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防音設計とコインシデンス

専門業者が疎かにしているコインシデンスの基本的な知識と留意点について触れます。※合成した画像の左側のグラフの出典:「建築・環境音響学」(共立出版、2011年第3版)

代表的な板状遮音材の主な音響透過損失(遮音性能)とコインシデンス周波数を画像の左側グラフに示しています。グラフに示してあるように板状遮音材は質量則と外れて遮音低下する周波数帯が存在します。
これは板状硬質系遮音材の特性です。

また、コインシデンス周波数は、音の入射角によって異なり、実際はもっと複雑に変化するため、遮音低下が生じる周波数帯の予測値を正確に算出することは難しいです。
このため、硬質遮音材だけで防音壁を構築すると、想定した遮音効果(防音効果)と実測値が乖離することが少なく有りません。

コインシデンスを考慮しない木造防音設計はナンセンス

コインシデンスを無視して木造の防音設計を行うことは、費用対効果を無視することにもなります。それは大半の専門業者が安全側の防音設計を行うため、構造体が非常に分厚くなるからです。当然、部屋が必要以上に狭くなるという弊害も生まれます。

例えば、狭い木造のピアノ防音室の防音壁を設計する場合は、出来るだけ薄い構造体を構築する工夫が不可欠です。
ところが、コインシデンスを考慮しないと、薄い防音構造で必要な性能を確保することが出来ません。
なので、コインシデンスを考慮しない専門業者には薄い防音構造の設計は出来ません。遮音パネルも大半が硬質遮音材です。

木造が得意な専門業者は使用する防音材や設計仕様そのものが、一般の専門業者とは異なります。

石膏ボードとコインシデンス

吉野石膏が東京大学生産技術研究所に委託した測定資料の画像を参照してください。(下の画像)
硬質系遮音材で多用される石膏ボードは、厚さを大きくしても遮音効果は改善されずに、コインシデンス周波数が低い方向にずれていくことが分かります。要するに石膏ボードを現場で重ねて施工しても、必要な防音効果を出すことが出来ないのです。
*硬質系遮音材を重ねても相乗効果は出ません。

とくに、幅広い周波数帯の音を出すグランドピアノの防音室においては、致命的な弱点を解消できずに失敗する現場が多いのは、この現象の典型的事例と言えるでしょう。面密度だけで計算する質量則にシフトした防音設計では木造のピアノ防音室に対応できません。

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