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中心から広がる熱量〜端っこでも【ゴール裏】〜

※ルヴァン杯準決勝第2戦の観戦記です。


2023年10月(試合数日前)


「行きたいけど…なぁ」
ルヴァン杯準決勝、浦和レッズがアウェイでの第1戦を0-1で終え、僕は迷っていた。
ホームの第2戦を現地で観たい。
でもプライベートな事情と、次の日の仕事がそれを簡単には許さなかった。

日曜日の17時というそんなに障害がなさそうな条件ではあったけど、チケットはあまり売れていないという。
僕は常々、サポーターには
「行きたい試合」「行かなきゃいけない試合」
があると思っている。
もちろん全試合行ければそれに越したことはないんだけど、日常のエネルギー、リソースをそこに注ぎ込める人は限られている。

「行きたい試合」
は、分かりやすいのは決勝戦や最終戦など「ほっといたって熱量が上がる試合」。
「行かなきゃいけない試合」
は大事だけどあまり席が埋まらなそうな試合。
(もちろん個人的な考えです)

もう単純なサポーターメンタルの自己満足なんだけど、この時も「頑張るのって今じゃない?」と思った。
なにより大きかったのが選手、監督、サポーターからの「決勝へ行くためにスタジアムを埋めて欲しい」という呼びかけ。
もちろんそれらのメッセージを見て「そう言われても無理なものは無理なんだよ…」と嘆いた人も多くいたと思う。でも僕の事情は「頑張ればなんとかなる」状態。


だから前日にチケット購入を決意。
ここで座席に迷う。一応次の日が誕生日というのともあり”あまり値段を気にせず好きな席を買える状況”ではあったんだけど、チケットがあまり売れてないと聞いていたので「ギリギリに行っても南なら空いてるだろう」と自由席を購入。

10月15日(試合当日)


家の用事を終わらせ、16時20分ごろスタジアムへ着く。
南広場が予想以上にけっこう賑わっている。もしかしたらこの中には同じように「迷ってたけど少しだけ無理した」人たちもいるのかもしれない。
知り合いがいつもいる広場のテーブルに寄り挨拶をしてスタジアム内へ。

前日悩んだ末自由席を選択した僕は、スタジアムに着いてからずっと「どこに座るか」で悩んでいた。
自由席なので早い話が北か南どちらにするか?ということなのだけれど、これは結構大事なことで、北に行くという事はすなわち試合終了まで全力のサポートを自分と約束しなくてはならない。
南であればもちろん声出したり手拍子はするだろうけど、基本的には座って観戦。

決まらないままとりあえずメイン側の入り口からコンコースを左へ歩く。
「何か食べようか…」とも思ったけどもうウォーミングアップが始まっている時間。北に行くなら席で食べたくはない。売店が割と混んでいたこともあってそのままゴール裏コンコースに到着。
そして一度通り過ぎる笑
すぐまた戻る。もう不審者である。でも少し怖かったのだ。

なぜ怖かったのか?
これは自分が所謂(?)退役軍人だからであって、小~大の学生時代にゴール裏のグループにお世話になっていたから。
最近の雰囲気もやり方もよくわからないのにいきなり一人で飛び込んで大丈夫か?という不安があった。
でも「勝たせにきたんだろ?」と言い聞かせてゲートをくぐる。
足早に右上段へ。うん、やっぱり角はまだ余裕があった。適当な席に荷物をおろす。
※これはもしかしたら「あるある」なのかもしれないけど、駒場時代から「中心の右」でずっとやっていたからか、自分の左に中心の人たちがいないとやりづらい。多分反応も遅れる。


ウォーミングアップ~選手入場

久しぶりのゴール裏だからか、アップの途中から入ったからか、自分がすごいソワソワしているのが分かる。
アップが終了し、立っていた人たちが座りだす。
ここでふと、チームとサポーターが「試合途中の雰囲気」を作っていると感じる。「先勝した」という感じの相手チームに対して「今から後半」の空気でメンタル的に優位に立つ。そんな雰囲気。

そして選手入場。
チャント(アレ浦和だったっけ?)と大量の旗。
ビジュアル(と呼ぶ規模ではないかもしれない)は中央でやっていたみたいだけど全く気が付かず。
それくらい目の前とチャント、手拍子に集中していた。あと本当に旗がすごくて見えなかった。

試合開始

キックオフ。どこの席でもこの緊張感はいつも大好き。でもこの「スイッチが入る」感じはいつもと違う気もした。

前半からかなり飛ばすレッズ。
早川ゴール→VAR介入でオフサイド。
「ウオォォォォォ!」という喜び爆発からの「あー…」という意気消沈。
しかしゴール裏の切り替えは早い。
すぐにコールがくる。「ハッ」とさせられる。

前半終了。

ハーフタイム

トータルでは負けているが当然ヤジなんか飛ばない。「大丈夫、このまま攻めればいける」そんな空気が会場を包む。良い雰囲気だ。

ハーフタイムにXを見る。僕はサッカーのことは完全に素人だし、ましてや現地、ましてやゴール裏にいるのでテレビ観戦している人の意見がめちゃくちゃ嬉しい。
何人か、選手の交代を予想している人がいた。「なるほど、代わるかもしれないな」そんなこんなしているとすぐ後半へ。

