その時々で微妙に聴こえ方が異なることが出てきます。また、発表時点での節回しであったり、応援団が公式に作成した打ち込み音源の節回しであったり、もっと言えば応援歌CDとの節回しとも、実際の球場の演奏と異なるケースというのは、決して珍しい話でありません。
もちろん、あまりに外れたメロディで演奏してしまうと、歌い手であるファンの混乱を招きかねません。そうした事態を避けるべく、なるべく統一的な演奏ができるように、応援団の皆様が日々練習を重ねられた上で実戦に臨んでいることは、承知しております。
それでも、機械ではなく人の手でやっている以上、常にミスなく演奏するというのは、いくら応援のプロといえども不可能な話です。まして、コンクールで評価されるような正確性とは違った次元で、音量重視かつアップテンポでの演奏が求められる現場なのです。

そういう諸々の条件をひっくるめて、応援歌の節回しが球場での応援に最適化された形へとブラッシュアップされていく過程を追い掛けるのも、私としては、なかなかどうしてやみつきになってしまう作業なのです。
正直言えば、いつ何時でも正確なメロディラインで応援歌を演奏してくれるなら、私の耳コピ作業だって相当楽になるでしょう。そういう意味では、鍛錬を重ねられた応援団による演奏を聴くと、私の音源作りにおいて音の外しようがなく、ストレスは軽減されます。
でもその一方で、同じ応援歌でも、いろいろな試合のいろいろな演奏を聴き比べて、この時はこんな節回しだけど、あの時はあんな節回しに聴こえて、じゃあ私が音源として作るならどの節回しを採用するか、考えを巡らすのも、なんだかんだ嫌いではありません。こうした一連の過程こそが、その応援歌に対する私の理解を深めるにあたり、省いてはならない時間なのでしょう。

多少の音程の違いは同一曲とみなす

ここからは、いくつか代表的な事例を取り上げていきながら、節回しの変更についての理解を深めていただきましょう。
まずは、音程の違いについて。これに関しては、少し古い応援歌になってしまいますが、広島廣瀬純の応援歌を見てみましょう。
この応援歌と言えば、本編後半4小節部分「始まりの鐘が鳴る広島伝説」をスローテンポにした前奏が印象的。この前奏は、現在では菊池涼介に引き継がれており、有名な一節ですね。

さて、この応援歌の中で、音程の違いが特に目立つのは、「始まりの鐘が鳴る」の最初の一音「は」の音程。前奏の出だしにもあたる音です。
私が作った動画の音源では、前奏及び本編奇数周において、「は」の音程のほうが、直後の「じ」の音程よりも高くしています。実際、廣瀬の応援歌の実録動画は検索すれば様々視聴できますが、この音程で演奏しているパターンが多い印象です。
一方、動画内2周目の音程は、「は」の音程を、「じ」の音程よりも低くしています。これは、'04まで発売されていた応援歌CDに収録されている音程と同一にしたものでして、実録を聴き漁ると、特に使用開始から間もない時期ほど、この音程で演奏しているパターンを確認できます。

今回の廣瀬のケースは、1か所の音程の違いのみにフォーカスしていますが、この8小節の中に、他にも節回しの違うポイントが存在したとすると、その違いに合わせて、いちいち別の曲と整理し出していったらキリがありません。
というわけで、この程度であれば、多少の音程の差と認識し、この箇所の音程の違いをもって、別パターンで音源を整理するようなことはしません。同一曲として整理しつつ、1つの音源の中に2パターン収録することで対応します。

ちなみに、廣瀬の応援歌動画内コメントで、この前奏が菊池に引き継がれた後、CD版の音程に回帰しているように聴こえると書き残していました。
もう少し細かく言うと、廣瀬前奏継承が発表された'16の9月中の実録を確認する限りは、廣瀬時代球場で定着していた(CD版と異なる)節回しで演奏しているように聴こえます。
それが、この年の日本シリーズ、特に札幌ドームの試合における実録を聴いていただくと、前奏の節回しがCD版に回帰しているのです。そして、その翌年以降は、CD版の節回しでの前奏のほうが主流になっていったように感じます。
という変化に気づいていたにもかかわらず、私が'18に投稿した菊池の応援歌動画の前奏の節回しは、廣瀬球場版と一緒。作り込みが甘いと言わざるを得ませんね。

多少の音の長さの違いは同一曲とみなす

節回しの違いというと、着目すべきは音程だけでなく、音の長さが異なるケースというのもあります。こちらは、現在日本を代表する打者の一人にまで成長した、ヤクルト村上宗隆の応援歌を実例として取り上げます。
この節回しの違いについても、私が投稿した動画の音源をお聞きいただきつつ、動画内コメントをご覧いただきたいのですが、ポイントは2,6,7小節目。文字に起こすと、「タータタッタッタ」か「タータタータータ」の違いになります。

