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木造ピアノ室と共振対策

今回の記事は、最も建築業者が失敗する「木造ピアノ室の防音対策」です。
ですが、専門業者も同様に失敗事例が多いにも関わらず、ネット上には情報が出てきません。
また、私の契約者である建築士も施工要領を殆ど知らないという事実は、新築の木造建物に構築するピアノ防音室を計画する施主には重大なことです。

他の記事でも触れましたが、建築士にも専門分野があり、通常は自分の専門外の設計は外注します。要するに万能な建築士は存在しないのです。
同じく、防音の専門業者についても得意分野がありますので、コンクリート構造のスタジオ防音室が得意であっても、木造の音楽防音室は殆ど成功した実績がない業者も多いです。

中でも木造防音室の壁と床の共振対策は、特にピアノ室では重要であり、これを失敗すると遮音性能が2ランク(10dB)以上低下します。それは防音壁や床が共振体となり、防音効果が下がるだけでなく、床の固体伝播音が壁面に伝わり性能を下げてしまうからです。(戸外への音漏れにつながる)

この現象を抑えるためには、防音材などを含めて分厚い構造体を構築しても余り意味がなく、木造の伝統的工夫を遵守する必要があります。
ベテランの職人が木造において経験的に床を施工する際に工夫する「遊びを設ける」という造作です。これを守るだけで壁との共振が軽減されます。

防音設計における共振対策

一般的には、防音材として壁と床に制振材を使用して、複数の遮音材に加えて、吸音材を併用します。
この制振材は主に固体音を絶縁・緩和する役目があり、総合的に音楽室全体の防音効果を向上させます。これが木造ピアノ室には不可欠であり、防音構造を薄くしてコンパクトな構造体にすることで、部屋を狭くしないようにします。

なお、床下や壁内に空洞部分がある場合は、吸音材を充填して対処しますが、床下空間では音の共振を吸収できれば良いので、全部を埋める必要はありません。全部埋めてしまうと、費用が嵩むだけでなく、将来の床下メンテ作業の邪魔になります。
また、床の共振対策では、大引きなどの軸組を補強することで効果を高めます。共振を抑えるだけでなく、適度なピアノの音響を生かすことが出来ます。音楽室の部屋全体で快適な音響を創出することに寄与します。
*床の軸組補強に対して費用をケチらないように注意してください。

共振対策の防音材

今までの防音材の記事でも触れましたが、振動を抑制したり、絶縁できる素材は限られており、製品化されて防音工事に使用されているものに絞ると、数種類しかありません。

一般的な総称では、「ブチルゴム」「高密度フェルト」「防振ゴム」「ウレタンマット」になると思います。
このうち絶縁も出来る製品は「高密度フェルト」と「ウレタンマット」だけになりますが、後者は余りにもふわふわするので床材・壁材を安定的に施工するのが難しく、重ねて施工する場合は不向きです。
*車ではウレタン素材を衝撃吸収材として使用されていましたが、建築の世界では主にカーペットの下に敷いて、足音を吸収するために使われています。使い方が限定されています。

板状の建築材や軸組材の共振を抑えるためには、「ブチルゴム」「高密度フェルト」「防振ゴム(樹脂マットを含む)」の3つに絞られますが、ブチルゴムは単価が高く施工の手間が掛かる割に十分な制振効果を出すのが難しいため、面材としては「高密度フェルト」と「防振ゴム」が製品化されています。

ただし、防振ゴムは特定の周波数の振動音を抑えられないだけでなく、同調してしまうのでリスクがあります。非常に製品選定が難しいです。
一方、高密度フェルトは製品そのものが少なく、防音対策で使用されている実例が殆ど公開されていません。
*防音職人でも2種類の製品しか実績がありません。

建築の防音設計の中では「制振材・絶縁材」の使い方が最も難しいと言えるかもしれません。

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