見出し画像

④頭部外傷患者の頭部CT, 頸椎保護の適応を知る!

細菌性髄膜炎をいつ疑うべきか, 疑ったらどうするべきかは理解できましたね?
今回は救急外来の外傷患者の中で最も頻度が高くしばしば遭遇する頭部外傷の患者さんの適切なマネジメントを考えていきましょう.

頭痛診療の心構え:頭痛 7 Rules

画像1

ABCの安定とともに首の保護を

滑って転倒し頭が痛い, 前方不注意で頭をぶつけて頭が痛い, 誰かに殴られ頭が痛い, スポーツ中に接触して頭が痛い, 救急外来ではしばしば出会います. 私は学生時代ラグビー部でしたが, 脳振盪など頭部の外傷は何度も経験しました.
頭部外傷患者の多くは軽症で, 派手に出血していても頭蓋内に特に損傷のないことが多いのが現状です. 外表から出血するとそれなりの量が出るためビックリはしますが, 圧迫止血し, 創部の処置をすれば問題になることは少なく, 通常は帰宅可能です.
初療時に意識することはいくつかありますが, まずはvital signsを安定させること, そして首を守ることを徹底して下さい. 独歩来院した症例であればまず問題ありませんが, 路上で倒れていた, 頭をぶつけた後に首を痛がっている, 両手に痺れを認めるなど首の損傷が否定できない場合には必ず首を固定し不用意に動かしてはいけません.
外傷の初期診療はJATEC®に則って行いますが, そこにも首を保護するべき状態が明記されており, 意識障害を認める場合, 後頸部に圧痛がある場合はもちろんのこと, お酒を飲んでいる, 腰部や大腿骨近位部など他部位の激しい痛みがある場合(こちらの痛みが強くて首の痛みを訴えない)などは, 例え高エネルギー外傷でなくても, 首が問題ないと自信を持って評価できるまでは固定を外してはいけません.

頭部外傷患者における頭部CTの適応

頭部外傷患者を診ると「とりあえず頭部CT!」とオーダーしがちですが, それではいけません.
ちょっとみなさん考えてみて下さい. どんなときにCTを撮影するべきか...後日追記します.

↓(ちゃんと考えましたか?笑)

頭部外傷患者に対して頭部CTを撮るか否か, みなさん基準を持っているでしょうか. 救急医をやっていると, 即座に判断はできるようになるものですが, 研修医など慣れないうちは基準を持っておくことが大切です. 漠然と必要そう, いらなそうというのはダメですよ.
現在多くの救急患者を受け入れている病院では頭部CTがいつでも撮影できることが多いでしょう. 研修医の先生方が働いている病院では頭部CTが撮影できなくて困ることなどないかもしれません. しかし, 場所や環境が変われば撮影できないこともあることを忘れてはいけません. クリニックや夜間では撮影できないこともあるんです. 撮影できるから撮影する, そのこと自体は否定しませんが, 常に撮影する必要性があるかを判断できるようになりましょう.
当たり前ですが, 被曝や費用の問題も考え検査は適切にオーダーすることが大切です. 頭部CTをオーダー(読影あり)したら, 約5,000円かかりますからね.

高エネルギー外傷(高所からの転落・墜落など)や重度の意識障害を認める場合などは迷わず頭部CTを撮影しますが, 独歩可能な意識清明な患者さんではどうするべきでしょうか?
軽症頭部外傷に対する頭部CTの適応を判断するいくつかのruleが存在しますが, Canadian CT Head Rule(CCHR)をここではお勧めしておきます(表)(1). 注意点としては,  これは受傷時に意識障害, 意識消失, 健忘を認める患者に対して使用するものであって, 玄関先で躓いて転んで意識清明な患者に対して使用するものではありません. もちろん参考にはしますが, 見てわかるとおりなんでもかんでもあてはめると高齢者は全て頭部CTの適応になってしまいます. また, 抗凝固薬を内服している患者や妊婦は除外され作成されたものですから, その場合には個々の症例毎に考える必要があります.

時間を味方につけよう!

頭部CTを撮影して明らかな外傷性変化を認めない場合には問題ないでしょうか. 慢性硬膜下血腫の話とともに「現時点では明らかな出血や骨折は認めませんが...」的な説明をすることが多いと思います.
救急外来で難しい, 悩ましいのは限られた時間の中で判断しなければならないことですよね. 受傷後すぐの来院と, 24時間以上経過して受診した場合とでは, 判断の仕方が異なりますよね. 1日経過してもなんら症状がないとなるとその後の悪化は少なそうです. また, 抗血栓薬を内服している場合には, 中止するのは簡単ですが再開時期も考える必要があります. 心房細動患者に対して抗凝固薬を中止し, 心原性脳塞栓症を引き起こしてしまっては...ですよね. 医療アクセスの良い本邦においては, 来院時に問題なさそうであれば慎重な経過観察を行い, その後の変化に応じて精査を行うという選択肢がとれそうです. また, 自宅での生活も考慮する必要がありますよね. 独居の高齢者と, 経過を診ることができる家族がいる場合とでは, 受診時の検査の閾値も変わってきそうです. 頭部外傷患者に対してとりあえず頭部CTをオーダーするのではなく, 必要性を一々考え対応するようにしましょう.

忘れてはいけない受傷機転

軽症頭部外傷患者において重要なこと, それは”なぜ受傷したのか”です. 携帯電話を見ていて前方不注意で頭をぶつけたのであれば, 原因は明らかで頭部の傷の処置に重きをおけばよいですが, 意識を失って頭部外傷となれば, 意識消失の原因検索が必要となります. 頭部CTを撮影して外傷性クモ膜下出血らしいなと思っても, 実は内因性の要素, すなわち動脈瘤の破裂に伴うクモ膜下出血で, 結果として頭部をぶつけたということもあるのです(画像でわかるだろうと思うかもしれませんが, 結構悩みますよ).
また, 虐待が原因ということもあり, 常に”なぜ”を忘れずに対応するのです.

参考文献

#1. Stiell IG, et al. The Canadian CT Head Rule for patients with minor head injury. The Lancet 357 : 1391-1396. 2001

Canadian CT Head Rule(CCHR):頭部CTの適応は?

画像2


ミュージカル好き救急医から, 知っているとチョコッと役立つ知識を少しずつお届けします. ぜひ!