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鉛遮音材の迷信(木造・マンション共通の問題)

今回は古くから存在する鉛の遮音パネル、鉛のシート遮音材について述べます。これは私にとって重要な問題事例であり、欠陥製品です。

ある防音業者が使用しているソフトカームという遮音パネル・鉛シートですが、最初の失敗事例は私が防音工事をこのメーカーの事業部に外注した自宅の防音工事です。約25年前の事です。

また、私が防音設計の専門コンサルタントとして開業した頃、このエピソードをブログに投稿したところ、大分反響があり、同じ様な体験をした人(主に木造音楽室とマンションの防音対策)からの問合せが増えました。約15年前頃です。

木造ピアノ室の事例

上記の鉛の遮音パネル(鉛シートと石膏ボードを接着した製品)をピアノ防音室の天井と壁に施工したピアノの先生からの相談が最初でした。

防音工事完了後に、防音効果はなく、室内の反射音が強くなって最悪の音響になったそうです。ソフトカームの遮音パネルを専門業者に施工してもらったあとで、このような状況になったと聞きました。

鉛は音を吸収できないので、パネルのつなぎ目から中高音域の音が漏れます。同時に室内の反射音が強くなり、ピアノの音楽室としては音響が悪化します。ピアノは低音から高音まで幅広い周波数帯の音を出す楽器のため、音漏れが改善できないだけでなく、音響が悪化することになります。

製品の特性と工法に問題があります。音を吸収できない、反射音がきつくなるため、音楽室や生活空間の防音対策には向かないのです。

私は、開業した頃に、この事例に直面し、「コインシデンス」や「音響特性」について勉強しました。反面教師として、貴重な実例となり、マニュアルには書かれていない事実を実践経験を通じて学びました。これが私の防音設計の原点です。

鉛の遮音パネルはGL壁・振動対策には無力

鉛のシートは間違いなく、薄い遮音材の中では最も比重の大きな素材です。質量則の計算では最も防音効果が高いと評価されていますが、これは音エネルギーの吸収・制振という効果を無視した結果、このような迷信が独り歩きしました。

マンションや事務所ビルのGL工法の壁に鉛の遮音パネルを重ねて施工しても、振動音には全く効果がないだけでなく、今まで気にならなかった周波数帯の振動音まで悪化して逆効果になります。

要するに鉛シートは制振性能が乏しいということの証です。振動を抑えることが出来ないだけでなく、悪化させることがあります。

はっきり言って、石膏ボードの二重張りよりも酷いです。上記のような経験をしてから、私は25年以上の間、私の防音設計では一度も鉛は使用していません。

ネット上には、俄専門家が溢れており、防音対策には鉛が有効という情報が出てきます。鉛の防音実例で効果があったのは、手づくりの防音ドアに使用した例のみです。つなぎ目のない小さな区画には、面密度に応じた防音効果は出ます。極めて限定的な使い方しか出来ない費用対効果の低い製品です。

殆ど役に立たない市販の遮音シートは実害はないので、鉛の遮音パネルに比べるとマシですが、市販品には想像だけで遮音効果が十分に発揮されるような説明があります。実例を精密測定で検証していない製品は要注意です。

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