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第3回 森のおはなし

【森とスープと絵本のおはなし会】
◇おはなし:かずぅ(森のスープ屋の夜)、聞き手:高橋香苗(DOOR)
◇日時:2020/1/9,場所:DOOR

ある雪の日に小さな森と出会いました。暗闇にぽつりと見えたのはあたたかな炎のゆらぎ。その灯りに導かれて晩秋にスープ屋をはじめました。春夏秋冬をいくつか過ごし、やがて一冊の絵本ができました。 扉の向こう側でみた森とスープと絵本が奏でた世界。長い旅のほんの一瞬、深く刻んだのは真っ赤な記憶。 
かずぅ

第1回:絵本のおはなし
第2回:スープのおはなし
第3回:森のおはなし


第3回
森のおはなし ~皆さんにお茶をお出しして~

香苗さん
それではそろそろはじめていきます。そういえば、はじめに聞くのを忘れてましたが、なんでスープだったんでしょうか? きっかけはなんだったんでしょう。

かずぅ
何屋さんでもよかったんです。パスタ屋さんでも、おむすび屋さんでも。ただ空間を創りたかったんです。きっかけは、20年前のオーストラリアの旅です。旅の前に、東京のデパートで化粧品売り場にいました。今の姿からは想像しづらいですね。当時はお化粧を厚さ3cmぐらいしてて(笑)お昼休み1時間のうち55分はお化粧直しをしてました(笑)食事は5分!仕事は、とても華やかな世界で誇りを持ってしているつもりでしたが体がむしばまれていきました。頭ではすごく楽しかったけど体がついてこない。ある日どうしても仕事に行きたくない日があって、サボって本屋さんに行ったんです。そうしたら"地球の歩き方"という旅の本があって、その中でもオーストラリアが輝いて見えたんです。手に取って読んでから、色々な事を尋ねたいとすぐにダイヤモンド社という出版会社に行きました。着いて「本を編集した人に会いたい」と言うと出てきてくださって現地の話を沢山してくださいました。(外国に行った人が身近にいなかったのでこの様な手段しか想い浮かばず、、、)そして3か月後仕事も薬も辞めてオーストラリアに行くことに。そこで出会ったのが大きな病院の横にある小さなホスピス。私の原点となる場所との出会いでした。いのちの最期を迎える人たちが国籍も宗教も関係なくその人らしく過ごす場所。それまで生と死はモノクロの世界と想っていましたがそこはピンクや赤、とてもカラフルな世界でした。私の服装を見ておばあちゃんたちに「地味だからピンク着ましょうよ」と言われてました。なんて素敵な場所なんだろう、いつかはこんな場所を作りたいなと強く思いました。思ったものすっかり忘れて20年の月日が流れました。スープ屋が建ちオーストラリアの旅の話を知る建築士さんが十字の窓をつけてくれてたんです。窓を見ていたら、あの時のホスピスでの時間と結びついた瞬間があって、はっとしました。カタチを変えてスープ屋という空間になったのです。

香苗さん
20年目に「はっ」と思って。そこにいきつくまでに面白い出会いがありますね。想いというか一生懸命さって伝わるんですね。人って純粋に向かって来られると嬉しくて受け入れてしまうんです。計算も打算もない、本を手にして、感動して、本を作った人に会って、言葉をもらう。オーストラリアには何日間行かれたんですか?

かずぅ
1年間です。滞在して2週間で高熱が出て汗と共に今まで溜め込んだものが溢れ出ていきました。壊していた体も薬なしで一気に良くなりました。その出来事で"心と体は繋がっている"の言葉の意味を知ることができたようです。

香苗さん
身をもって経験したことが繋がって、スープ屋さんになっていますね。20年経ってから思い起してみると今こうなってる。

かずぅ
目標とか夢ではなくて、"こうなってしまった''という感じです。

香苗さん
そう思うと、自分の中での出会いがその時はそうなるか分からないけど、心は知ってしまっているから、現実が後から追いかけてくる。その最中は、今何をやっているんだろう、これからどうなるんだろうと葛藤や迷いがありますね。

