無敵の未来大作戦よみました(1-2巻ネタバレあり感想)

https://www.amazon.co.jp/無敵の未来大作戦-1-ビームコミックス-黒崎-冬子/dp/4047364274

黒崎冬子さんの無敵の未来大作戦の既刊を読んだのでだらだらとしたを感想書く。

絵柄としては岡田あーみんとか、不思議な少年の山下和美のような往年の少女漫画という感じなのだが、扱っているテーマがまさに令和、というギャップが読んでいて本当に面白かった。

聖婚という一夫多妻、一妻多夫制度が少子化対策として導入された日本で、学生生活をる送る主人公たちのギャグコメディをベースにしつつ、人を愛すること、自分が生きていくこととは何か?という本質的な問題をずっと提示し続けているのがすごい。

主人公の瑛子は母子家庭育ちで貧乏暮らしをしている。彼女と学園内で「聖人」に認定され、誰からも愛されている(狙われている?)プリンス的存在の良々田くんとのラブコメ(仮)が話のベース。

サイドストーリーとして、学園内の様々な事情や愛情の形を持つ人たちが登場してくる。その誰もが真摯で、誠実に彼らの向き合う感情が描写されていて本当に良かった。

恵まれている人間が他者に対して消費されること、才能のある人が、性別を理由に拒絶されること、容姿や体型を一方的に品評されることなど、普段の生活で起きている「良かれと思って他人を踏みにじる」ことの痛みが本当に丁寧にかかれていた。

ベースがあーみん的なナンセンスシュールギャグであるだけに、笑って過ごして、なかったことにしまいがちな他者への残酷さ、消費してしまうことの暴力性が寓話のように描かれていた。

異性愛と同性愛が等価なものとして描写されている点は、現実の社会より進歩しているように思われる。しかし、その実起こっていることは、持てるものと持たざるものの隔たりが拡大し、「何が幸せ(作中の言葉で言えば、無敵の未来)」につながるのか、という問いに対しては答えが出ていない社会が描かれている。

1〜2巻までの話の中で特に私が好きだったのは、ぐれいすの話と藍ちゃんの話だった。ぐれいすは自分の夢を叶えてアフリカに旅立ってからも、自由であることの裏返しとして責任が付き纏うことまでちゃんと描かれていた。この辺りが、単なる御伽噺的なハッピーエンドではなく、ハッピーエンドのその先にももがきや試行錯誤があることをきちんと説明してくれていて、逆にすごく救いがあるなと感じた。

藍ちゃんの話も、読んで救われる人が多いのではないかと思った。体型を見ず知らずの人に品評されることの恐怖と、防衛反応として「なかったこと」にしてしまおうとする心情が痛いほど伝わってきた。怒ってもいい、という当然の権利をわかりやすく示してくれていた。道徳の教科書は心のノートとかしょうもないものでなく、この漫画にしてほしい…。

小難しい感想になってしまったが、ギャグのテンポが本当によくて面白いので、万人にお勧めできる。このギャグのテンポの良さと、倫理観の軸がしっかりしている作者のファンになった。ファンレター送るのって出版社経由がいいのですかね…?とにかく、いろんな人に読んでほしい漫画だった。



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