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♯2フジTVの秋ドラマは見ごたえがある プロデューサーの佐野亜裕美が脚本家の渡辺あやとこの企画を6年前に発案したがこれまで実現しなかった。 


1.「エルピス」はなにがすごいのか?視聴者に問いかける“正しさ”の意味

シネマトゥデイ 2022/11/21

警察権力による強硬な捜査と情報隠蔽、マスコミによる忖度と偏向報道。
恵那は冤罪事件の報道にかつての自分も関わっていたのではないかと思いいたる。
加熱した部分のみを執拗に報道したり、報じたニュースのその後の真実を追いかけることをしなかったりする、あまりテレビドラマでは正面から扱われないマスコミの体質が、次々と提示されていく。
視聴率や反響がよければ掌を返す主体性のなさも示唆されている。
テレビ局が自らの足元をすくうようなもので、「骨太な社会派」という言葉ではおさまらない衝撃的な内容といえる。

実際、プロデューサーの佐野亜裕美は、脚本家の渡辺あやとこの企画を6年前に発案したというが、これまで実現しなかった。佐野は場所を変え、チャンスを狙い、ようやく放送にこぎつけたという。企画を通した関テレの英断といえよう。


汚染水や安倍元首相、東京オリンピック・パラリンピックといった実際の事象や政治家の映像が否定的な意味で流れたり、語られるエピソードが実際の事件に似ているということを問題視するむきもあるが、それこそが制作者の意図ではないか。「何が本当のことなのか」「それは本当に悪なのか」ということこそ視聴者に考えてほしいという、問題提起なのではないか。

 番組で冤罪だと告発したいという恵那の希望を、テレビ局はためらいもなく却下する。冤罪なんてありえない、もう判決が出たと、事件の捜査にあたった警察官はかたくなに言い、冤罪かもしれないという拓朗の言葉に耳を傾けることもしない。権力の傘からはみ出しつつある恵那と拓朗は、そんな権力側の言い分に憤りつつ、自らの内面にあるそれに迎合してしまう弱さにも直面する。彼らなりの正義がこの先の展開でどうなっていくのか、しっかりと見届けたくなる作品だろう。


マスコミ批判だけのドラマではない。権力の横暴を声高に糾弾するだけの物語でもない。これはすべての人に向けて、自らの目で真実を探すことに意味を見い出す必要を説く、自制と自戒の物語だ。

(文・早川あゆみ)


2.『エルピス』第6話、村井はなぜネットで強く支持されるのか。煙草を吸い、組織に媚びない中年男性の善意

OJweb 2022/12/3(土)

第1話から注目されていたハラスメント・チーフ・プロデューサー村井(岡部たかし)が誰よりもかっこよく描かれていたこと。ネットの反響はとても大きかった。それについては、あとでもう少し手厚く書こうと思う。今回のテーマは、なぜ、村井が視聴者に支持されるか?である。

村井はなぜネットで強く支持されるのか
第5話のレビューで、ノブレス・オブリージュへの希望(期待)があると書いたが、『エルピス』は徹底して小市民の話であり、誰もが汚れも弱さも持ちグダグダしながら、それでも美しく正しいものを追い求めていく物語なのかなと思い直した。村井がネットで強く支持される理由は、小市民的なところを一身に背負っているからだろう。缶コーヒーを飲んで、カラオケに興じ、煙草を吸い、組織に媚びず、自分を貫き、口は悪いが、意外と人をよく見ている。 おしゃれな部屋やペントハウス的な、古いがカッコいい部屋に住む描写もないし、おしゃれな服も着ていないし、太い実家も、素敵な恋人や妻も出てこない(もしかしたら、依存する妻や子や恋人がいるかもしれないし、そもそもテレビ局のチーフプロデューサーだからエリートではあるのだが、それはそれ)。村井の善意はけっして真っ白でパリッとアイロンのかかったシャツのようではなく、少しシワになったシャツのようではあるが、それが愛されたのだと思う。そうじゃない部分が今後出てきたら、また見られ方は変わるだろうけれど。

大洋テレビの中では、事件の真相よりも、どうやって問題なく自分の立場を守るかが優先順位の上になる。たとえ心の中では躍起になっていても、表面的には何事もなかったように、いつもと同じように淡々と振る舞う。このぬるさや虚しさはリアルだ。少なくとも筆者はこういう世界を目の当たりにしたことがある。何かトラブルが起こったとき、あからさまに人間性が出るもので、そのとき誰もがトラブルから距離を取ろうとするのと同じように、顕在化した人間性をも慌てて隠そうともする。そのよそよそしさはいたたまれない。
得するのはよけいなことを一切しなかったプロデューサー名越(近藤公園)だ。何もしなければ、目覚ましい出世はなくても組織に守ってはもらえる。


3.【筆者のコメント】

まず、視聴率激減して広告収入も激減している後の無いフジTVでなければできなかった企画。
もう一つ、社長交代、編成局長交代の時期だから、すり抜けた企画。

TV局だけではないが、組織と言うものは自らの存在意義を否定する事は出来ない。

元報道部所属で現『フライデーボンボン』チーフ・プロデューサー村井(岡部たかし)がその狭間を演じており、視聴者の支持を得ている。

自分の立場を守る事に汲々とする上層部と若いが故に正義感に突き動かされる岸本拓朗(眞栄田郷敦)の狭間に、チーフ・プロデューサー村井(岡部たかし)が居る。それがもう一つの制作者のメッセージなんだろう。
村井こそが『エルピス ―希望、あるいは災い―』プロデューサー佐野亜裕美自身を投影しているのかもしれない。フジTVにも未だ良いドラマを創りたいという気持ちは持っている人がいると。

その意味でめちゃくちゃ面白いドラマ。


続く

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