かずぅ
埼玉県から、鳥取県へ。免許もなくひたすら歩いて過ごしていました。人から「鳥取は山や海があっていいとこよ」って言われても、どうやって楽しんでいいのかわからず、鳥取に来て3年目、まだ小さかったこども達を両親に預けて再びオーストラリアに行きました。20年前と同じ青い海と空を期待して。
ところが海も空も一面グレーに見えたのです。期待と真逆の景色に悲しい気持ちになりました。行けば何かあると思ってたのに何もない。海岸でひたすら泣きました。その時、気づきました。「そうか、私の心が曇っているから何を見てもグレーにしか見えない。心が晴れてたら鳥取の空も青く見えるかもしれない。」少しづつやってみよう、帰国してから拒んでいた免許を取って、アルバイトを始めました。かよちゃん(※スープ屋をする前に10年間一緒に活動していた)に出会い、世界がどんどん広がっていきました。オーストラリアに行ってもつまらなかった。それが本当によかったんですね。もし当たり前に楽しかったら県外に出ないと満たされないということになっていたかもしれません。

香苗さん
気が付いて良かったですね。かよちゃんとは、どこで知り合ったんですか?

かずぅ
アルバイト先のカフェで出会いました。わたしがスタッフで、かよちゃんはお客さん。

香苗さん
カフェのスタッフとお客さんが仲良くなった。

かずぅ
かよちゃんは言葉を書く人でした。たまたま見ていたニュースに、かよちゃんが出ていて直感で会いたいと思いました。すぐに連絡して、カフェで再び出会いました。一緒に何かやろうという話をしました。そのあと、一緒にものづくりする人を応援したり、フリーペーパーを作ったり、りんご酢を売ったりしていました。その時に、画家やキャンドル作家さんなどものづくりをする人に沢山出会いました。作家さんの作品をお預かりして販売するときに、自分から見て「もっと値段をつけてもよいのでは」と感じる時がありました。作家さんにそのことを提案したんですが、でもなんかそれが無責任のような感じがして...。自分では責任をもって販売したいと思っても作品のことを全然分かってないんじゃないかと思う時がありました。そのときから自分でものづくりをやってみるしかないなと思って、自分が作っていく側に。

香苗さん
作っていく側に。スープ屋の前からためていたんですよね。そこでそう思えるということは必然だった。

かずぅ
手作りのものが好きで、それを伝えること喜びで10年やらせてもらいました。

香苗さん
楽しいことと本当の心の満足感は別なのかもしれないですよね。

かずぅ
そう思うと、最近楽にふわふわーって生きたいと思うんですけど、でも深いとこに聞いてみると、楽とか楽しいとかはあまり重要ではなく、もうちょっといろいろありそうな感じがしてます。

香苗さん
それは自分の心が?

かずぅ
はい。

香苗さん
みんながこれは楽しいでしょという楽しさではなくて....

かずぅ
ランチの営業も毎日楽しくさせてもらいました。でも深めるために「夜」へと変化しました。

香苗さん
夜を提供したい。

かずぅ
自分たちが感じたことをお客さんにおすそ分けしたいといつも思っています。森にいると夜が深くて長いことが喜び。しっかり夜を過ごした気がするんです。今夜は月明りが明るく満月だな。暗いからそろそろ新月かなとか感じながら夜を過ごす。目覚めた朝、太陽に会えただけで嬉しい。単純なんですけど、そんなことがすごく幸せだったりします。お宿はそんな日常の喜びを感じることのできる場所にしたいと思っています。

香苗さん
お宿に行った側としては、こんな贅沢はないですよね。朝日が昇ることはなかなかワクワク迎えれないし、日常生活では朝は当たり前にやってくるものって思ってしまいます。

かずぅ
目が覚めただけで感激する。これがうれしかったら、ほとんどのことがうれしいですね。たぶんそれは、ゆらゆらしながら弱々しくやって来てそれを認めているからで、弱さを知らなかったら当たり前に朝が来ていたのかもしれません。

香苗さん
聞いてみると、耕して耕して、こっちが楽でいい道だからっていう誘惑は全然眼中になく。だからこそ、朝日が人よりも嬉しいのかなぁ。それを他の人にもおすそ分けするその気持ちが、かずぅと藤川さんのお宿なのかなぁと思いました。お宿をしよう。しかも1組しかとらないでと決断されたのはどうしてでしょう。


かずぅ
それまでの計画は3組でもう少しにぎやかなイメージでした。ある時1組限定のコース料理を食べに行ったんです。1組の贅沢感にすごく満足して、帰りの車の中でマスターに「お宿は1組だね」と言ったんです。そしたら「えっ!」と驚かれました。でも結果、1組のお宿になりました(笑)

香苗さん
そこをつかむ感覚。ぐらぐらしていたらつかめないです。スープ屋をしながら、感覚を研ぎ澄ましていた。

かずぅ
1組のお宿を提案したら、マスターは一晩口を聞いてくれなかったです。またすごいこと言ってると。でも、次の日に考えてくれて「いいよ」と言ってくれました。

香苗さん
直感のかずぅと現実的な藤川さん(マスター)。その時の様子はどうでした?

