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ショートショート「咳は止まったし二人」

「あ、どうも」
「あ、どうも」

咳が止まった二人が、だだっ広い空間に
距離を開けて座っている

数世紀前
とある感染症が世界を揺るがし
それ以前とそれ以降で
世界のありようは変わってしまったと
歴史の教科書にも記されていた

この二人もまた、その世界のありようの変化に
翻弄されているのだった

「そちらは?」
「ごほん、ごほんごほん、うっ!ごほん!でした」
「なるほど、新しいパターンですね」
「そちらは」
「うっ!うっっ!ぐぉっ!ごほん!でした」
「そちらは2年前に流行った咳に似ていますね」
「はい、それでこちらの検査センターに」
「まぁ、止まったみたいでなにより」
「そちらも」


公共の場で咳をすることが激しく忌避され
軽蔑の眼差しを向けられる時代
人々は、咳一つで検査に向かうのだ

この二人の様な人は、後を立つことはなく
咳が止まった人間が次から次へと
現れては消えを繰り返すのだった

「こんなことがいつまで続くんでしょうね」
「さぁ」


※お題は自由律俳句の雄「尾崎放哉」の
「咳をしても一人」
のオマージュ

お題提供:「劇団文机と熊」安永隆人
https://twitter.com/lutex10565536?s=21&t=NR_IMX_LD9NGYHqrfcF4sA

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