これについては、応援団公式アカウントにて発表された動画を見ると、「タータタータータ」の節回しが正しいように聴こえます。前奏2小節目で採用されている節回しとも同一に聴こえますね。

ヤクルト応援団の公式ホームページ上では、打ち込み音源も掲載されています。こちらの節回しも、完全に「タータタータータ」となっています。

ところが、球場で実際に演奏されファンが歌っている様子を聴いてみると、本編中の節回しは「タータタッタッタ」と聴こえるケースが大多数なのです。こちらの音源掲載は割愛しますが、何せ有名どころな現役選手の応援歌ですから、検索すれば実録動画がゴロゴロと見つかるはずです。各自聴いてみてください。

なぜこのような節回しの変化が生じてしまったか、私なりに分析すると、アップテンポの演奏に最適化した結果と思われます。
スローテンポな前奏に関しては、発表当時の節回しに忠実に演奏できていますし、ファンも違和感なく歌えています。ですが、テンポを速めたときに、8分音符ずつ先回りするような節回しで声を揃えるのは、現実問題なかなか厳しいものがあるでしょう。
実際、発表直後の'19オープン戦辺りの実録だと、本編中もより忠実な節回しで演奏しているようにも聴こえるのですが、実際に球場で使用していった中で、より歌いやすい形に合わせたのではないかと推測します。

というわけで、音の長さの違いが生まれる実例も取り上げましたが、これもいちいち別の曲として整理するようなことはせず、音源中に複数パターンの節回しを収録することで対応します。
応援歌のマイナーチェンジというと、節回しの変化の他にも様々な形があり、それらの整理方法は次回以降論じますが、節回しの変化に関して言えば、数あるマイナーチェンジの形の中でも、特に些末な変化として捉えているところです。

節回しが原型を留めなければ別の曲とみなす

ここまでは、節回しが違っても同一曲と整理するケースを紹介してきました。私の経験上では十中八九、節回しが違うからといって別の曲として整理するようなことはしません。
ただし、裏を返せば、ごくまれに、原型を留めずに節回しが変化してしまうケースもないわけではなく、そういった場合には、別の曲として整理する場合がございます。本記事のタイトルで「多少の」と銘打ったのは、例外もまた存在するという意味合いです。

これが当てはまるケースとして、ロッテで主に'17から'23にかけて使用されたヒットコールを紹介します。原曲は『ガンバランスdeダンス』。プリキュアシリーズから引っ張ってきた曲です。

このヒットコール、実は'17以前にも、'10に一時期使われていたのですが、その時のメロディのほうが、より原曲に近い形でした。沈黙の時を経て、'17に突如復活した際も、当初は'10時点の節回しで演奏されることの方が多かったです。

この2つのメロディを、「多少の」節回しの違いとみなして、同一曲と整理してしまうのも、なんだか惜しい気がします。まして、ヒットコールの場合は1ループしか演奏しないのが基本なので、1つの音源で2パターンの節回しを収録するという手法が使えないという制約もあります。
というわけで、本応援歌に関しては、節回しの変化によるマイナーチェンジですが、例外的に別個の音源を作って整理することとしています。

それにしてもこのヒットコール、どうして原曲に近い形の節回しをあえて崩したのか、その真偽の程は定かでありません。
この系譜を見る限りは、全く別物の曲と整理するのも違和感が残ると言いますか、いずれの曲も同じルーツを持つものと見てよさそうですが、案外、ロッテ井上純の『サスパズレ』と『殺人狂ルーレット』とか、ロッテ橋本将の『ハッピーライフ』と『空に唄えば』みたいに、メロディ自体は類似しているけれど、実は'17以降のほうには別の原曲が存在する可能性もあるんですかね。


以上、今回は応援歌における節回しの変化をテーマにして、私の応援歌の整頓方法を論じました。相変わらず細かいことをグダグダ説明していて、読者の皆様を置いてけぼりにしていそうな内容でしたが、いかがだったでしょう。

ところで、この手のマイナーチェンジで、ちょっと扱いが悩ましいのは、ダイエー吉本亮と森山一人の2曲。この両名の応援歌は、発表年'99に応援歌CD中収録されたメロディが、翌'00に微妙に変化しました。ただ、実際に球場で演奏される際はどういう形だったのか、いまいち掴み切れません。
吉本に関しては、変更後のメロディで演奏されている実録は確認できるものの、変更前'99はルーキーイヤーで一軍出場がそもそもありません。
森山に至っては、'99から'01までのダイエー在籍3年間、一軍公式戦の打席数は毎年1桁と、変更前後で実績はゼロではないので無視はできないながら、調査の難易度がとてつもなく高いという嫌らしさ。応援歌学会の過去ログを見ると、森山の打席中、お遊びで全く別の選手の応援歌が演奏されたこともあったみたいですし…。
というわけで、この辺りも一度はまるとなかなか抜け出せない沼なのですが、何か有力な情報をお持ちの方がいらっしゃいましたら、いつでもお待ちしております。

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