マスター
はじめは1組の提案がなかなか受け入れなくて...。だけども過去を振り返ると、いつもかずぅの提案は結果オーライでうまくいっている。自分の感情が落ち着いて冷静になった時に、今回もいつものパターンかもなぁと思ったんです。そうしてもう一度よく考えて、「いける!」と思ったんです。流れも良かったですし。

かずぅ
それをきっかけに工夫してお金をかけない暮らしをすることに意識が向きました。手間隙かけてできることはする。作家さんに作ってもらうものやお野菜などにはしっかりかける。暮らしが変わってきたんです。自給自足に近づけたらと今は思っています。

香苗さん
そういう進み方って、これからから1つ先のことだと思うんです。すでに進んでらっしゃいますね。人が不安を感じることって健康もですけど、経済のことだったりお金のことだったりします。でもそれはなんとかなるってやってこられたんですね。暮らしをチェンジしながら。

かずぅ
今は、スープ屋の2階に仮暮らしで、荷物はトタンのケースと本が少し。屋根裏暮らしは、結構快適で3年以上になります。次は森の空いているところに小さな小屋を建てようと思っています。そこはつながれていない小屋で、水は近くの湧き水で、明かりはランタンや蝋燭でと思っています。七輪はもうスタンバイしています。お宿の水道工事の際、深く穴を掘ってパイプを宿に繋げていくのを見ました。もしそれが遮断されたら暮らしはどうなるだろうと考えたんです。自分たちの次のステップは、"線に繋がれてない暮らし"です。

香苗さん
屋根裏から小屋へ。でもしばらくはお宿なんですね。

かずぅ
お宿も形を変えながらやっていきます。「こだわっていますね」とよく言われるんですけど、こんな風にしかできないだけなんですよ。自分が「これだ」と思ったものを迎えたり、「この人だ」と思った方に依頼したりしているだけなんです。もしかしたら、お宿はこの先スープスタンドになってるかもしれないですし...。最後の最後は森でスナックをして終えると決めています。スナックは前に住んでいた家で遊びでやっていました。来る人には食材を持ってきてもらうお金がいらないスナック。食材やお酒は残ると次の方にじゅんぐりまわっていく。森の崖っぷちに小さなスナックを建てて最後は腐葉土になろうかなぁ(笑)

香苗さん
想像できますね。きっと、自分の居場所だから、楽しみながらやってたら、次がやってきてくれる。何が来てもオーケーなのかもしれませんね。

かずぅ
はい。そういうふうに思えるようになりました。

香苗さん
オーストラリア行く前、若いころの自分に「今はこんなに元気だよ!」って言ってあげたいですよね。

かずぅ
こんなに経験できるってありがたいです。色々な事が起きた意味がようやく分かりました。「そういうようになっていたんだな」と思うとありがたいです。

香苗さん
きっと宿に来た人は、こうしておはなしもできて、本当の意味でくつろげる。

かずぅ
お客さまには夕食の時にも「よろしければパジャマで、すっぴんでどうぞ」とお伝えします。お家以上に解放してくつろげる。いつもそんな空気を作りたいと思っています。そのためにはまず自分たちがリラックスしてお迎えしたいです。

香苗さん
自分の中で譲れない何かがあるから、それが空間になって、そこに人が来る。そしてお宿にたどり着いた。皆さんもそれぞれの変遷というかこころの変遷があって、こういうことがあって今の繋がりがある、今のおはなしを自分と照らし合わせて心に留めていらっしゃると思うんです。是非、皆さんのお声も聞いてみたいですね。

~参加者の方の感想を聞く~

香苗さん
皆さん、今日は最後までお付き合いいただきまして、ありがとうございました。

かずぅ
どうもありがとうございました。

※最後まで読んでいただきありがとうございました。ご感想などありましたらコメント欄の方にお願いしたいと思います。他のSNSでも受け付けております。

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