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ショートショート「のどごしの神」

「飲んだくれの、えんの助」

むかしむかし。
それはそれは荒々しい川があった。

毎年のように荒れ狂い、人々は川から離れるように暮らしておった。
川からの水を引けず、畑の作物もうまく育たなかった。
困り果てた村人たちは、今日も集まり話し合いをしておった。
「はぁ。あの川を何とかできれば、皆の暮らしも楽になるのにのぉ。」
村一番の長老が悲しそうにつぶやきおった。
「そんなら、おいらに任せくれ。」
と、村一番の飲んだくれの「えんの助」が名乗りを上げおった。
「えんの助、その気持ちは嬉しいがお前さんに何ができる。」
「おいらの取り柄は飲むことだ。あんな川、酒と思えばいっきに飲み干せる。」
わっはっはと、村人が大笑いすると、えんの助は膨れ上がり
「笑いおったな!次、川が荒れた時に飲み干してやるからな!」
「わっはっは、楽しみにしておるぞ。えんの助。」

そして、大雨が降り、川が荒れ狂った。
川から離れ、鎮まるのを待つ村人たちをかき分け、えんの助は川に向かう。
「ばかたれ!おまえはほんとに飲み干せると思っておるのか!」
「じっとしておれ!死んでしまうぞ!」
「いいから見ておれ!」
そう息巻くと、えんの助は荒れ狂う川に向かい口を大きく開くと
ガブガブと飲み干し始めた。
川はえんの助の口から溢れることなく、するする飲み込まれていく。
「ありゃあ。あれは、どうなっとるんじゃあ。」
みるみるえんの助に飲み干され、川は大人しい元の姿を取り戻すと
そこに、えんの助の姿はなかった。
「えんの助え!何処に行ったんじゃあ!えんの助え!」

いくら探しても見つからないえんの助は
荒れ狂う川を喉越しよく飲み込んだ「のどごしの神さま」としてこの地に祀られ
村人たちは、年に二回「喉越例祭」を開いて、えんの助を讃え続けたそうな。

めでたしめでたし。

bow


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