後半開始前、中心の方から声がかかる。同時に人が中へ吸い込まれていく。
「あ、あれか!」と慌てて中央へ。

歌え浦和を愛するなら
決めろ浦和の男なら


僕は恥ずかしながら(?)今回が初体験。
何度も見たこと、歌ったことはあるけど、そういえばゴール裏でやるのは初めてだった。

後半も全力でやるぞという意思表示と、点決めないと勝ちはあり得ない。お前ら頼んだぞ!というメッセージ。

もちろんボルテージは最高潮。

選手にも届いていたようだ。

後半

20分ごろ。荻原のクロス(シュート?)をキーパーが弾き、それを拾った早川が胸トラップ。シュート体の体勢に入るところを後ろから倒される。
「ファウルだろ!」と瞬間的に思うと同時にホイッスル。PKだ。
クロスを上げた荻原が倒れ込んだままガッツポーズしている。

しつこく審判に食い下がりなかなかエリアから出ないマリノスの選手にブーイング。こうなると埼スタは「いかに成功率を上げるか」モードに入る。
主審へ抗議、そしてキッカーへプレッシャーをかける相手がいなくなると今度は拍手。そして静寂が訪れる。

これが相手のPKになると「例のアレ」が行われる。

例のアレ

この使い分け、僕の中では「こうしましょう」なんて言われた記憶はない。浦和の30年の歴史でゆっくり作られていった空気作りなんだと思う。

PKはショルツが完璧なシュートで先制点、いやこれで同点。
ここからがスタートだ。そして空気は「とにかく勝ちたい」から「絶対勝てる」に変わっていく。
油断とかそういう類いではなく、相手チームをそのまま飲み込んでしまうようなそんな感じ。

そしてアディショナルタイム。
これまた荻原のクロス、今度は相手にブロックされるが浦和の選手がすぐにハンドをアピール。
マリノスのカウンターになりゴール前まで運ばれるが主審が試合を止める。VAR介入、OFR。
「そこで止めるなんてよっぽどだな」と思ってオーロラビジョンを見てると見事に手に当たっている。

盛り上がる会場。主審がTVシグナル、PK。
またマリノス選手が主審に抗議。
エリア内にはカンテが向かう。キッカーかと思いきやボールをショルツにパス。これなんか良かった。

このPK、めちゃくちゃドキドキした。
かなり飛ばしていた&流れも良かったから、90分で勝ちたかった。もう1点入らなければ延長だ。

みんなが祈る中、ショルツの蹴ったボールがポスト内側に当たりネットを揺らす。本当に凄い人だ。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」と叫ぶ。
直後「プライドオブ浦和」が始まる。切り替えが早い。あとは勝ち切るだけだ。

終盤接触プレーで負傷者が出て試合が止まる。
正直何がどうなっているのか全くわからないけど、とにかく声を出し続ける。
一体何分経ったのかも分からない。とにかくこの空気を切りたくなかった。

ようやく試合終了。そして「we are REDS!!」
気持ちよかった。なんとか精一杯できたと思う。
オギの涙のインタビューを聞く。

まだまだ居たかったけど、急がなくてはいけない。偶然割と近くに居た仲間に握手を求めて帰る。お互い声が枯れていた。

スタジアムを出ると沢山のマリノスサポーター。
「マリノスはやっぱり強かったし、今日のあなたたちのサポートはめちゃくちゃ脅威でした!!」と心の中で叫ぶ。伝える勇気はなかった。

帰り際「We are Diamonds」が聞こえてくる。
うん。来て良かった。


ゴール裏のススメ

僕はサッカーの(と言っても浦和しか知らないけど)ゴール裏が好きだ。
もちろん駒場のクルヴァもカッコよかったけど、ある時はチームの背中を押し、ある時は選手達を呼び込む。それができるのがゴール裏だと思う。

そしてゴール裏には言葉では伝えられない魅力がある。開幕から親に連れられてスタジアムに行ってたけど、自主的に行き始めたのはゴール裏を経験してから。駒場のバックスタンド2階真ん中の最前列という、「プラチナ」とも呼べるシーズンチケットはあっさりと手放し、(2度と手に入らないからね!と脅された)僕のチケットは自由席になった。

noteを始めた頃に書いたけど、僕はサポーターを区別したくない。ゴール裏で跳ねて90分声を出している人も、指定席でグッズを見に纏い観ている人も同じサポーターだと思っている。

でも、スタジアムの空気を作っているのは間違いなくこのゴール裏。そしてその中心だろう。
中心からの熱量が周りに広がっていく。
でも、おそらく中心だけ盛り上がっていても、スタジアム全体の熱量は上がらない。

今回ゴール裏の端っこに居て、「あぁ、ここの人達が頑張らないと多分その外には伝わっていかない」と思った。
指定席で観ているといつでも「今日もすげぇな」と思う浦和のゴール裏。
けして僕には真似できないあの中心の熱量だけど、それをスタジアム全体に伝えることはできるかもしれない。そんな、昔では気がつかなかった新しい発見があった。
またいつかお邪魔します。

もしこれを読んで頂いた方で、ゴール裏に行ったことない人がいたらぜひ行ってみてほしい。
「できる限りの全力を出す」という条件はあるけど、他では得られない素晴らしい体験が待っている…はずだ。

ありがとうございました。


あとがき

いや、しかしなっげー。全部読んだ方います?
本当に感謝と尊敬します。ありがとうございます。

追記
プレミアリーグの雰囲気は好きですが、それはそれとしてこのゴール裏の文化が100年後も残っていることを願います。

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