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木造と防音材(マニュアルに載っていない留意点)

前回の投稿で木造の防音設計において、色々な留意点があることに触れました。今回は木造と防音材についてしぼって重要かつ基本的な留意点を述べます。

キーワードは「素材の吸音性」「硬質な遮音材のリスク」「面密度と制振性能」です。

市販されている設計マニュアルや専門業者のウェブサイトには掲載されていないポイントについて説明します。

素材の吸音性と防音効果

木造は断熱材と木材などで出来ている吸音性のある建物です。そのため、この特性を生かした比較的薄い防音構造で構築することが基本になります。

遮音材にシフトした過大な重量物や分厚い構造体は、物理的な制約があります。とくに木造住宅では、限られた空間を狭くしない構造が望まれます。

また、後述する「硬質な遮音材」を多用すると反射音がきつい、費用対効果の低い空間になります。製品や工法によっては、小さな隙間から音が抜けていきます。柔構造には、適した工法や相性の良い防音材があります。

一方、軟質遮音材のうち、制振性能がある面密度の大きな防音材は木造との相性が良く、木造の遮音性不足を補完します。なお、リサイクルゴムを多く含んだ遮音ゴムマットや遮音ゴムシートは劣化しやすく、切り口が歪むため、突き付けても隙間が生じるので遮音欠損が起きます。

硬質な遮音材のリスク

硬質な遮音材には、石膏ボード、鉛の遮音パネル、ALCがありますが、共通した傾向として「低い周波数と高い周波数帯」においてコインシデンスなど遮音低下が起きます。

石膏ボードを重ねると反射音がきつくなるだけでなく、弱点となる周波数帯が低い方にずれていきますので、そのまま重ねても防音効果を体感できない周波数帯が生じます。

鉛の遮音パネルは、共振を抑える効果が小さく、音を吸収できないため、つなぎ目から、比較的高い周波数の音(子供や女性の声、楽器の高音など)が抜けていきます。同時に音響が悪化するので、木造音楽室には向きません。

また、鉛の遮音パネルをGL工法の壁面に重ねても防音効果は出ません。むしろ、今まで気にならなかった周波数の音まで気になるような現象が起きます。石膏ボードと同様に弱点が低い周波数の方へずれるためです。

制振効果の小さい硬質遮音材は重ねても弱点が解消されないので要注意です。

面密度と制振性能が小さい遮音シート

市販されている遮音シート(厚さ1ミリから1.5ミリ、面密度約3kg/m2未満)は、面密度が小さく、制振性能が乏しいので、壁面やボードに直接重ねても防音効果が殆ど体感できません。

これは私の担当した防音工事の木造現場だけでなく、音響学会が分析したデータにおいても同様な結果が示されています。

私の使用する取引先メーカーの受注生産品は、面密度が約6.0kg/m2から約9.8kg/m2ありますので、1枚重ねただけで、効果を体感できます。つなぎ目は密着性の高い気密テープでシールします。通常は複数の特性の異なる遮音マットや遮音シートを重ねて使います。

リフォーム業者やハウスメーカーが失敗する防音製品のベストスリーに、「市販の遮音シート」と「鉛の遮音パネル」が入っています。

取引先の建築士によると「鉛を多用する専門業者は迷信に取り憑かれた素人だ」と言い切っています(笑)。要するに市販の遮音シートや遮音パネル、断熱専用材のグラスウール、石膏ボードを多用する業者は「専門家」ではないということを示しています。

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