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【経営事典③】3C分析とは

0.はじめに

「色眼鏡で見る」という言葉があります。
先入観、偏見を持って物事を見るという意味で、
ネガティブな使われ方をしますね。

ただ、私自身は「色眼鏡で見る」ことは悪いことではないと思っています。

天才と呼ばれる人を除く大多数の人にとって、
複雑に絡まり合った物事をそのまま読み解くのは
至難の技です。
(私が天才と聞いてパッと思い浮かぶのは、
 マイケル・ジャクソン、メッシ、大谷翔平
 くらいです。適当ですが、数億人に一人くらい
 の割合ですかね。)

複雑な物事の前に考えるのを諦めたり、考えても
仕方ないと「エイヤッ」で判断するのではなく、「色眼鏡」の力を借りて物事を観察してみることで考えを深める取っ掛かりになると思うのです。

ここで大事なのは、「色眼鏡」を掛けている事を
忘れないこと
「色眼鏡」は万能ではなく、
あくまで考える取っ掛かりを与えてくれる程度の
ものだと理解しておくこと
です。

1.3C分析とは

ここで、「色眼鏡」と読んでいるものの一つに、
今回のテーマである「3C分析」があります。

3つのCはそれぞれ、Customer(市場)、Competitor(競合)、Company(自社)の頭文字を表しており、「顧客を把握し、競合相手、及び
自社の強み・弱み等を分析することで今後自社が
どうしていくべきか」を考えるための
フレームワークです。

3C分析

また、以上の図を、
「お客様(買い手) / 提供者(売り手)」、
「マクロ / ミクロ」の2軸で整理したものが
以下の図です。

ストーリーで学ぶ 戦略思考入門 / 荒木博行

個人的に、4象限で整理されたこちらの図の方が、
抜け漏れもなく分かりやすいので、以降、3C分析の図としてはこちらを採用します。

2.3C分析と戦略立案のつながり

3C分析は非常にシンプルで理解しやすいですが、
このフレームを埋めるだけで満足してしまい、
「やってはみたものの実際の戦略立案にどう役立てればよいか分からない」となってしまうことが多いのではないでしょうか。

3C分析を実施することそのものが目的ではなく、
あくまで戦略立案にあたっての材料集めという位置づけのため、分析を実施する上では予めゴールを
明確にしておく必要があります。

中小企業の基本的な戦略の考え方として、
「自社の強みを活かして、市場の機会を捉えて経営資源を集中することにより、他社と差別化し付加価値向上を図る」というものがあります。
(中小企業診断士の二次試験においても必須の考え方です。)

したがって、戦略立案の第一歩としての3C分析の
ゴールは「自社の強みと市場の機会についての初期仮説を構築すること」です。
「自社の強み」を理解するためには、
競合の強み・弱みについても把握しておく必要が
あります。

また、「初期」仮説と言っているのは、3C分析は
一度実施して終わるのではなく、
3C分析(1回目)→初期仮説構築→検証→
3C分析(2回目)→2次仮説構築→・・・
というサイクルを回して進化させていくものだから
です。

3.自分に当てはめる

ここからは実際に3C分析を自分に当てはめてみますが、その前に以前の記事で説明した戦略のレイヤーと、3C分析の関係を示しておきます。

戦略のレイヤーと3C分析の関係(筆者作成)

全社戦略は、複数の事業を実施する場合に定めるものなので、今回は競争戦略を立案するための事前準備として3C分析を実施します。

5分で埋めてみる

「中小企業診断士として独立する」ことを前提として、まずはブレスト的に制限時間5分でフレームを埋めてみました。
この段階では調査等は行わず、思い付いたことのみを記載しています。

3C分析_5分で埋めてみた(筆者作成)

問いを立てる

5分で記載した内容をもとに、それぞれの箱についてこれから確認したいことを記載していきます。

  • 市場
    ①市場規模は全体でどの程度?
    ②業種としては、中小零細企業では建設業・
     飲食業が多い?
    ③中小企業診断士へ相談する領域としては、
     後継者不足に関する相談
     (廃業・M&A・人材紹介等)が多い?
    ④補助金申請事業(申請のための事業計画書
     作成)の規模はどの程度?
    ⑤中小企業診断士と顧問契約を結んでいる
     中小零細企業は何社程度?
    ⑥中小企業診断士以外に経営相談を行う
     割合は?
    ⑦今後、コンサルティング需要は増加する?

  • 顧客(個人)
    ①経営者の平均年齢は?
    ②中小零細企業の内、赤字企業の割合は?
    ③中小零細企業のIT導入率はどの程度?

  • 業界
    ①中小企業診断士資格保有者数の推移は?
    ②独立診断士の割合は?
    ③独立診断士の年収は?
    ④補助金申請業務に関して他業種からの
     参入はどの程度?

  • 競合企業
    ①中小企業診断士として何を強みとしている
     人が多い?
    ②資格取得者の出身業界は?

  • 自社(自分)
    ①自分が認識している強みは、競合と比べて
     優位性がある?

