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防音設計の専門家と処方箋

私の本業の仕様書・計画書は、医療の処方箋に該当するものです。

これは、多くの専門家が既往の事例とメーカーなどの試験データを、建物構造や施主(依頼者)の用途・防音レベルに応じて作成して提示するもので、最も重要な設計・計画の図書になります。

この部分に、専門家のノウハウが詰まっており、費用対効果や性能に直結します。私の場合は次のようなフローで検討します。

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設計手法や施工要領は、専門家・専門業者によって異なりますが、メーカーなどの傍証資料だけでなく、自分の担当現場の実測値、依頼者と一緒に体感して生の経験値をストックします。業界のマニュアルや古い事例も加えて、総合的な判断を行います。

これが私(防音職人)の提案根拠になります。

傍証データは施工条件や構造によって変化する

製品メーカーの資料は、小さな試験体で現場とは異なる環境や拘束(固定)条件で計測されたものであり、実物の現場での効果とは乖離することがありますので、傾向として把握する意味はありますが、鵜呑みには出来ません。

担当現場や取引先の現場での実測によって補正する必要があります。上記の検討フローで一番先に「現場での計測データ・効果の体感」を記述しているのは、このためです。

しかし、専門業者と自称する建築会社の多くが、手間のかかる検証を省き、メーカーの既製品の試験データと質量則だけで防音設計を行っているのが実情であり、大きな課題です。

それには現場の建物構造による特性や施工条件を殆ど考慮していません。

このため、世の中には隠れた失敗事例が巷に溢れることになるのです。ネット上には実例が殆ど公開されていない理由が、そこにあります。

傍証データなどの資料は、あくまで自分の手持ちのカードの一部なのです。

構造物や現場の面積規模だけで設計仕様や見積を作成しても意味がない

大半の防音設計・工事の専門業者は、依頼された建物・部屋の規模に応じて、自動的に見積書や仕様書を作成して、施主(依頼者)に提示します。なので、即日でPCソフトで作ることができます。

一方、私の仕様は手づくりの経験則や建物特性など個別の要因を総合的に勘案して検討し、間取り・構造およびライフスタイル、近隣環境などの諸条件を考慮して計画することから始めますので、とても時間がかかります。

すでに、今年は私の作業キャパを超えかけており、すでに新規案件の処理能力いっぱいの状況です。じっくりとお待ちいただける契約者の仕事しか対応できません。

面積だけのどんぶり勘定の概算見積は無意味です。それには費用対効果が全く考慮されていません。無駄に分厚い防音構造や構造体の改造が、施主の希望とはかけ離れて計画されるのは、施主(依頼者)には、とても不幸なことであり、資産価値も低下します。

限られた空間を浪費するような防音計画はナンセンスだと思います。木造でもマンションでも同様です。

防音相談におけるスタンス

私は、今までの投稿記事において述べてきたように、とても気難しい専門家です(笑)。契約金額だけで仕事を引き受けることは稀です。

それは自営業であり、現在は専従者を雇っていないので、あまり金額の大小に拘る必要がないのです。採算性さえ確保できて、依頼者が誠実な対応をしてくれればOKです。

情報もご家族を含めてライフスタイルを隠さずに教えてほしいと考えています。ご近所の人間関係も重要です。ハード面の対策だけでなく、ソフト面を考慮して費用対効果を考えることは重要です。

図面資料だけでなく、生活の器として、近隣環境の特性は重要な判断材料になります。色々な情報や前提条件を考慮するために検討に時間がかかります。私にとっては普通のルーティンなのです。

※参考事例:木造防音室 | 木造ピアノ室・音楽室

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