検証する

それぞれの問いに対して、調査した結果を記載していきます。

中小企業・小規模事業者・地域経済関係予算案等のポイント,https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/yosan/r4/r4hosei-r5touhso_point.pdf

⑤中小企業診断士と顧問契約を結んでいる中小零細
 企業は何社程度?
→顧問契約数は不明だが、中小企業診断士のメイン
 顧客は従業員数6~20名程度の企業となっている

㈱野村総合研究所「中小企業の経営課題と公的支援ニーズに関するアンケート」

⑥中小企業診断士以外に経営相談を行う割合は?
→日常の相談相手としては税理士・公認会計士が6割
 程度
とトップ
 中小企業診断士等のコンサルタントを相談相手と 
 する割合は2~3割程度

㈱野村総合研究所「中小企業の経営課題と公的支援ニーズに関するアンケート」

 ⑦今後、コンサルティング需要は増加する?

中小企業診断士の所属先,https://www.j-smeca.jp/contents/data2016/p01.html
中小企業診断士の所属先,https://www.j-smeca.jp/contents/data2016/p01.html
  • 顧客(個人)
    ①経営者の平均年齢は?
    →中小企業の社長の年齢別構成比は、
     「70歳代」(27%)が最も高く、次いで
     「60歳代」(26.4%)、「50歳代」
     (22.7%)の順
    (令和4年中小企業実態基本調査速報(要旨),中小企業庁)

    ②中小零細企業の内、赤字企業の割合は?
    →国税庁の調査によると、じつに70%の
     中小企業が赤字経営
    に苦しんでいると言わ
     れている
    (平成24年度分法人企業の実態,国税庁)

    ③中小零細企業のIT導入率はどの程度?
    →人事、経理、コミュニケーションツールは
     半数以上が導入している

中小企業白書 2021年版
  • 業界
    ①中小企業診断士資格保有者数の推移は?
    →2018年時点で登録者数27,000人
     毎年約1,000人ずつ増加している
     他の資格と比較し、中小企業診断士の
     登録者数は少ない

中小企業診断士の登録者数の推移,https://www.shindanshi-webnote.com/number-of-registrants/
他の資格との比較,https://www.shindanshi-webnote.com/number-of-registrants/

 ②独立診断士の割合は?

中小企業診断士の所属先,https://www.j-smeca.jp/contents/data2016/p01.html

 ③独立診断士の年収は?

「中小企業診断士活動状況アンケート調査」 結果について,https://www.j-smeca.jp/attach/enquete/kekka_r3.pdf

 ④補助金申請業務に関して他業種からの参入は
  どの程度?

中小企業庁,https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2020/shokibo/b3_2_3.html
  • 競合企業
    ①中小企業診断士として何を強みとしている
     人が多い?

「中小企業診断士活動状況アンケート調査」 結果について,https://www.j-smeca.jp/attach/enquete/kekka_r3.pdf

 ②資格取得者の出身業界は?

「中小企業診断士活動状況アンケート調査」 結果について,https://www.j-smeca.jp/attach/enquete/kekka_r3.pdf

  • 自社(自分)
    ①自分が認識している強みは、競合と比べて
     優位性がある?
     →「財務」を得意としている独立診断士
      の割合は13.3%
      優位性の有無を確認するには、より
      具体的なサービスを調査する必要あり

競争戦略についての初期仮説

・中小企業経営者が日常的な相談相手としている
 割合のトップは税理士・公認会計士の6割程度
 であり、コンサルタントの割合は2~3割と低い
→税理士等は経営者と日常的に接点を有している
 ことが理由だと考えられる。独立する上では
 経営者との接点をいかに確保するかが重要

・中小企業向けコンサルティング市場の売上高は
 年間400億円程度だが、今後「事業承継」、
 「IT化」に関するコンサルティング需要の増加
 が見込まれる
→「事業承継」、「IT化」を進める上では各種
 専門家、従業員、出資者等の様々なステーク
 ホルダー間の調整を行う必要があり、今後、
 ステークホルダー間の「ハブ」となって調整
 できる人材が求められる


・中小企業診断士の登録者数は緩やかに増加して
 いるが、他士業と比較して少なく、業界内の競争
 は激しくないと考えられる
→同業者とは競合関係ではなく、
 協力関係を構築すべき

・経営者との接点を確保するための入り口として
 「専門性」は大きな武器となるが、経営者の
 ニーズとしては特定分野に特化した専門家
 よりも、経営全体を俯瞰した上で関係者間の
 調整を実施できる人材
が求められていると
 考えられる。
 今後の課題として、以下2点について追加で
 調査を行いたい。

①中小企業経営者との接点を確保するために
 何をすべきか?
②事業承継、IT化推進における関係者調整スキル
 とは具体的に何か?

5.おわりに

今回は、3C分析のフレームワークを利用して問いを立て、検証結果から初期仮説を構築するという一連の流れを実施してみました。

今後、より詳細な分析や、5F、SWOT、
バリューチェーン等のフレームワークについても
書きたいと思います。

本稿の最後に、大相撲の宮城野親方(元横綱 白鵬)の言葉を引用しておきます。
スポーツに限らず、経営においても基本の型を身に着けておくことは重要だと思います。

まず基本を大事にし、型をつくること。
型ができたときに型を破ること。
まさに、"型をもって型にはこだわらない"。
そうすれば必ず強くなっていくんじゃないかと思います。

元横綱白鵬 引退会見より



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